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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1029話 リータとサルサムのご報告

 久しぶりに現実世界でゆっくりできるのだから、軽食でも楽しもう。


 そうテキパキとリータたちが中心となって準備を進め、十分もかからずに簡易テーブルの上に手作りサンドイッチが並んでいた。

 レタスやトマトがふんだんに使われたものや、ツナマヨやキュウリがたっぷりと入ったもの、そして分厚い玉子焼きを挟んだものなど様々である。

 これは先立って合流していたリータとセルジェスが作ったものだという。


「セルジェスは今どの国を回ってるんだっけ」

「ベンジャミルタさんに話を聞いて気になっていたテン・レシャウだよ」


 セルジェスはサンドイッチを飲み下してから伊織の問いに答えた。

 テン・レシャウはベンジャミルタを雇っていた国だ。彼の妻であるレネーシャやミロンドの故郷でもある。


 決して上層部が情のある判断を下す国ではないが、その狡猾さが国内には良い影響を与えているらしく、旅人として入ってみると治安もそれなりに良くて活気があったという。


「良いとこ取りが上手い国みたいだ。人としてはどうかと思う面もあるけれど、国を育てる手腕はなかなかのものだよ。……見習うべきかちょっと悩んでる」

「あはは、たしかにそういう部分は見習うか迷うなぁ」


 親しげに話すセルジェスと伊織を交互に見てセラアニスはにこにことしていた。

 そんな姿を眺めて首を傾げたリータにセラアニスは照れたように微笑む。


「お兄さまとイオリさんが仲良くなった話は聞いていましたけれど、初めて自分の目で見たので、なんだか嬉しくて……」

「あぁ、なるほど!」

「義兄弟のようなもの、でしたよね。でも私がこうして蘇った後はどんな関係になるんでしょうか?」


 不思議そうにしているセラアニスにヨルシャミが肩を揺らして笑いながら言った。


「中身は違うが体の作りは同じだ。まあ世間一般的な枠に当てはめるなら今の私とお前は双子のようなもの。私が後からできた双子の兄弟姉妹だと思えば、セルジェスから見てイオリが義兄弟なのは変わるまい」

「後からできた双子の兄弟姉妹って面白い概念だよなぁ……」


 ヨルシャミとセラアニスは実年齢がある程度離れているものの、長命種から見ればそれほど大きな差ではないという。

 それなら違和感も薄いか、と伊織が考えているとリータが「あっ、そうだ」と手を叩いてからサルサムをちらりと見てから伊織たちに言った。


「私たちも報告があるんです」

「報告ですか?」


 はい、と微笑んでからリータはサルサムを手の平で指す。


「来月に結婚することになりました!」

「ふは、やっとか。サルサムもようやくその気に――」

「あと、その、一年半か二年後になりますが子供も生まれます」

「――まさかそれがきっかけか?」


 ヨルシャミが視線を向けると、その視線を受け止めきれなくなったのかサルサムが顔を背けつつ頷いた。


「俺としてはもっと、もっと順序を立てて行きたかったんだが、まあ思わぬことが色々あってな……」

「サルサムさん、おめでとうございます! 早くバルドに祝ってもらえるように僕も頑張りますね!」

「イオリ、そんな純粋な瞳を向けないでくれ……!」


 サルサムは更に顔を背け、もはや後ろを振り返りたいのではないかと錯覚するほどの体勢になる。

 伊織はその理由がわからず「おめでたいことなのに?」とクエスチョンマークを沢山浮かべていたが、ヨルシャミは「大方酒でなにかやらかしたな……」と真相に迫っていた。


 そこへサルサムが咳払いをする。


「まあ、もちろんめでたいし俺も嬉しいがな」

「サルサムさん、泣き笑いで凄いことなってましたもんね」

「そ、それは秘匿しておいてくれ、リータさん。……とりあえずイオリ、そっちは俺たちより更に計画的に物事を進めたい立場だろ。お前も気をつけろ」


 この場にバルドがいたら「先人の言葉を言う側に回ることで精神の安定を図ってるな?」などとツッコミが入りそうな状況であった。

 伊織は笑いながら「わかってますよ」と答え、隣のヨルシャミも同じように笑う。


「そも、長命種は元々子宝に恵まれにくい故な。片方が人間でもお前たちから見れば低い。むしろサルサムたちが早すぎて驚いたぞ」

「そ、そうか」

「我々もいざそうなった時の話はしているが、……そうだな、せめてバルドたちを呼び戻すまでは自ら進んで作ることはあるまい」


 エルフ種の妊娠期間は約二年。

 ハーフの場合は一年半から長くて二年であり、その間ヨルシャミは過酷な旅に同行できなくなる。

 サポートは静夏たちが「なにかあれば頼れ」と申し出ているが、その後も子育てが続くことを考えると世界の未来を動かすことに本腰を入れる前、バルドたちを救い出した後辺りがベストだろうとヨルシャミたちは考えていた。


 もちろん子供を作らない選択肢もある。


 しかし伊織もヨルシャミも静夏に孫を見せたい。

 そして家族を増やしたいという、個人としての想いがあった。

 親に必ず孫を見せなくてはならない決まりなどないが、伊織たちは見せたいのだ。


 そして静夏は神の遺伝子が混ざった救世主であるため、通常の人間よりも長く生きるが――長命種には及ばない。

 そんなどうしようもない部分を考えると『世界の未来を救ってからにしよう』と先延ばしにするのも限度があった。

 そのために定めたのが『バルドたちを救い出してから』である。


「……まあ、そう計画的に行くものでもないのはサルサムを見ていればわかるが」

「名指しはやめてくれ……」


 顔を反対側に背けたサルサムはそこで初めてセラアニスが憧れの表情を浮かべていることに気がついた。

 両手の指を組んだセラアニスは笑みを浮かべる。


「リータさんもサルサムさんもおめでとうございます! それに、あの、ヨルシャミさんとリータさんの会話がとても既婚者仲間という感じで素敵でした……!」

「あ、ありがとう。しかしそこは憧れるポイントなのか?」

「というか前置きなく結構センシティブな話題を出しちゃってすみません、セラアニスさん」


 恐縮するリータにセラアニスは「いえいえ!」と首を横に振った。


「むしろプライベートな話題に混ぜてもらえたみたいで嬉しいですよ。あの、経験が無いのでアドバイスとかはできませんが、なにかあれば話くらいは聞きますからね、リータさん!」

「……! ありがとうございます! その時は遠慮なく話しちゃいますね!」


 笑顔でテーブル越しに手を繋ぎ合うセラアニスとリータを眺めながらサルサムは恐縮しているようであり、安心しているようでもあった。

 きっと自分ではサポートしきれていない部分もあると悩んでたんだろうな、と伊織は察する。


「……サルサムさん、僕もなにかあれば聞きますからね!」

「そこまで気遣わなくていい。本来相談を受ける側になるべき俺がイオリに相談したなんて、後からあいつに知られたらなんて言われるかわからないからな」

「バルドですか? うーん、たしかに僕にサルサムさんが相談したって聞いたらそれをネタに少し弄りそう……」


 だろ、と言うサルサムにヨルシャミが笑みを向けた。


「相談相手くらいなら私がなってやるぞ、お前は意外と面倒な思考回路でよく悩みを抱えているようだからな! 私なら数々の知識から最高の解決策を導き出せる故、安心して任せるといい!」

「じゃあ酒で失敗しない方法を伝授してくれ。なんの運命なのか禁酒しても不可抗力で飲んでしまうことがある」

「やはりなにかやらかしたのか……」

「あと前より酒に弱くなった気がするんだ」

「ふむ、もう口を切除するしかあるまい」


 最高の解決策……? という顔をサルサムは伊織に向け、伊織はそっと微笑んだ。

 解決策についてはひとまず置いておき、サルサムは咳払いしつつ「気持ちだけ貰っとく」と肩を竦める。


「――まぁ、なんにせよありがとう。イオリたちも式には招待するが無理はするな」

「あはは、無理してでも行きますよ。バルドに式の様子を話したいんで」


 そんな伊織の正直な一言を聞き、サルサムは「勘弁してくれ」と言いながら口角を上げた。

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