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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1020話 大規模プランニング!

「ふむふむ、なーるほど。目立たない式にしたいけど呼びたい人は大勢か」


 伊織とヨルシャミの話を聞いたキルダはふかふかの顎に指を添えつつ反芻する。

 現在の微妙な立場上、国を挙げての挙式はあまりにも派手すぎると伊織は考えていた。アイズザーラは相当大々的にしたがっていたが、もし平時であってもそのレベルはちょっと……というのが伊織の本音である。


 もちろん祝い事が広く知れ渡ればそれだけで活気付く界隈もあるかもしれない。

 そしてそこから生まれた活気は国のためになる。


 ――アイズザーラは食い下がる際に意図してそれを持ち出さなかったた。

 それはド派手に祝いたい気持ちに孫を想う気持ちが打ち勝ったのだろう。国のためになると言えば伊織が断りにくくなることは目に見えているからだ。

 いくら目出度くても、いくら祝いたくても、主役は伊織とヨルシャミだと行動で示していた。


 それに感謝しながら伊織はキルダに頷く。


「やっぱりそういう式って難しかったりしますか……?」

「いや、もう構想してた」

「早い!?」


 驚く伊織にキルダはニヤリと笑ってみせる。

 その顔はまるで赤ずきんちゃんに出てくる狼のようだったが、考えているのは謀略ではなく伊織とヨルシャミの結婚式についてだ。


「要するに広いが人目につかない場所があればいいわけだ。王宮内なら比較的簡単に用意……できるが、参列者をこっそりと敷地内に入れるには目立ちすぎるか?」

「あ、それなら魔法関連でアテがあります」

「ほう!」


 転移魔石で外から運んでくればいいのである。

 これなら目くじら立てられることもない。


 さすがに参列者側になるであろうベンジャミルタに頼むのは憚られるため、実行は転移魔石を使用できるサルサム、シァシァ、セトラス、ヘルベール、ニルヴァーレに頼むことになる。

 そして、きっと彼らが快諾してくれることも伊織はわかっていた。


「じゃあ敷地内だな、ベレリヤ国内で使えるツテで実現できるのは……紙に纏めてあるから見てくれ、この辺りのオプションだ。……ミリエルダ、費用に関しちゃ気にしなくていいんだよな?」

「ええ、もちろん。派手にしなくってもいいけれど、やりたいことがあったら全て実現してあげてほしいの」

「あっ、おばあちゃん、費用に関しては僕らが自分で出すよ」


 そう言う伊織にミリエルダはゆったりと微笑む。


「あなたたち、これから色んな国に行くなら入用でしょう? こういう時は甘えてちょうだい」

「おばあちゃん……」

「それに私の申し出を断っても次はおじいちゃんが、そしてその次はメルキアトラとシエルギータが控えてるわよ」


 とんでもない四天王だ。

 伊織は笑いながら今はその言葉に甘えることにした。


 ヨルシャミがオプションの書かれた紙を覗き込む。

 式場に作るタイプの仕掛けや催しの類が項目別に纏められ、その豊富さはキルダがベレリヤ国内に持つツテの多さを如実に表していた。

 引き出物に関しても書かれていたが、ヨルシャミは自分の故郷の結婚式にすら疎いため「ひきでもの? これはなんだ?」と首を傾げる。


「簡単に言うなら参列者に配るお礼品だな。イオリはわかるか?」

「あ、はい、お菓子や縁起物ですよね、あと食器とか……?」

「そう。普段は予算に合わせるが、今回は気にしなくていいらしいからな。好きなものを選んでいいと思うぞ。参列者が他国からも来るなら文化に合わせて種類を変えることも可能だ」


 説明を聞いたヨルシャミは「ふむ」と考え込んだ。


 いくつか思い浮かんだようだが、伊織とも相談し、ひとまず参列者の人数が仮決定してからにしようという話に落ち着く。

 キルダはヒアリングを元に手早く決められるところからプランを作っていき、希望の要素で相反してしまう部分があればすぐに報告して三人で落としどころを探った。


 まず式全体の雰囲気はラキノヴァ周辺でポピュラーな形式で行なう。

 これは伊織が話を聞いた所感では前世の結婚式に近く、前半は室内、後半は屋外で行なうそうだ。挙式と披露宴である。

 ただし、結婚式とイメージしてまず出てくる「病める時も健やかなる時も」という文言はない。

 もしもあれば多重契約結界に参加する儀式の際に転生者以外もそれなりの感想を抱いていただろう。


 キルダには「筋肉信仰を前面に押し出した結婚式もあるが、どうする?」と問われたが――内容が新郎新婦共に挙式までの筋力アップを図りながら式の最中も無言でトレーニング、その後は共同作業としてトライアスロンじみた競技を行なうものだったためソッと辞退した。


 最近では簡易なものが主流であり、マッスル体操によく似た様相を呈しているらしいが、それでも色んな意味で一生忘れられない結婚式になりそうなため伊織は全力で聞かなかったことにする。

 ただ、静夏が今世でもう一度結婚をするならその形式になりそうだなという予感はあった。


 ――二時間後。

 プランの大枠が完成したところでキルダがノートを取り出す。


「じゃあ料理の手配や席の準備もあるから、ここに参列予定の名簿を作ってくれないか? とはいえ参考だから参加の可否はとりあえず考えなくていい」

「期限はありますか?」

「早いとありがたいが……俺はお前たちの結婚式までラキノヴァに滞在するから数日かけても良いぞ」


 もちろん忘れる前に今思いつく分を書いてもいい、とキルダはペンを差し出した。

 ノートには参列予定者の名前と、文化の違いによる齟齬を減らすためにわかるなら出身地を書いてほしいという。齟齬を減らすことが目的なら身分も添えたほうがいいのかと伊織が問うと頷きが返ってきた。

 伊織はヨルシャミと共に「あやつは来ると思う」「じゃあこっちの人は?」と言葉を交わしながら現在書ける名前を記入していく。


「母さんやリータさんたちにベタ村の人たち、あとナスカテスラさんやステラリカさんも来てくれるかな」

「セルジェスはまた各地を回っているが、間に合えばきっと来るだろう。ナレッジメカニクスの面子も同じであろうな」

「差し支えなさそうならモスターシェさんたちも呼びたいなぁ。ペルシュシュカさんは……」

「ドレス姿の私を吸いにくる」

「確信してる……」


 ヨルシャミは咳払いしつつ伊織に視線をやった。


「当たり前すぎて失念していたが、ニルヴァーレも呼ぶのであろう?」

「うん、……間に合えばセラアニスさんも呼べたんだけど……」

「それもバルドたちと同じだ。二度目の式に呼ぼうではないか」


 柔らかく微笑んだヨルシャミに伊織は頷き、バルド、オルバート、セラアニスの名前を書いて印を付けるとキルダに見せる。


「キルダさん、この三人は呼びたいけれど訳あって来れない人たちなんです。そこで会場に席だけ用意してもらうことって出来ますか?」

「お、粋だな。大丈夫だ、当日はスタッフに周知させる」


 ありがとうございます、と頭を下げた伊織は再びノートの続きを書く。

 そして今現在書ける全ての人名を連ね終わり、それを再びキルダへ向けて確認してもらった。


「母さん側の親戚でもまだいると思うんで、ほんと今書ける分ですが……」

「あぁ、王族だもんな。かなり人数がいるだろう。まあベレリヤの王族なら俺も腰が引けるなんてことはないから好きなだけ呼んでくれ、……」


 キルダはじっとノートを見つめ、一度だけ眉間を揉んでから再度視線を向ける。

 そして恐る恐る伊織に訊ねた。


「……レプターラ王とその王配、あと大臣クラスまで来るのか?」

「あ、次のページに友好国で僕の立場に理解のある王様たちもいます。これはさすがにアポを取ってからになりますが……レプターラの人たちはほぼ確定ですよ」


 リオニャは別れ際に「イオリさんたちも結婚する時は絶対に、絶~対に呼んでくださいね~!」と念押ししながら言っていた。これはもはや呼ばないほうが問題というものだ。

 メルカッツェも「オリトさんの分も俺に見せてくれや」と賛同しており、この面子ならベンジャミルタやミドラにシャリエト、加えてベンジャミルタの他の妻たちやメリーシャたちも来るだろうと伊織は予想している。


 タルハも連れてくる可能性を考慮して、子供でも座れるイスをオプションに加えてあった。小さな子供のため留守番になるかもしれないが、参列者には他にも子供がいるため用意しておいて損はない。


「これ、他国の王族の歓待レベルになるわけか……」

「あの、もし難しかったら――」

「いいや! 俺はお前たちの要望はすべて叶えるってミリエルダに約束したんだ。それに難題のほうが燃えるからな! 大丈夫だ! 任せておけ!」

「イオリよ、お前の周辺はこのタイプが多いな」


 そう言ったヨルシャミはどこか安堵したように笑っており、伊織も同じ笑みを返して頷いた。

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