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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1053話 里帰りの理由はふたつ 【★】

 バルドは狭間から伊織に永続召喚される形で帰還した。


 しかし五体満足だったものの、意識が完全に戻ったわけではないのか自分から言葉を発することはなく、それどころか眠る時間が増えている。

 一日に何度か覚醒はする。

 しかし起きている間も上手く意思疎通ができないまま——帰還から数ヶ月が経ち、伊織たちは春を迎えようとしていた。


「ヨルシャミたちはずっとこのままなんじゃないかって心配してるみたいだけど……僕はそうは思わない。狭間じゃ考えられなかったくらい回復してるもんな、バルド」


 少し伸びたバルドの髪を結いながら伊織は微笑む。

 時間の流れが異なるため、帰還したバルドの髪は再び長く伸びていた。それを綺麗に切り揃えたものの、春までの期間に再び伸びたのだ。


 無精髭はないが髪型だけは出会った当時のバルドそっくりになった。

 ただしあの頃より手入れがされているからなのか、髪質が落ち着いて跳ねた部分は少ない。髪質だけならオルバートに似ている。

 そんなバルドは伊織の介助は必要だが食事も行なえるようになっていた。

 感想はないものの表情が和らぐため、伊織はその時間が好きである。


 髪を結い終えた伊織はバルドを抱え上げて外へと向かう。


 ――帰還したバルドをキャッチした際は嬉しさで気にならなかったが、見た目よりも重く感じるのは脱力している影響だろうか。

 もっと鍛えないとな、と考えながら伊織が屋外へと出ると、先に外で待っていたヨルシャミたちが片手を上げた。


 それに伊織も言葉で応える。


「お待たせ! そっちの準備は……」

「万端だ。荷物は先に運んである」


 今日はバルドを伴ってベタ村の静夏たちが住む家へと移動することになっていた。

 バルドの回復を優先するなら隠れ家ではなく静夏たちがいる場所へ移ったほうがいいだろうと判断し、暖かくなる春を待って出発することになったのだ。


 静夏とミュゲイラもあれから何度か隠れ家に足を運んでおり、そのたびしばらく滞在して世話を焼いている。そんなふたりからの申し出があったのも大きかった。

 ただし、理由はそれだけではない。


「しかし新たに必要になる物品に関しては買えなかった故な、あちらに着いたらライドラビン辺りで見繕おう」

「ラキノヴァの職人に任せたほうが美しく機能的なものを買えるんじゃないかな?」

「あー、王都に行くとアイズザーラたちが気を利かせて恐ろしく豪奢なものを手配しそうで怖いのだ」


 ニルヴァーレの質問にヨルシャミはギラつく室内を想像して眉間にしわを寄せ、ゆったりとした服の上からでもわかるほど膨らんだ腹部をぽんぽんと撫でた。

 内側から蹴った足に応えたのだが、手の平に蹴りで変形した腹の形が伝わってきて不思議そうな表情に変わる。

 ここしばらくのヨルシャミは新しい経験にこういった顔をする機会が増えていた。


 バルドの帰還後、フジの恩返しによりヨルシャミの腹にはシェミリザの魂の欠片を持った子供が宿ったのだが――世界の神が『ズル』をした結果、その成長速度はエルフ種どころか人間をも越えていた。


 恐らく半年前後で生まれるのではないか、というのがわざわざレプターラから駆けつけたステラリカの診断結果である。

 事後承諾だったこともあり、長々と母体の胎内で育む負担を減らしてあげようという神の気遣いなのだろうが実に思考が人外じみていた。


 その出産時期を見越して静夏たちの住むベタ村へ自分たちも引っ越そうということになり、隠れ家から引き払うのが今日だった。


「念のため転移魔石を使わないでおこうと言ったのは私だが……ここからリーヴァに乗って長旅か、体調を崩さぬようにせねばな」

「リーヴァも張り切ってたよ、そこでふたりで考えたんだけど――」


 伊織は広場で待機していたワイバーン姿のリーヴァに近寄り、その背中に出力魔法で卵を半分に切ったようなものをふたつ作り出す。

 少し個性的な浴槽のような形状だ。

 ヨルシャミがクエスチョンマークを浮かべていると伊織が笑みを浮かべて説明し始めた。


「これ中が二層構造になっててさ、衝撃を分散させることができるんだ。上下左右の揺れにも強いよ、安定性も……なんか……こう……ニワトリの首みたいな感じ!」

「ニ、ニワトリの首」

「上空の空気抵抗と酸素の薄さは僕の風魔法で調整予定なんだ、ニルヴァーレさんと何度か実験したけど地上と似た環境を保ててた」


 しかしそれを何日も続けると魔力の消費がとんでもないことになるのではないか。

 そうヨルシャミが疑問を口にすると伊織はなんでもないことのように笑う。


「魔力召喚とテイムを同時にするから問題ないよ。あとこの衝撃分散器のおかげでリーヴァも全力で飛べるから時間も短縮できるし」


 ――狭間で何年も魔力を削られ続けてきた者にとっては、本当になんでもないことだった。


 それでも心配げな表情を浮かべるヨルシャミに伊織は嬉しそうな笑みを向ける。

 ヨルシャミが心配しているのは安全性ではない。伊織の身を案じてのことだ。

 その気持ちがよく伝わってくるのが伊織は嬉しかった。


「大丈夫、代わりに向こうに着いたらヨルシャミの作ったシチューが食べたいな」

「わ、わかったわかった。手によりをかけて作ってやろう」

「あ、材料を揃えたり切ったり火の番は僕とニルヴァーレさんがやるから」

「それは私の手料理と言えるのか!?」


 伊織は「なるなる」と答えながら先にバルドを器に寝かせると、今度はヨルシャミを抱き上げてリーヴァの背中に乗る。

 そのまま器へと導き、自身はヨルシャミたちの前に座った。

 ニルヴァーレも意気揚々と、そして当たり前の顔をして伊織とヨルシャミの間に腰を下ろしたが、更に当たり前の顔をしてその頭の上にウサウミウシが乗る。


「こら、せめて膝の上にしてくれないか」

「すみません、高いところから見渡せるのが好きみたいなんですよね……」

「ニルヴァーレの頭に乗るのが好きとは奇怪なマイブームよな」


 ヨルシャミの散々な感想などまったく気にしていない様子でニルヴァーレはしばらく考え込み「まあ美しい風景を見たい気持ちはわかる!」とウサウミウシの搭乗を許可した。

 風景を美しいと思う感性がウサウミウシに備わっているかは未知中の未知だが、敢えてそこには触れずに伊織はリーヴァの背中をぽんと叩いて合図を送る。


「――よし、じゃあ行こうか!」


 そして、四人と一匹は隠れ家から離れベタ村を目指すべく大空へと舞い上がった。








挿絵(By みてみん)

フジ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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