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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
番外編章

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【番外編】ベンジャミルタの家族旅行 前編(ベンジャミルタ&リオニャ&ミドラ&タルハなど) 【♢】

※2022/06/12に投稿した番外編を番外編章に移動させたものです

 移動に際して少し加筆修正しています


作中の時期:第十三章のワールドホール閉塞作戦の後、タルハが五歳を過ぎた頃

出演キャラ:ベンジャミルタ、リオニャ、ミドラ、タルハ、アイズザーラ


■簡単なあらすじ:

ベレリヤへ観光目的で旅行に行くことになったベンジャミルタ一家。

彼らは息子のタルハを交えて演劇などを楽しみますが……?




「ベレリヤに観光旅行……ですか? 外交目的ではなく?」


 レプターラにしては涼しい朝のことだった。

 ベンジャミルタの発案に驚いたリオニャはタルハを着替えさせながら聞き返す。

 外交のために様々な国を飛び回ることはあった。リオニャの代に変わるまで閉鎖的だったレプターラは諸外国との繋がりが弱く、そのパイプ作りにも必要だったのだ。


 しかし、それはあくまで仕事でのこと。


 初めて訪れる国に足を踏み入れても観光を楽しむ機会は少なく、あったとしてもそれは友好的だと国民に示すためのアピールであり、周りには常に国の代表たちの目があった。一日かけて心ゆくまで自由に過ごしたことはない。

 しかもふたりの息子は母国で留守番だ。


 ベンジャミルタは朝食を用意しながら頷いた。


「タルハには早いうちにレプターラ以外の国も見せてあげたくてね。もちろんリオニャさんに抵抗感があるなら断っ……」

「行きたいです行きたいです〜!」

「元気な返事だ!」


 食い気味な姿を見てベンジャミルタはにこにこと笑いながら「じゃあ決定だね」と長い耳を揺らした。


 そうしてベレリヤへの旅行にはベンジャミルタ、リオニャ、タルハ、ミドラの四人だけで赴くこととなった。

 国のトップが揃って出掛けることに批判も出るかと思われたが――周囲からは存外、ベンジャミルタたちの背を押す声が多かった。


「国も安定してきたし大丈夫ですよ」

「そうそう。それにベンジャミルタさんたち、これまでほぼ休みらしい休みもなかったじゃないですか」


 リョムリコとミロンドはそう言い、土産話をお願いしますねと笑った。

 ベンジャミルタは頭を下げつつ微笑む。


「ごめんよ、みんな一気に連れて行くにはちょっと距離があって危ないから……」

「あら。気遣い無用ですよ、ベンジャミルタさん。今はまだ息抜きより仕事が楽しい時期ですしね」


 以前の国の惨状を知っているからこそ、新しい国のために働くのが楽しいのだとミロンドは老いてなお力強く腕を曲げてみせる。

 そんな会話の傍らでミドラはメリーシャと言葉を交わしていた。


「土産はなにがいい? もちろん土産話とは別枠だ」

「あはは、私だけ置いてけぼりで寂しいなって思ってたけど、リオニャとミドラのふたりからお土産を貰えるのは贅沢でいいな!」


 そう明るく笑いながらメリーシャは「ふたりが選んでくれたものならなんでもいいよ!」と親指を立てる。

 しかしその笑みはすぐに苦笑いに変わった。


「というか、ベレリヤになにがあるのか知らないんだよな。前行った時は観光しなかったし、なんならその辺に生えてる花とか石でもいいけど――」

「その辺の花や石!? いやいやそこは欲張ってくれ。……よし、じゃあメリーシャに喜んでもらえるように張り切って選んでこよう」

「うん! 今度私が行った時に案内できるよう、じっくり見て回ってきてくれよ」


 そう言って、メリーシャはミドラとリオニャの手を片手ずつ握った。


     ***


 かつて、リオニャはベレリヤのような人間と異種族が共に暮らす国を目指したいと口にした。それは我が子の未来のための決意だった。


 その話を聞いてからベンジャミルタは思っていたのだ。

 いつかリオニャにベレリヤを直接見せてあげたい、と。


 ある大きな戦の後、ベレリヤへ行くこと自体は叶ったものの、メリーシャの言っていた通り観光する余裕もなく用事が終わり次第母国へとんぼ返りすることになった。

 あれでは『他国の空気を吸っただけ』に近い。

 ベンジャミルタがしたいのは他国の文化や風習に直に触れることだ。


 結婚する前のベンジャミルタは転移魔法を活かして各地を転々としており、その行き先にはベレリヤも含まれていたが、もう随分と前の話だった。

 当時は人里から離れて仙人のような暮らしをすることを好んでいたこともあり、ベレリヤという国の知識は輪郭がぼんやりとしていた。

 そんな知識を元にした話でも、リオニャはとても興味深げに耳を傾けていたのを思い出す。


 ――過去のレプターラではベレリヤの悪い話ばかりが『本当のこと』として流布されていた。それは人間と異種族が共存している国が目障りだったからだろう。

 豊かな大国として敵視していたというのもあるが、それも含めてレプターラと真逆であり、詳細な差を国民が知れば不満が噴き出すのは必至だったのだから。

 井の中の蛙も大海を知らなければ不満を言うことはない。


 そんな中でもリオニャは夫に聞いたベレリヤの話を信じ続け、そして目標にしていたのである。


 だからこそ、ベンジャミルタはリオニャと今の国を目指すきっかけになった息子のタルハは早めに連れて行きたかったのだ。

 そして他の妻たちやメリーシャたちは留守番となってしまったものの、彼女たちもいつかは同じように目標となる国を見せてあげたいと考えている。

 レプターラ生まれレプターラ育ちで国外に疎い者も多く、新しい世界を知る第一歩を手助けしたかった。きっと様々なことを学んでくれるだろう。


(……もうタルハも五歳になった)


 見聞きした記憶は多かれ少なかれ頭に残るはずだ。

 息子にも良い学びがありますように、とベンジャミルタは心の中で祈る。


 今回の話が迅速にまとまったのはレプターラに滞在して協力してくれているナスカテスラのおかげだった。

 彼はベレリヤの宮廷治療師であり、その肩書きの前に筆頭と付いても良い地位に長年就いていた人物だ。

 王宮に関わった年月ならベレリヤの国王アイズザーラよりも長い。

 そんな彼がベレリヤと話をつけ、あっという間に話がまとまったのである。


 お忍びとはいえ他国のトップが大きな理由なしに訪れるのだ。

 かつてバルドをベレリヤへ帰す際にベンジャミルタが自前の転移魔法を使えなかったのもこの辺りが理由だが、国内が落ち着き、そしてベレリヤと連絡した上で許可が出ているのなら問題ないと判断した。


 ベレリヤへの移動には転移魔法を使う。

 船や馬車より安全で早い、そして帰りも早いという点によるものだ。


 なお、護衛を付ける予定はない。

 第三者から見ればミドラが護衛に見えただろうが、彼女は家族の一員として同行していた。

 担っている仕事柄ベンジャミルタのほうが世間への露出が多いものの、ベンジャミルタもミドラも『王のパートナー』という同等の立場である。

 そしてそんなふたりはそれぞれが魔法と戦闘技術の手練れだった。


 なにより『レプターラ王本人』が凄まじく強い。


 その結果「生半可な護衛を付けるより動きやすい少人数のほうがいいだろう」とこういう形になったわけだ。

 とはいえ心配からの反対意見もあったが、距離による転移魔法の人数制限やお忍びであることを説明して納得してもらった。



 初めに四人が訪れたのはベレリヤの王都ラキノヴァの外れにある大木の下だった。

 この木はベンジャミルタが転移魔法でベレリヤに訪れる際によく目印として使っていたもので、失敗の可能性を少しでも下げるために今回もここの座標を使ったのだ。

 訪れる日時は先立ってベレリヤ側に知らせていたため、目的地に出るなり出迎えがあった。


「リオニャ陛下とそのご家族様ですね。ようこそいらっしゃいました、私はベレリヤ騎士団の騎士団長ランイヴァルと申します」

「わ! ご丁寧にありがとうございます~。リオニャと申します!」

「リ、リオニャさん、王様がそんなに低く頭を下げちゃだめだよ。……ベンジャミルタだ。手を煩わせてごめん、しばらく世話になるね」


 ベンジャミルタは傍目から見てもわかるほどワクワクそわそわとしているリオニャを連れ、案内を買って出たランイヴァルについていく。

 お忍びといっても挨拶は大事なもの。まずはベレリヤの王であるアイズザーラたちと会食をし、その後に観光をしようという話になっていた。


 そんな会食の席にて――


「いやあ、レプターラとは長い間ええ感じの国交がなかったからな。ここらでお互いに仲良うさせてもらえるようになったら嬉しいわ。これからも宜しく頼むで!」

「はい! こちらからも宜しくお願いしますね~!」


 ――王同士の会話にミドラは目を丸くしていた。

 どうやら会話内容よりもアイズザーラの話し方に面食らっているようだ。ベンジャミルタはミドラに小声で補足する。


「あれはベレリヤの王族訛りだ、レプターラにはないから驚いたかい」

「す、少しだけ。しかし人柄の良い王だ、……やっぱり昔聞いた話に信憑性なんて欠片もなかったんだな」


 アイズザーラとベンジャミルタは深い交流があったわけではないものの、ある事件をきっかけに顔を合わせたことがある。

 一方、ミドラは同じ敷地内にいたが直接会話をすることはほとんどなかった。

 あったところでアイズザーラは他国の関わる公の場では基本的に王族訛りを封印するため、この王族らしからぬとっつきやすさを知る機会はなかなかなかっただろう。


 改めて認識を正したミドラは肉料理を口に運び、そして料理が凄まじく美味しい、と表情を緩めた。

 そこへアイズザーラがパチパチと手を叩く音が響く。


「よっしゃ! ほな今度はこっちから正式に友人として招待させてや、めっちゃ豪華な宴開いたるからな!」

「ぜひぜひ~! そうだ、うちも甘いお芋を改良して名産品にしようと考えてるんです、上手くできたら贈らせてもらいますね!」

「そらええわ、コックにメニュー考えさせとかんと!」

「ははは、和気藹々としてるけど国王間の会話だとは思えないな……」


 しかもレプターラ側は全員に異種族の血が入っているというのにアイズザーラが嫌そうにしている雰囲気は見て取れない。当たり前のことのように受け入れている。

 ベンジャミルタは笑みを浮かべながらその光景を眺めた。

 いつかレプターラでも普通に見られるようにしたい光景だ。


 ——リオニャとタルハに見せたいがためにベレリヤへと足を運んだ。

 しかし国に携わる立場になってから訪れると自分も以前とは感じ方が変わったらしい。不思議だな、とベンジャミルタは心の中で思いながら肉を口に運び「たしかに美味いね!」とミドラに笑いかけた。


     ***


 会食後。

 当初は「一般人に混ざってラキノヴァの市場を回ってみようか」というふんわりとした、しかしその場その場で対応を変えられる臨機応変な予定だったが、食事の席でアイズザーラが「行き先が決まってへんのやったらオススメがあるで」と教えてくれた場所へ赴くこととなった。


 アイズザーラのお勧めの場所、それは演劇ホールである。


 多種多様な演目が入れ代わり立ち代わり披露されている場所であり、紹介されたホールはラキノヴァ内で一番の大きさを誇る会場だった。

 演劇に縁の薄かったリオニャとミドラは食い入るように観劇していたが、芸術に疎いベンジャミルタは途中で理解が追いつかなかった――が、それはベレリヤで特に盛んな筋肉信仰を前面に押し出した演目だったからかもしれない。


(救世主が偶然出会った一羽の筋肉ペンギンに導かれ、筋トレを繰り返して秘宝のプロテインを手に入れ、大ボスのウロボロスを打ち倒した後に筋肉ペンギンがじつは筋肉の神だったと判明するってストーリーだもんな……)


 ネタバレ極まる情報だが、子供に害がないか確認するため事前にパンフレットで確認しておいたのである。

 モデルはなんとなく察せるが、理解ができるかというとそうでもない。

 神妙な面持ちで舞台を眺めていたベンジャミルタはこっそりと息子、タルハの様子を覗き見た。


 タルハは赤ん坊の頃から大人しい子供で、落ち着いていることが多かった。

 今日も一度もぐずっていない。

 その様子はベンジャミルタやリオニャよりも祖父のアズハルによく似ている。顔つきも成長するたび祖父に似てきていた。


 しかし『大人しいか否か』と『楽しめているか否か』はイコールではないのだ。


 大丈夫だろうか。

 小さい子にも理解できているだろうか。

 暇そうにしていたらこっそりと抜け出すのもいいかもしれない。

 ベンジャミルタはそう思いながら視線をやったのだが――タルハは未だかつてないほど輝く瞳で舞台を食い入るように見ていた。その表情はリオニャそっくりだ。やはり親子である。


(だ、大丈夫そうだ。……なら俺も最後まで見るか)


 心から楽しめなくとも、楽しんでいる家族が傍にいるならそれでいい。

 そう思い直し、ベンジャミルタは姿勢を正したが――まさかの三時間越えの超大作だったため、途中から修行僧が如き表情となったのだった。







挿絵(By みてみん)

はるの七式さん(@7shiki_524)に依頼したリオニャのイラストです(掲載許可有)

掲載希望へのご快諾、そして素敵なイラストをありがとうございました!


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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