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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第1001話 パパらしい 【★】

 ミッケルバードでの戦いを経たパトレアの両足はやはり消耗しており、セトラスは冷凍庫の製作と並行してそちらのメンテナンスも行なったという。

 セトラスはよくシァシァを化け物扱いするが、伊織から見ればセトラスも近年稀に見る才能の化け物だった。


 ――が、それを口にしたところセトラスは「褒めるならもっと嘘に真実を混ぜたほうがいいですよ」と本気で口にしたため、信じてもらうには相当努力する必要がありそうである。


 現在、メンテナンスを終えたパトレアは避難民の荷運びボランティアに出ていた。

 セトラスの指示によるものだ。


 彼女はメンテナンスが終わるなり走りたがったが、戦地以外では新手の魔獣扱いされかねない。機械の両足に見慣れた者はレプターラでも限られているだろう。

 特に世界の穴は閉じたが魔獣は残っており、その被害を受けたばかりという現状は住民たちを過敏にしている。


 それを考慮してセトラスが発案したのが荷運びボランティア――避難先でしばらく生活するために故郷から私財を運ぶ、もしくは避難先から故郷へ戻るために持ち出した荷物を運ぶ手伝いだった。

 まずリオニャの采配で国から直接ボランティアが派遣され、常にその者たちと共に行動すること、とパトレアに約束させている。


 そのボランティアたちもレプターラ、特に砂漠での移動に長けた南ドライアドを中心に編成されているため、パトレアも張り合いがあることだろう。

 南ドライアドの風の魔法による高速移動は目を瞠るものがある。


 もちろん普段のパトレアならそれすら振り切るスピードを出すが、今はメンテナンスをしたとはいえ仮の義足。

 そして走るのに適していない砂地が多いため、走るのに夢中になって仲間を置いていくことはないだろうというのがセトラスの見立てだった。


「これで少しはパトレアの点数稼ぎにもなるでしょう。……とはいえ、運んでいる荷を壊さないか少しばかり気掛かりですが」


 そう遠くを見たセトラスの表情は手のかかる我が子を見る親のようだった。


     ***


 挨拶をして自身の無事を知らせた伊織はセトラスの部屋で試作品のアイスをご馳走になった後、次なる部屋を目指して出発した。

 セトラスの次はシァシァである。

 ペルシュシュカはなんらかの準備を進めようとしている様子だったため、再訪問は最後のほうがいいだろう。


 ドアをノックするとシァシァの「入っていいヨ~」という声が返ってきた。


「パパ、おはよう!」

「ワッ! てっきりセトラス辺りかと思ったら伊織か!」


 テーブルに様々なパーツを広げて弄っていたシァシァは伊織の声を聞くなり笑みを浮かべて体の向きを変えた。

 義腕はまだ新調しておらず、それは所々欠けた両足も同じだ。

 そのためシァシァはベンジャミルタたちが用意した簡易的な車椅子を使用している。現代日本のように丈夫な素材で作られたものではないが、室内や舗装された道なら段差にさえ気をつければ自在に動ける代物だった。


 体調に問題はないことを伝えた後、伊織はシァシァの手元を覗き込む。


「それってもしかして――」

「ウン、イーシュの核だヨ。しばらくあのサイズのボディは無理だケド、仮ボディくらいは作ってあげたくてさ」


 でもドローンより小さくなりそうだとシァシァは肩を竦めた。

 イーシュを大切にするシァシァを見て伊織も笑みを浮かべ、そして彼の右腕に目をやって問う。


「パパ、義腕を作り直すのにまたパーツを出力しようか?」


 以前、伊織が作り出したパーツは型を取ることで様々な機械類に活かされた。

 それを思い返しながら申し出たのだが、シァシァは首を横に振る。


「前の型がまだ残ってるから大丈夫だヨ」

「でも量産したから型も傷んでない? というか今なら魔力バッテリーをくっつければ離れても消えないし、直接出力しても大丈夫そうだけれど……」


 それでもデメリットはあるため、それを考慮して型から出力という形も取れると伊織は言い重ねた。

 前回は型のイメージが上手く出来なかったため、ある程度は基礎になる形を見慣れたパーツそのものを出力したのだが、それを経由して作られた型の完成品を目にした今なら問題なく作り出せる自信が伊織にはある。


 しかしシァシァは悩む顔をした。


「取り急ぎ必要なのは材料のほうかな、単純に日常生活を送るだけなら粗悪品でも良いんだケド……」

「い、いいんだ」

「フフフ、でも今回の戦いで課題が山ほど出たからネ。その内ちょっと入手が大変な材料を集めるために旅立つことにするヨ」

「……!? つまり、パパがどこかに行っちゃうってこと……?」


 シァシァは不安げな表情を見せた伊織の頭を撫でる。

 旅と称するほど材料集めには時間を要するのだ。

 そのついでに国の復興に役立ちそうなものを探し、あとは各地の情報収集と魔獣の残党狩りを個人でやると説明し、シァシァは少しばかり黒い笑みを浮かべた。


「これは罪滅ぼしじゃなくて、今後の伊織にとってもっと住み良い環境にするための布石だ」

「セトラス兄さんも似たことを言ってたけど、僕を基準にしなくてもいいのに……」

「エッ! なんか先越された気分! あとでセトラスの髪にヤモリ付けてやろ」

「幼児かお前は」


 ヨルシャミの鋭いツッコミを受けつつシァシァは肩を竦める。


「べつにずっと会えなくなるわけじゃないヨ、伊織。転移魔石で定期的に戻るしネ。メンテナンスや経過観察目的もあるケド――ほら、逃げたと思われたら癪だから」


 罪滅ぼしではないと言ったのは悪意からではなく、そう思うこと自体が驕っているとシァシァは思っているのかもしれない。

 そう感じた伊織は深くは追及せず「待ってるよ」と頷いた。


「良かった、……パパにも協力してほしいことがあるんだ。説明は後ですることになるけど、その……」

「よーし、手伝うヨ!」

「!?」


 おずおずと申し出た伊織はあまりにも凄まじい即答っぷりにぎょっとする。

 そんな伊織の顔を見てシァシァはけらけらと笑った。


「その顔はワタシが断ると思ってたのかな?」

「い、いや、パパなら考えてくれると思ってた。でもまだ内容も伝えてないから」

「そこは判断基準にならないからネ〜」

「判断基準にして!?」


 つまり伊織のお願い事ならなんでも聞くよ、ということらしい。

 そこには倫理観のないお願いなんて伊織はしないでしょ、という信頼も含まれていた。それを感じた伊織は「けれど」と声に喜色を滲ませながら言う。


 パパらしいや、と。







挿絵(By みてみん)

パトレア(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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