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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1035話 オレのこれからの人生に

「は? お前、もしかしてあの時のガキ……、……か?」

「お久しぶりです、バルタスさん」


 久方ぶりに耳にしたバルタスの声が途中から疑問たっぷりなものに変わったのは、伊織の目線が自身とそう変わらない身長になっていたからだろう。

 バルタスはクジェッタにある土産物屋で働いていた。

 朝と昼はここで働き、夜は短時間ながら酒場で下働き兼用心棒をしているそうだ。

 また、土産物屋で使用する木材は硬いことで有名で、一本伐るにも時間と手間が必要になる。その調達を担っているのもバルタスらしい。


 土産物屋の裏手には店主の家があり、その二階を宿として使用させてもらっていると移動しながらバルタスは説明した。


「犯罪歴のある余所者なのに拾ってくれた恩人でな。……今は真面目に働いてる。だから釘は刺さなくても大丈夫だぞ」

「あはは、べつに釘を刺しにきたわけじゃないですよ」


 どうだか、と言いながら部屋に伊織たちを通したバルタスは「薄いが無いよりマシだろ」と茶を振る舞う。

 と、そのタイミングで伊織の鞄からウサウミウシが顔を出し、なにやら茶を飲みたそうだったため、バルタスはもうひとつカップを置いた。

 やはり根は良い人なんだなと伊織は目元を緩める。


「それにしても変な生き物だな。お前、テイマーだったのか?」

「一応サモンテイマーですかね……普通の魔導師みたいなこともやってます」


 伊織の魔法は世間一般的な魔法と魔力に直接命じる出力式があり、後者はまったく普通の魔導師の枠には当てはまらないものだったが、ややこしくなるためここで深く突っ込むのはやめておいた。

 それでもバルタスは感心したように声を漏らし――そして真面目な表情になると体を前に傾ける。


「そんなに成長したのなら……今日来たのは不死鳥に関してか? 殺せたのか?」


 釘を刺しにきたのかと言いつつ、バルタスも初めに伊織と再会した時からそれを期待していたのだ。

 そう感じながら伊織は頷き、そしてミッケルバードのワールドホール閉塞作戦で目にした紫色の炎を思い返す。


 シェミリザに『使われて』いたその炎に意思は感じなかった。

 それを不死鳥と呼んでいいものか迷いながら、しかし今話せることはすべて伝えるべきだとバルタスに説明し始める。


 ――不死鳥はナレッジメカニクスに回収された後、どういう経緯かはわからないが魔獣に転じたシェミリザの力の一部になった。

 ただし自我は無く、ただ単に変形自在な紫の炎として。

 その炎もシェミリザと共に討たれて消えた。


 そう聞き終わったバルタスは片膝を立てて座ったまま低く唸る。


「……そういうことだったのか。いや、戦場の英雄譚は何度か耳にしたんだ」

「あ、あぁ、あのなんかちょっと擽ったいやつ――」

「演劇もあったしな」

「いつの間に演劇になったんですか!?」


 あの日あったことが当事者の知らないところで様々な展開を見せていた。

 ぎょっとする伊織に「お前もカッコよく活躍してたぞ」と小さく笑いながらバルタスは視線を向ける。


「そこで紫の炎についてもチラッと扱われてた。が、攻撃の演出程度だったな。それも納得がいった」

「……その、すみません。不死鳥を討つって約束を守れたことになるかわからないんですが、これが全てです」


 バルタスは一旦手元を見るとゆっくりと口を開いた。


「その炎、親父の姿にはなったか?」

「……いえ」

「じゃあお前、あれからボシノト火山がどうなったか把握してるか」

「以前と同じ状態に戻りました」


 今もその状態が続いているのか自分の目で確認するため、伊織はナレーフカたちとララコアを訪れた際に火山まで出向いている。

 初めに火山がおかしくなったのは不死鳥の影響だ。

 元に戻ったのはその影響が完全に取り払われた結果である。


 しかし最初の不死鳥事件の際、火山はすでに落ち着きを取り戻していた。

 だというのにワールドホール閉塞作戦で紫の炎がお目見えしたということは、不死鳥が死んでいなくてもなんらかの方法、もしくは特定の状況下なら影響も死んだ時のように消え去るのではと思ったからこそ報告に来たのだ。


 ――その詳細はシァシァが知っていたが、彼もまた約束を守るために決戦後も詳細を口にすることはなかったことを伊織は知らない。


 頷いた伊織を前にバルタスは指を組む。

 年齢を重ね、自分の父親そっくりになった指を。


「ならいい。仇はもういないってことだ」

「バルタスさん……」

「勘違いするな。これは妥協じゃねぇぞ。お前と約束したオレがそう思ったからだ」


 バルタスは伊織を見据えた。


「お前はアレを殺した。もう確かめようのないことなら、オレはそう思いたい」


 伊織はちゃんと約束を守った。

 バルタスはそう言っているのだ。

 バルタスにとって不死鳥は仇であり、父親の姿を模倣という達で奪った憎らしい対象でもあった。そんな不死鳥が今現在この世におらず、そして父親の姿も手放したのなら、もうこれでいいということである。


「奴の一片たりとも残さずに追い詰めて消したいって憎むこともできるけどよ、それはさすがに疲れちまう。復讐はどこかで終わりを見つけなきゃならねぇ。その終わりを決められるのは自分だけだ」

「……ここでおしまいにするんですね」

「あぁ。それによ、オレは今の暮らしを気に入ってんだ。そこに復讐心を持ち込むのは、なんつーか……もったいないだろ」


 だから、とバルタスは言いづらそうにがしがしと頭を掻く。

 そしてそっぽを向きながら言った。


「――ありがとよ、イオリ。それに、あー……ここの店長のことを恩人って言ったけどよ。その……お前のことも恩人だと思ってる」

「……!」

「だ、だから不死鳥についてはここまでだ! 今後新しくわかったことがあったって律義に報告なんてしなくていいぞ。オレのこれからの人生にアイツを関わらせる気はねぇからな」


 言い捨てたように聞こえるのは照れ隠しからだろう。

 伊織は微笑みながらバルタスの手を取って握手を交わす。


「その人生があなたにとっても、そして周りの人にとっても良いものになることを祈っています、バルタスさん」


 ――こうして、紫の炎に関する敵討ちは幕を閉じたのだった。

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