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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1058話 悪鬼羅刹どころではない 【★】

 ベルは村人たちをひとつの建物に集めると、自分は外へ出て魔獣たちを相手に立ち回っていた。


 ベルが使える結界魔法はゴースト系の魔獣に特化したものだ。

 そのため、今回のような物理的な肉体を持つ魔獣相手には使えない。

 だからこそ村人たちを一ヵ所に集めて自力で守ることが一番効率が良かった。建物を囲うように風の障壁を作り出せば結界の代わりにもなる。


 しかし、いくら高位魔導師でも物量で押されると不利になるというもの。

 そう身を以て感じていると――ベルの作った風の障壁を突破した狼が血だらけになりながらも襲い掛かってきた。


 ぎゅっと眉根を寄せたところで狼の体を天から落ちてきた雷が貫く。


 酷い臭いの黒煙を上げながら崩れ落ちた狼の向こうに降り立ったのは、ごうごうと燃え盛るマントを羽織った伊織だった。

 黒い三つ編みが風に揺れ、それを束ねるヘアゴムに着いた貝殻の飾りが鈍く光を反射する。ベルはそれが伊織の『家族』のひとりから貰った貝殻を加工したものだと聞き及んでいた。


 ベタ村を旅立った時よりも成長し、いつの間にかベルの身長を追い越して大人になっている。

 そう改めて感じ、畏れ多い考えではあるものの育ての親のひとりとして感慨深く感じていたベルは――あることに気がついて冷や汗を流した。


 村にとっては守護神のような存在だというのに、まるで闇に堕ちた悪神だ。

 とにかく顔が怖い。

 特に目が怖い。

 闇夜に光る一対の金色をした目に睨まれたかのようだった。

 悪鬼羅刹どころではない。


 そうぽかんとしていたベルに伊織が声をかける。


「大丈夫ですか? 討ち漏らしが多くてすみません」

「い、いえ、私こそ油断してしまって」

「村の人たちが避難してるのはここですね? 護衛にリーヴァとサメを置いていきます、死角はふたりに任せてください」


 そう言って伊織は真っ黒なワイバーンと炎を噴かしたサメを召喚した。

 そのまま倒れた狼から器用に魂を抜き取り、別の場所へ飛んでいこうとしたところでハッとしてベルに言う。


「あのっ……ヨルシャミが産気づいたんです、落ち着いたら村医者に声をかけておいてもらえますか? ステラリカさんが到着するまで見ていてもらえるとありがたいんですが……」

「も、もちろんです! わかりました!」


 ベルの返答を聞いた伊織はホッとした顔をし、いつも通りの柔和な笑みを浮かべると「じゃあ続きをやってきます」と今度こそ飛び立つ。


 ――ベルが伊織の戦っている姿を見るのはこれが初めてだ。

 過去に弱い魔獣を退治した際はベルが駆けつけた時にはもう終わっていた。

 そのため戦っている時はいつも《《ああ》》なのかと危惧したのだが。


「……なるほど、それは怒りますよね」


 すべてを理解したベルはそう呟き、ワイバーンたちには負けていられないと風の障壁を一層強化した。


     ***


 村の周辺に溢れかえっていた魔獣たちは伊織、ミュゲイラ、ニルヴァーレ、静夏たちによって退治され、一部は命と引き換えに村人を道連れにしようと試みたがリーヴァたちの援助を受けたベルが阻止した。


 伊織は自分が倒した個体ではない魔獣の魂も見つけ次第取り込んで還していく。

 死んですぐならこうした芸当も可能だ。

 つまり伊織は彼らを見捨ててヨルシャミのもとへ駆けつけることができない。


 やきもきしながら最後と思しき魂を手繰り寄せていると、森の方角からニルヴァーレが高く跳んできた。


「イオリ! 森に逃げた魔獣はいなかったみたいだ、覚悟を決めての総力戦だったみたいだね」

「よかった、ありがとうございます」

「さっきミュゲイラもシズカを呼びに行った。ただあっちは建物の被害があるから少しかかるかもしれない」


 なら僕もそっちに、と言いかけた伊織をニルヴァーレが制止する。


「君はヨルシャミのところにいるべきだ」

「ニルヴァーレさん……」

「それに村人たちも気後れしちゃうよ。ほら、早く行こう」


 伊織は頷くと最後の魔獣の魂を自らの内側へ取り込み、己の魂にぶつけた。

 ぱちん、と耳に聞こえない音がして還ったことを確認する。


 その時、静夏たちの家がある方向から人を呼ぶ声が聞こえた。

 ――呼ばれているのが伊織であり、呼んでいるのは聞き慣れた声だと気づいた頃には手を振って走ってくる人影が見えていた。


 伊織は口を半開きにして一歩前へと出る。


「伊織! ……っ伊織!」

「バ……バルド!? か、回復したのか!? 良かっ……ングッ!」


 走ってきた勢いのまま抱きつかれた伊織は思わずくぐもった声を漏らした。

 魔獣を相手にしていた時には一度も出なかった声だ。


 弓なりに反りつつもなんとか倒れずに受け止めきり、伊織はバルドの顔を見る。

 銀の髪に焦げ茶色の目、馴染みのあるその顔はバルドに違いなく、瞳には長らく見ることの叶わなかった意思が宿っていた。

 自然と涙目になっていた伊織は次のバルドの一言にぎょっとする。


「再会を喜びたいが細かい説明は後だ、ヨルシャミのところへ行ってくれ! 生まれるぞ!」

「!? えっ、わっ、わかっ、わかった!」

「今は村医者が来て診てくれてるから慌てすぎるなよ!」

「なるほど、それなら僕はこのままステラリカを呼びに行くよ。……バルド、後でシズカたちにもちゃんと挨拶しなよ」


 僕はいいからさ、と言いながらニルヴァーレはあっという間に転移魔石でその場から消え去った。

 ――こっちのことは気にするなという意思表示だ。

 それを察して伊織はバルドの腕を引く。


 一緒に行こう、と。








挿絵(By みてみん)

伊織のお父さん事情(一部は十章辺りの情報)(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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