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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1025話 伊織とヨルシャミの結婚式・後編 【☆】

 リングボーイとは指輪を新郎新婦に届ける役割を持つ子供のことだ。


 リングベアラーと呼ばれることもあり、ベレリヤの結婚式でも新郎新婦より先に入場して待機していることが多い。

 ただし伊織たちの挙式は神父はいてもいわば人前式に近い自由さを前面に押し出しているため、このタイミングでの入場となった。


 なによりニルヴァーレが「僕も誓いの言葉を一緒に聞きたかったなぁ」などととボヤいたことから伊織の希望で実現したことである。


 ニルヴァーレとしては珍しく冗談として口にしたことだったらしい。

 そのため伊織からの提案に大層驚いていたが、元々決まっていたリングボーイが登場タイミングをずらせばその場で一緒に聞けるのではないかと伊織は思ったのだ。

 ヨルシャミは「また思いつきで甘やかしているな」と伊織のお人好しを見咎めていたが、最終的にはニルヴァーレも功労者なのだからこれくらいの我儘は融通しよう、と折れていた。


 ――もちろん、ニルヴァーレは大してゴネてはいない。

 なんだかんだで変態な幼馴染兼兄弟子に気を許してからのヨルシャミは彼を身内だと定め、相応に甘かった。


 リングボーイとして現れた少年姿のニルヴァーレは小さいながらもきちんとグレーに縦縞の入ったスーツを身に纏っており、この一時の間だけの登場だというのに身嗜みに大変気を遣っていることが伝わってくる。

 いつもより狭い歩幅で前へと進んだニルヴァーレは伊織とヨルシャミを見るとにっこりと笑い、小さな箱を持ったままふたりの一歩後ろで待機した。


 その様子を見た神父が頷き、伊織とヨルシャミに誓約の言葉を贈る。


 それは世界に感謝を告げる言葉を含み、世界そのものの神はいないとされていても自然や空間そのものに人類が心を傾けて寄り添ったものだった。


(……きっと、これを聞いたらフジさんも喜ぶんじゃないかな)


 伊織はそう思う。

 夢を経由して知っているかもしれないが、夢からの情報はかなり偏っているため実際のところはわからない。

 なにせ他人に見られることを前提に夢を見る人間などほとんどいないのだ。

 あのナレッジメカニクスでさえ知識の偏りにより、バイクの存在を知っているのが前世が特殊だったオルバート以外にいなかったように。


 だが、彼らも後からバイクを知る機会があった。

 フジにも同じように知る機会がありますように、と伊織は思う。


 神父が最後にゆっくりと息を吸い込む。


「――世界はヒトの繁栄を喜び、育み、慈しむでしょう。そうして愛した末裔が出会い、夫婦として新たな縁を結ぶことを祝福する。世界の愛した子らよ、互いに手を取り合い、健やかに生きることを誓いますか」


 伊織は何度か目を瞬かせた。


 シェミリザほどではないにせよ、全人類に世界の神が自分の中にいる生きとし生けるものを愛していることが無意識に伝わっているのではないだろうか。

 そんなことを思いながら伊織は微笑み、ヨルシャミと共に答える。


「はい」

「はい」


 それでは、と神父は微笑み返してニルヴァーレの持つ箱を手の平で示した。

 ここから指輪交換をし、ウェディングキスで挙式を終えることになる。――その前にもう一勝負だな、と伊織はニルヴァーレに目配せした。

 ニルヴァーレは伊織に頷くと、一歩前に出て箱を開いて見せる。


 その中には、なにも入っていなかった。


 あ、これニルヴァーレがやらかしたのではないか。

 ヨルシャミがそんな表情をして半眼になりかけた時、伊織が空っぽの箱の中からなにかを取り出す仕草をした。仕草だけであり本当になにかがあるわけではない。

 そのままヨルシャミの左手を軽く持ち上げる。


 ベレリヤに結婚指輪の文化はないため、指輪交換の過程は伊織がキルダに頼んで組み込んでもらったものだ。

 シァシァの耳飾りのように似た文化は各地にあるため、キルダの理解も早かった。

 それを足掛かりに伊織は「指輪に関しては僕に一任してよ!」とヨルシャミを説得し、準備を進めてきたのだ。


 ヨルシャミと指輪を見て回るのもとても夢のある光景だったが、自分たちにはこの方法が一番合っている。

 そう伊織が感じたことを実行するために。


 金色に色付いた魔力が舞い落ちたかと思えばそよ風に吹かれるように渦巻き、伊織の指の動きひとつで手元へと集まっていく。

 目を見開いたヨルシャミは伊織がなにをしようとしているのか早速察したのだろう。その有能さに惚れ直しながら伊織は言葉を紡ぐ。


「……藤石伊織は君と家族になり、共に生き、守ることを誓うよ。ヨルシャミ」

「――ふは……契約魔法か。なにをコソコソと練習しているのかと思えば」

「あはは、勘付かれてたか。でも君も僕に契約をしてくれた。大切な契約だ。だから僕からも返したかったんだよ。それに」


 僕たちらしいだろ。


 そう満面の笑みを浮かべた伊織の手元で魔力が契約の証を作り出し、黄金の光を弾けさせて消える。

 その光がおさまった時、伊織とヨルシャミの左手の薬指には新たな指輪がひとつ増えていた。グリーンゴールドの指輪である。

 指輪を眺めて頷いたヨルシャミのベールを上げ、伊織は両肩に手を置く。


 そして、これも僕から君への契約だと言うように優しく唇を重ねた。






挿絵(By みてみん)

宵待愛理さん(@kanaria0197)が描いてくださった伊織とヨルシャミとニルヴァーレです。掲載許可のご快諾、そして素敵なイラストをありがとうございました!

伊織とヨルシャミ、結婚します!


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)


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