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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1034話 青空渡る水の鳥

 翌朝、ベタ村の自宅にて。

 伊織が目覚めるとヨルシャミとニルヴァーレに挟まれていた。

 ニルヴァーレはあのまま前言撤回せずに伊織と並んで寝たのだが、ヨルシャミはその隣のベッドに入ったはずだ。伊織もしっかりとそれを見届けた。


 ――が、起きてみればサンドイッチ状態である。

 ダブルベッドとはいえ体格の良い男性を含む三人が並ぶと見事にミチミチだった。


 ヨルシャミ曰く「よ、夜中にトイレに起きた時に間違えたようであるな! 私としたことが思わぬ失態を見せてしまった、ははは!」とのことだったが、ニルヴァーレは「僕とイオリが一緒に寝てるのを見て気が変わったな?」と見透かすようにニヤリとしていた。

 恐らくこの幼馴染の予想は当たっているのだろう。


 それを微笑ましげに眺めていた静夏とミュゲイラに見送られ、伊織はベレリヤ北部を目指して出発した。


 最終目的地はクジェッタだが、まずはニルヴァーレが地形をよく理解しているララコアへと転移魔石で向かう。

 まだ時期的には早いとはいえ座標指定に影響が出る積雪を警戒してのことである。

 そこから自力で移動しつつ積雪の有無をチェックし、再び転移魔石を使っても雪中に出ることはないだろうと確認してから目的地への距離を縮めていった。


 そうして一週間ほどかけてクジェッタへ続く街道へと辿り着き、伊織はホッと息を吐く。

 想定よりも時間がかかった。

 理由は単純明快、道中で魔獣と遭遇したせいである。


「雪狐の魔獣が出た時はどうなるかと思ったけど、なんとかここまで来れたね」

「うむ、まさか幻術を駆使してこちらの服を脱がしてくるとは思わなかったぞ……」


 雪狐の魔獣は個体としては弱いものだったが、幻術で相手を『暑くて暑くて堪らない』という気持ちにさせて服を脱がせる特殊能力を持っていた。

 まさに狐に化かされたような形だ。


 実際には気温が低い土地で服を脱げばそれだけで命取りになる。

 特に寒さに弱いヨルシャミは危険だったが、その時はニルヴァーレが「これくらいで暑いだの寒いだの言ってられないよ!」とサクッと倒したため事なきを得た。

 ――平気なわりに脱いでいたが、伊織は敢えてその理由は訊ねていない。


「さあ、それじゃあこのまま道を直進すれば……おや?」


 道の先を眺めていたニルヴァーレが目を瞬かせる。


 ――否、道の先というよりも道が続く先に広がる空だ。

 青い空の向こうから同じ色の鳥が飛んでくるのが見える。

 それは全身が水で出来ており、小さな丸眼鏡をちょんと付けていた。


「魔獣……ではなく連絡用召喚獣か。この魔力はナスカテスラのものであるな」

「えっ、でもナスカテスラさんは僕らがここにいるって知らないはずじゃ……?」


 連絡用の召喚獣は見知った場所にしか行けないのが一般的だ。

 疑問を表情に出している伊織の目の前で水の鳥は降下し、飛沫を上げながら伊織の腕に留まった。

 そして体内に保管していた手紙をニュッと腹から出す。まるで鳥型の発券機だ。


 そんな鳥を間近で凝視していたヨルシャミが「おお」と声を漏らす。


「我々の持つ連絡用魔石の微弱な電波をキャッチして追跡するように仕込んだのか。ナスカテスラめ、召喚魔法が上手くなったどころか極めてきたな……」

「さ、さすがナスカテスラさん」


 むしろ何故今まで苦手だったのだろう、と伊織は思ったが、きっと苦手だったからこそ勉強に打ち込めたのだろうと考えを改めた。


 水の鳥から受け取った手紙は塗れておらず、封もしっかりされている。

 指先に小さな風の刃を作った伊織はその封を開けて便箋を広げた。

 もし緊急の招集や助力を乞う内容だったなら飛んでいく必要があるが――その内容は至極平和的、且つ意外なものだった。


「これは……セラアニスさんの手紙だ!」

「む? セラアニスの?」


 セラアニスは現実世界へと戻ってきた後、伊織から渡された魔力の塊を手にしばらく自由に行動することになった。

 その第一歩としてリータとサルサム夫妻の家へ遊びに行くことになったのだ。

 それが終わった後は兄のセルジェスと行動する話になっていたはずだが、手紙を見るに途中でナスカテスラと出会って伊織たちに一報を入れることにしたらしい。


 セラアニスはナスカテスラがニルヴァーレの診察をするために夢路魔法の世界を訪れた際に出会っている。

 久しぶりの再会を喜んだことが手紙には書かれていた。


「元気そうで良かったじゃないか。そう長く離れていたわけじゃないが、心配してたんだろう?」

「はい、体にも不調がないようで安心しました」


 これからもナスカテスラと行動している間は時々手紙を送ると締めくくった文章を眺め、笑みを浮かべた伊織は腕に水の鳥を乗せたまま再び足を進める。


 鳥は手紙の返事をセラアニスのもとへ持ち帰ってくれるらしい。

 そして返事を書くならひとまず街まで行くべきだろう。

 机やイスを出力してこの場で急いで書くことも可能だが、伊織も道中にあったことやベタ村でのことをゆっくりヨルシャミやニルヴァーレたちと相談しながら書きたい気分だった。


 そんな伊織の隣を歩くヨルシャミが微笑む。


「イオリよ、クジェッタへ行く目的がひとつ増えたな?」


 しかも心躍る目的だ。

 伊織はそんな気持ちを口元に出しながら「うん」と手紙を抱いて頷いた。

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