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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1065話 ペルシュシュカ、羞恥の濃淡を楽しむ

 未来の確認を頼むならペルシュシュカしかいないと伊織は以前から考えていた。


 ヨルシャミの自動予知は任意で使えない。

 自在に使用できたシェミリザもすでにいない。


 予知はエルフノワールなら誰でも使えるわけではなく、ヨルシャミを含む限られた一族の中に時折そういった力を持つ者が生まれる。つまり稀有なものだ。

 中にはペルシュシュカのような窮められた占術魔法により同じ効果を得られる魔法もあるが――伊織は自分の信頼している者に任せたかった。


 そして「ついに来たわね」と眉を下げたペルシュシュカに伊織は笑みを向ける。


「はい、信頼している人に任せたいので来ました」

「信頼は嬉しいけど、アナタが思ってるより未来を見ることって怖いのよね。来るって一報を貰ってからはちょっぴり憂鬱だったわよ」


 恐ろしく悍ましい未来を直視するとシェミリザのように壊れかけながら苦しみ、最後には道を間違えてしまう可能性がある。

 ペルシュシュカはシェミリザを哀れに思う気持ちがあったが、自分に同じことが降りかかるのは極力避けたかった。だというのに救世主直々のご指名である。


 そう愚痴を零しながらペルシュシュカは足を組んで腰掛けたイスを軋ませた。


 現在、ペルシュシュカが暮らしているのは以前住んでいたベレリヤのエブラエドラだ。ミッケルバードの一戦後、ペルシュシュカは彼なりのサポートを各地で行なってから住み慣れた土地へと舞い戻ったのである。

 今日はエブラエドラに続く街道に伊織がワイバーンで舞い降りたため一時的に騒然としたものの、普段は富豪層が多いこともあり警備が厚く、とても平和且つ平穏とした街だ。


 その平穏も短かったわね、などと呟きながらペルシュシュカは立ち上がると、扇子で口元を隠しながら囁くように伊織に訊ねた。


「――けどあの約束、覚えてるわね?」

「も、もちろん」

「ならいいわ、不安だけど同時に楽しみでもあったの。だって……」


 ペルシュシュカは背後に設置されているクローゼットをがばっと開く。


 その中には煌びやかなドレスから完全にコスプレ衣装ですねとツッコミを入れたくなるようなものが所狭しと並んでいた。

 そう、以前伊織がペルシュシュカに約束した『彼に未来を確認してもらう報酬』は他でもない『一回につき好きなだけ女装をする』というもの。

 それをペルシュシュカも伊織も忘れていなかった。

 幸いなことであり、そして残念なことでもある。


 伊織は太陽を直視したような目をしながらペルシュシュカに問い掛けた。


「あのー、それ、もしかして全部僕のサイズで作ってあります?」

「ええ、この日のためにコツコツ作ってきたの!」

「僕、最後にペルシュシュカさんに会った時より成長したと思うんですけど、もしかして誰かにサイズを訊いたりとか……」

「してないわよ、最後に会った段階から予測しただけ。女装が絡んだ時のアタシの計算能力ナメんじゃないわよ」


 ひえ、と思わず声を漏らした伊織は咳払いをすると仕切り直す。


「の、望むところです。これは僕から持ち掛けたことでもありますから」

「あら、良い男気ね。着飾らせるのが楽しみだわ」


 ペルシュシュカはにやりと笑うと、おもむろにクローゼットの中から服を一着手に取った。紺色の襟には白い線が入っており、胸元にはリボンがある。スカートは襟と同じ紺色をしていた。


 それはどこからどう見てもセーラー服だった。伊織サイズの。

 ご丁寧にニーソックスとシューズと手さげ鞄も用意してある。


「……」


 どこからセーラー服の知識を取り込んだんですか。

 ナレッジメカニクスですか。それとも過去の転生者が持ち込んだんですか。


 そう考えつつも口に出さなかったのは――覚悟を決め、男に二言はないと自分に言い聞かせた伊織の努力の賜物である。


     ***


 ペルシュシュカの「やる気に関わるから前払いで頼むわよ!」という希望により、伊織は到着した昼前から翌日の夕方まで様々な女装をすることになり、その中でもペルシュシュカが特に気に入ったものは一時間ほど着たまま食事をしたりリクエストされたポーズを取ることになった。


 これ、約束したこと以上のサービスをしてないか?


 そんな考えが脳裏を過ったものの、負い目のある伊織はそのすべてを完璧にこなしていく。

 ただし、さすがに女性ものの水着姿でビーチバレーの特訓に燃えるポーズを要求された時は恥ずかしさと難解さに少しばかりフリーズした。


 なお、都合上ペルシュシュカの家で一晩泊まることになったが、その時に貸し出されたパジャマも女性向けのデザインだった。

 伊織の目にはよくわからないが、ペルシュシュカの故郷では主に女性が身に着けていた民族衣装的な面のあるパジャマらしい。白っぽい作務衣に似ている。


 羞恥心を煽られず伊織としては助かったが――チョイス的により強いフェティシズムを感じ、結局寝心地は微妙であった。致し方のないことである。

 一方ペルシュシュカは己の『女装男子にはノータッチ』を厳守し、吸うことはあっても触れることは一度もなかったが、それでも満足したのか終始ニコニコしていた。


「衣装によって羞恥の濃淡があるのが素晴らしいわね、それだけでも五千点あげたいところだわ。それに直前に見せた男気とのコントラストも思った通り素敵! アタシの目に狂いはなかったわ!」

「そ、それはどうも……」

「全部しっかり記憶したし満足よ、これで迷わずに進められそう」


 あれを全部記憶したんだ……。

 そう遠い目をしていた伊織は言葉の後半を耳にしてパッと顔を上げる。


「それじゃあ、ついに……」

「ええ」


 ペルシュシュカは優美な作りの筆を手に取ると、赤い化粧の走る目元を細めた。


「シェミリザの跡を継いで――今一度、未来を確かめてみましょうか」

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