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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1054話 ベタ村の我が家へ! 【★】

 伊織たちを出迎えた静夏は笑顔で四人と一匹を家に招き入れ、帰ろうとしていたリーヴァも「夕飯くらいは食べて行くといい」と呼び止めて食卓に招待した。

 テーブルにはミュゲイラが狩ってきたうさぎの肉と食べられる野草で作られた料理が並び、暖かな空気が漂っている。


 バルドをイスに下ろすと起きていたのか支えなくても座っていた。


「ほらバルド、これ母さんが作ったんだって。めちゃくちゃ上達しただろ?」

「……」

「今なら自分でスプーンを持てたりするかな……」


 伊織はゆっくりとバルドの右手にスプーンを握らせたが――それは握っているというよりも『そういう形にされている』だけだった。

 伊織が補助の手を離すとすぐにバランスを崩したスプーンは床に落ちてしまう。

 慌ててそれを拾い上げた伊織は「やっぱりダメか、ちょっと洗ってくるよ!」とシンクへ駆けていった。


 そんな息子の背を見送りながら静夏は眉を下げる。


「……伊織もつらいだろうに、なにも出来なくてすまないな」

「なにを言う、イオリがバルドの面倒を見ると言ったのは相応の覚悟があってのことだ。もちろんなにかあった際にすぐ対応出来るように、というのも大きいが」

「うむ……」

「それにシズカよ、イオリは頼ることも今はしっかりと覚えた。今回ここへ越してきたのもそうだ。目一杯世話になるぞ、私も含めてな」


 見上げながらにやりと笑ったヨルシャミに笑い返し、静夏はしっかりと頷いた。

 その隣でミュゲイラがバルドの鼻をむぎゅっと摘まむ。


「お前、少しでも早く戻って来いよ? シズカの姉御が待ってるんだからな」

「……」

「あとさ、あたしも言いたいことがあるんだ」


 ミュゲイラは鼻の次は頬をうにょうにょと引っ張りながら言った。

 なお、ミュゲイラの力で引っ張られたためなかなかの伸びっぷりである。


「これで元に戻ったら語り草だね!」

「そ、そうであるな……」


 それをじっと見ていたリーヴァがバルドの顔を覗き込みながら首を傾げて訊ねた。


「不老不死は一定のダメージを負うと健常な状態に回復すると聞きました。ですので一度頭を両断してみては?」

「うわーっ! なんか最近聞いた中で一番エグい提案された! いやまァ検討したことはあるけどさすがに……なぁ?」


 ちらりと静夏を見つつミュゲイラは頬を掻く。

 あれだけの目に遭った人間を更に苦しめるのは遠慮したい、それが総意だった。

 脳は正常な状態に戻るかもしれないが、不老不死でもバルドは痛みを感じるのだ。


 加えてこの状態の原因が脳にだけあるわけではない、そんな可能性もある。


「やるにしても最終手段であろうよ。それに情報もまだ少ない。シァシァやセトラスたちが各々忙しくしていなければ詳しく検査できるのだが……」

「あはは、僕が使える施設の機器は限られてるからね」


 ニルヴァーレもナレッジメカニクスに長く所属していたが、シァシァたちのように科学や機械学に特化した幹部ではなかった。魔導師のため気質は似ているが戦闘要員としての面が強い。

 それでも転移魔石を使うノウハウはあるのだから規格外ではあるが。


 そう話していると伊織がスプーンを持って戻ってきた。


「あれ? なんの話してたんだ?」

「む。ああ、これから世話になるぞという話だ。私も身重故な」

「そうだ、ヨルシャミよ。食事は普通にとれるのか?」


 静夏の問いにヨルシャミは「問題ない」と頷く。

 つわりはあったものの、フジにより妊娠期間が大分スキップされた影響か初めの数週間だけで済んだのだ。

 ヨルシャミは席につきながら「おかげで美味い食事を遠慮なく食べられるな」と笑った。


「まぁ、この次の機会は自力で乗り越えねばならんだろうが」

「……ヨルシャミ、お前すでに腹ん中の子の弟か妹を生む気で……!」


 ミュゲイラの言葉にハッとしたヨルシャミは耳の端まで真っ赤にする。


「ののの望んではいるが、このような場で堂々と言うつもりはなかっ……ええい、もう! 忘れよ!」

「あ、えっと、ヨルシャミ、僕頑張るよ」

「イオリも今それを言うでないわ!!」

「い、いや、長命種って子供が出来にくいみたいだから、ホントに頑張らないとなって思って……」

「お前、混乱して夢路魔法の世界より口が滑っているぞ!?」


 見れば伊織も頬を赤くしていた。

 そこへニルヴァーレが笑いながら他の面子にも席に着くよう促す。


「ほらほら、君たちのやり取りでお腹がいっぱいになってしまいそうだよ。今ここで腹に入れて満たすべきなのはこの料理たちだろう?」

「そ、そうだそうだ。シズカよ、頂くぞ!」

「うむ、おかわりもある。遠慮なく食べてほしい。あと」


 静夏はドンッと一抱えもあるほどの瓶をテーブルの上に置いた。

 料理が数センチ浮いてから綺麗に着地する。


 瓶の中にはオレンジ色の液体が入っていた。


「手製のプロテイン入りミカンジュースだ」

「お……」

「おお……」

「ブドウジュースもあるぞ」


 それは恐らく部屋の端に置かれている同じサイズの瓶のことだろう。

 そして、そこにも漏れなくプロテインが入っているのだ。


 妊娠中のプロテインは適量なら問題はない。

 ヨルシャミも飲みすぎるつもりはなかったが――


「これは……なんというか、うむ、元気すぎる子供が生まれそうであるな」


 ――思わずそう呟くのを止められなかったのは、致し方のないことである。








挿絵(By みてみん)

ポッキーの日に描いたヨルシャミ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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