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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1017話 僕式

 この先、遠い未来に待ち構えている世界の危機に対する反応は伊織のカミングアウトと同じくバラバラで、先にミッケルバードで情報を得ていた国ほど早期段階で『救世主と共に回避方法を模索する』という方針を打ち出した影響か、その国の国民も近い反応を示していた。


 ただし全員が信じたわけではない。

 国によっては「そのような未来など来ない」と突っぱねる意見もある。


 逆に信じていても「それだけ先のことなら我々には関係ない」「今は協力する余裕がない」と距離を置く国や、その未来とやらを自分たちの目で確認するまで認めないという国まであった。


 最後の意見を出した国は国内から優秀な魔導師を集め、独自に予知や予言を行なって遥か遠くの未来を見ようとしているようである。

 だが――まず予知や予言が可能な者が稀少な上、それだけ遠くの未来を見通せる才能は輪をかけて稀少なため難航している様子だった。


 ヨルシャミですら自動予知という名のランダム発動であり、音無しの映像でしか見ることが叶わない。

 その点においてシェミリザはヨルシャミより優れていたが、それが苦しみを生む原因になっていた。少しはその気持ちがわかるわ、と言ったのはフェンスにもたれ掛かったペルシュシュカである。


「アタシ、多分本気を出せばその辺の未来まで見えるのよ。けど恐ろしすぎてレベルを下げてるわけ」

「はい、前に母さんから聞きました」

「……で、アナタはそーんな可哀想なアタシに時々未来を確認してほしいわけね?」


 今後伊織の働きにより未来が変わったかどうかを確かめるにはシェミリザと同じ方法を取るしかない。

 現状、信頼できる人物の中でそれが可能なのはペルシュシュカだけだった。

 カミングアウトの後、ベレリヤから一旦レプターラへと戻り、旅立つ準備を整えていた伊織がその件に関して彼に相談したのである。


 ペルシュシュカはうんざりした表情で訊ねた。


「一応訊くけど……それ、アナタがまた神様に会えるくらい成長した時に魔法でわかったりしないの?」

「僕に予知や予言や占術魔法の才能は無いそうなので、多分無理かと……」

「そうよね~……なまじ才能があったところで、未来を乱す転生者じゃ自分で自分の邪魔しちゃうでしょうしね」


 ペルシュシュカは形の良い眉を下げる。


「わかったわよ、けど寝れなくなったら困るからお駄賃は弾んで――」

「い、一回につき好きなだけ女装します」

「わかってるじゃない! いいわよ、まあ最後まで見届けたいし、仕事と思わなければできそうだわ」


 途端にニコニコ笑顔になったペルシュシュカは「なんにしようかしら、多分その頃って今より育ってるわよね!」とすでに妄想を膨らませていた。

 一回につき三着までにしたほうが良かったかな、と伊織は若干の後悔をしつつ未来のことを考える。

 定期確認を頼むにしても、まずは伊織が成長しなくては始まらない。


(あれから魔力操作は更に上手くなったし、他人の回復も……少し危ういけど落ち着いてやればできるようになった。ただ夢路魔法はやっぱり難しすぎるな)


 イメージ出力で補おうにもそのイメージが上手くできないままだった。

 下手に生き物で試せないのも大きい。

 眠りに落ちたまま二度と目覚めなかったらと思うと伊織はゾッとした。


 そのため現在はヨルシャミの夢路魔法の世界で一時的に全権限を許可してもらい、世界を組み替える訓練を続けている。

 ヨルシャミのサポート有りでイメージを反映させるのとは異なり、基礎から世界を保つ必要があるため、初めはまさに夢の中といったぐにゃぐにゃの道もどきしか作れなかった。


 現在は落ち着いてきているが、それでも『小屋』を作ろうとしても『巨大はんぺんを並べたもの』になってしまう。

 伊織は自分のイメージ力に多少の自負があったが、それでもまだ実力不足だった。


(ただ成長は実感できてる。あとはこことは違う空間に夢路魔法の世界を作り出して管理、そこへ誰かの精神……魂を引きずり込むって段階をどうにかできれば、……)


 でも人間にはやっぱり難しいな。


 そう思った瞬間、伊織はハッと顔を上げた。

 レプターラの太陽が眩しいが、構わず目を見開く。


「……夢路魔法の初手、テイムした魔力に手伝ってもらうのってアリかな」

「あら、今修行してるやつのこと? 魔力は魂にも近づけるし、そもそもヨルシャミの夢路魔法でも人の魂に作用してるでしょうから、指示して手伝わせることが可能なら良い手かもしれないわね」


 ヨルシャミの夢路魔法の場合、魂に近づきすぎると焼けてしまうような伊織でも引き込めるため、一瞬でも触れられれば条件を満たすのだろう。

 伊織の考えついた手段の場合、そもそも起動方法から異なるため別の魔法じみた挙動になる可能性があったが――そういった細部のブラッシュアップは後回しでいい。


 まずは考案、検証、そして証明である。


「そうだ、そうだよ、まんま同じ方法で夢路魔法を使えるようにならなくても、要するにあの空間へ繋がる世界を自在に作り出せるようになればいいんだ。完全な別物っていうより、ヨルシャミの夢路魔法を基礎に手を加えた僕式夢路魔法ってほうが弄りやすいしイメージしやすいかな。あとは……」

「……」

「魔力にそこまで細かな指示が可能か検証しないと。魔力へのテイムもまだ不安定だし、その場の魔力濃度によりけりだから安定性が欲しいなぁ。もしこれが可能になったら――そうだ、検証実験は昔に夢路魔法の世界で呼び出したことのあるアストラル生命体にしよう! あれなら現実から夢路魔法の世界に閉じ込められても死なないし送還もできる」

「……」


 伊織はそうぶつぶつ言いながら無意識に自室へと足を向けていた。

 落ち着いた場所でロードマップを作るためである。


 それでも途中で我に返ったのか、ペルシュシュカを振り返ってお礼を言った。


「ペルシュシュカさん、ありがとうございました! あなたの前で女装する回数を減らせるよう頑張ります!」

「あら、寂しいこと言うわね。けど今回は応援したげるわ」


 そのまま去っていく伊織の背中を見送り、ペルシュシュカは小さく笑った。


「魔導師らしい顔ね、数年前はまだあどけない少年だったと思うと……うん、次に女装をしてもらう機会が来た時に嗅ぎ甲斐があるわ」


 伊織の曲がっていった廊下の先からただならぬくしゃみが聞こえたが、これもまた自然現象である。

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