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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1015話 伊織の導いた結果 【★】

 再び二週間後が経ち、世界の穴がミッケルバードに根差した経緯を発表する日がやってきた。


 伊織本人はどうにかして自分の口で発表したかったが、世界で交流可能な国だけでも驚くほどの数がある。

 ひとつひとつ訪問しての発表は無理があるとし、アイズザーラの主導でまずは各国の代表もしくは既に設けられた専用機関に通達することになった。


 ワールドホール閉塞作戦に参加していた国はすでに詳細を知っており、それ故に他国も事前に自前の情報網で把握しているところが多い。

 しかしこういった事柄は建前や手段が重要だとヨルシャミは語る。


 さすがの伊織も前日はなかなか眠ることができず、ヨルシャミに夢路魔法の世界へと連れ出してもらった。

 訓練は今夜だけは休む予定だったが、なにもしないと余計に色々なことを考えてしまう。そのため限度ギリギリまで訓練を続けたおかげか、疲れも手伝って途中から通常の睡眠に移ることができた。

 そうして当日はベレリヤへと一旦戻り、久しぶりの王宮でその時を待つ。


 ――伊織のカミングアウトに倣い、アイズザーラと伊織の関係も明かすことになっていた。


 即ち聖女マッシヴ様である静夏の行動が制限される可能性が大きくなるが、これに関してはアイズザーラに考えがあるという。

 発表直前に伊織の隣へ歩み寄ったアイズザーラは孫の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「心配しいなや、イオリ。今は『残った魔獣さえ倒せばもう新たな魔獣に怯えることはない』って他国も勢い付いとるからな、わざわざ聖女マッシヴ様が出向いて倒さなアカン案件はグッと減るはずや」

「うん……」

「それに、魔獣の残党殲滅を目標に掲げた同盟計画を進めとる。この同盟の加盟国やったら魔獣討伐の遠征に限り、多少のことはお咎めなしになるはずや。もちろん王族でもな」


 同盟、と伊織は目をぱちくりさせる。

 なんでもイリアスが発案して実現したのだという。


 現在加盟しているのはベレリヤ、レプターラ、その他の閉塞作戦の参加国、そして各国の友好国だった。その数は五十を越えるらしい。

 世界のすべての国ではないが、それでも今まで伊織たちが訪れた国の数より遥かに多かった。


「これは世界の穴を閉じる前やったら実現できんかったと思う。それぞれ自国を守るので手一杯やったからな。今後は残党に手こずれば他国からも助けが来るし、こっちから送ることもできる」

「母さんの行動も制限されることはないってこと……?」

「せや。お前が行動したおかげやで、イオリ」


 アイズザーラは静夏によく似た顔で笑う。


「儂は行動の善悪より、その結果を重視したいと思うとる。イオリ、お前は罪悪感を感じとるようやが、悪い結果ばかり招いたとは言えんやろ? 悔いて自省するところはして、胸張れるところは張りや」

「……うん、ありがとう、おじいちゃん」

「よしよし! 怒られるところは儂も一緒に怒られたるわ、イオリは儂のかわええ孫やからな!」


 そんな溌剌とした声に背中を押され、ついに発表が開始された。


 通達後の情報の扱いは各国に委ねられている。

 通達前から『国民には伏せる』と宣言している国もあったが、交易があればいずれは耳に入るだろう。


 通達は連絡用召喚魔法によるもの、転移魔石によるもの、使者を送るものなど様々だ。相手の国の文化に合わせたとアイズザーラとミリエルダは言っていた。

 珍しいものでは好奇心旺盛で警戒心の薄い国の中には事前に転移魔石を使い、ナレッジメカニクスの通信機器を貸し出したという。

 作戦の成功後にシァシァとセトラスたちが量産したものである。


 その通達にも伊織は可能な限り関わった。


 連絡用召喚獣に括り付けたり使者に持たせる書面を自分で用意して謝罪の言葉を添え、転移魔石で訪れる国には同行して直接自分の言葉で謝る。

 初めに言われた通り、すべての国に対して同等の対応はできなかったが、それでも寝る間も惜しんで伊織は謝り続けた。


 少なくとも作戦に参加した国で直接の訪問が可能な国にはすべて足を運び、関わりのなかった国にも誠心誠意対応する。

 ――そこへヨルシャミや静夏たちだけでなく、セトラス、シァシァ、ヘルベール、パトレアたちが同行し同じように頭を下げることもあった。


 もちろん発表後すぐに反応があるわけではない。

 ベレリヤが調査員を送り、ある程度の視察をする予定になっていた。

 これは孫可愛さだけでなく、事の重大さ故に国を揺るがす可能性があるからだ。


 伊織たちはその間もベレリヤの王宮で待機し、状況を把握してから大々的に魔獣の残党狩りに取り組む予定である。

 現在も近場に魔獣が出れば即座に対応していたが――ひとまずラキノヴァ周辺の反応は大半が友好的だった。


「厳しい反応があるとすれば、世界の穴がミッケルバードに根差した後に被害が大きかった周辺国か」


 伊織の部屋でリンゴを剥きながらヨルシャミが呟く。

 ミッケルバードの存在する海に面していた国は港町を中心に被害を受け、機動性に優れる魔獣も多かったためレプターラのように王都にまで損害が出た国もあった。

 伊織たちにはその補償を今すぐ行なうことはできないが――シァシァたちが優先的に技術を提供して支えることになっている。


 だが、きっとそれで治まる怒りばかりではない。

 そのため国民の反応は予想がつかなかった。


「……私としては結果だけでなく、お前の事情も更に詳しく民に知らせてから判断してもらいたいところだがな」

「あはは、そんなの簡単にはできないよ。もちろん相手からもっとちゃんと説明しろって言われたら伝えるけど……」


 それこそ各国の王都にでも巨大モニターを設置して事情説明を同時放映でもしなくてはならない。

 だがナレッジメカニクスの技術は大半の国にとっては異様なものに思え、持ち込むことを拒否されることもあった。好奇心旺盛な国ばかりではないのだ。


 下手をすれば戦の種になるかもしれない。

 せっかく世界の穴の危機が去ったというのに、今度はヒト同士で争うなど伊織は御免だった。――これからの目標のためにも。


 それに、ヨルシャミの言う『更に詳しく』というのは伊織の心情などだ。

 洗脳の末に行なったという前提情報は明かしているのだから、あとは各人が判断してくれればいいと伊織は考えている。


(あと気になるのは……)


 発表には今後の課題である世界の危機に関する事柄も含まれていた。


 伊織の大きな目標だが、伊織ただひとりに背負わせる形ではリスクが大きい。

 万一伊織が死ねばそこで終わりになってしまうからだ。

 そこで人類全体でも様々な観点から世界の腐って死ぬ未来を回避するための方法を探っていこうという話になったわけである。

 世界全体でリスクヘッジを行なう目的もあった。


 これも伊織が関わったからこそ実現したことだ。

 ――予知で見た未来は転生者や転移者が関わることで揺らぐ。

 腐って死ぬ未来は大きすぎるため回避しきれず、シェミリザが絶望したのもこれが原因だが、今まさに良い方向へ転がっているのではないかとヨルシャミは思った。


「……シェミリザはすべてひとりでやろうとした。オルバートでさえ協力者ではなく道具だった。イオリ、お前の導き出した『今』はそれとは正反対だ。失敗したやり方とは真逆の方法で成功させ、シェミリザを悔しがらせてやろうではないか」

「うん。……でも姉さんだと悔しがらずに普通に喜びそうだなぁ」


 小さく笑って伊織は頷いた。


 シェミリザはどのような形でも世界が、世界の神が救われれば喜ぶだろう。

 悔しがりもするが、その感情を喜びが上回るはず。彼女の最後の瞬間を目にした伊織はそう思う。

 直接シェミリザに見せることは叶わないが、咎人であれ少しでも彼女が浮かばれる結果を出したい。そこまで考えて伊織は心の中で首を横に振った。


(いや、出したいじゃなくて出すんだ)


 そう改めて思いながら続報を待つ。


 ――そして、すべての結果が出揃ったのは二ヵ月半経った頃だった。








挿絵(By みてみん)

シェミリザ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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