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島津エルフ  作者: 十六夜やと
序章 薩摩建国編
2/2

プロローグ 少年、異世界に立つ

 目が覚めたら見知らぬ天井だった。

 というのは異世界転移ではお約束の現象だろう。そりゃ、教室いたらデカい幾何学的な魔法陣に飲み込まれたのだから、まず最初に思いつくのは『異世界転移』ではないだろうか。ほら、最近ラノベやweb小説とかでも人気あるし。

 まさか自分が転移される側に回ろうとは思わなかったが。


 しかし、俺達の身に起こった異世界転移は、転移される側には全くと言っていいほどやさしくはなかった。自称神様からの天啓みたいなものもなかったし、もちろんチュートリアル的なものはない。

 これから始まるんじゃないかと目を細めて寝たふりをしながら待っているんだが、そう言った現象が起こる兆しすら見えない。悲しいことに異世界の神様は親切にはしてくれないらしい。そもそも異世界かどうかすら分からんが。


 俺は諦めてゆっくり体を起こす。

 体や衣服には異常なし。転移直前に手につかんだ鞄類も手元にある。鞄の中身がココで役立つか疑問だが、元の世界の物を持ってこれただけでも良しとしよう。


 さて、一通りの確認を終えたところで周囲を観察してみよう。

 基本的に石っぽい材質の柱や壁、自分が座って居る地点が祭壇のような何かであることは容易に想像できる。しかも装飾品も高価なものなんじゃないかと、一般人の俺が察することが出来るのだから、さぞ値の張る代物なのだろう。光源は祭壇周囲にある光っぽい何かのみ。石っぽい材質は石に見える何かだが、光源はそこに光がフワフワ浮いており、明らかに俺が知っているライトの類じゃないと断言できた。さっそくココが日本じゃない可能性が高まってきた。

 簡単に説明すると古代ギリシャの神殿を彷彿とさせる場所だ。



「……ところで他の皆は、どこ? え、これ置いていかれた?」


「──お目ざめになりましたか?」


「うわああああああああああああああああああああっっっ!!??」



 背後からかけられた声に、俺は喉を震わせて叫んだ。

 そのせいで祭壇の上に寝ていたことを忘れ、咄嗟に後ずさろうとして祭壇から転げ落ちる。棺桶程の広さしかない祭壇の上なのだから、座る位置を少し変えただけで落ちてしまうのは当たり前だろう。

 気づいたときに遅く、受け身もせずに全力で落ちた。石っぽい材質の床に体を打ち付ける。



「あがっ──!?」


「あっ! も、申し訳ございませんっ!」



 身体だけなら何とかなったが、頭も打ちつけてしまったようだ。

 俺は頭を手で押さえて、体を丸めるように悶え苦しむ。


 俺を心配するのは女性の声だった。

 美しいソプラノの声で心配されるものだから、男特有のやせ我慢で心配しないでほしいと手で遮ろうとして──



「あ、うん。多分大丈──」



 ──悲しいことに痩せ我慢は見事に失敗した。

 ここは日本人特有の謙遜の心と、男特有の格好良く見せたい気持ちを前面に出そうとしたが、近寄ってきた女性の姿を視界にとらえ、そんな気持ちはものの見事に打ち砕かれた。

 俺は異世界転移の可能性があるってのに、何をやってるのだろうか。



「………」


「……ど、どうなされましたか? どこか痛いところでもあるのでしょうか? 痛むところを仰ってください、今から治癒の魔術を施しますので」



 実は俺の妄想が生み出した産物じゃなかろうか。

 俺の目の前にいる女性──いや、美少女は、そう錯覚しても不思議じゃないほど美しかった。


 透き通ったガラスのように光輝く白銀髪、きめ細やかな白い肌は日焼けという概念を否定する。唇はリップや口紅とかそういうのを塗っていないが、女性というのは化粧をしなくてもここまで綺麗になるのかと感嘆の声を思わず上げてしまうほど。整った顔立ちが根底にあるのだから、生半可な化粧は彼女の美を色あせてしまう蛇足にしかならないのだろう。

 天は二物を与えず──なんてことわざが俺の居た世界には存在するが、この異世界とやらには存在しないらしい。身長は俺より頭一つ分低い程度だが、出るとこはちゃんと出ていて、プロポーションは比較対象が思い浮かばないほど良い。良過ぎる。顔、身体、声、どこにも他者に劣る要因が見つからないほどだ。

 そのファンタジー世界に相応しいとも言えよう美少女。しかし、その要素を台無しにするかのように、彼女の来ている紅白の和服──俗に言う『巫女服』が嫌でも強調されてしまう。似合う似合わないかで言ったら前者に属するが、せっかくのファンタジー要素を大いに激減させる。これが「俺の妄想の産物」と揶揄する理由がそれだ。


 巫女服の白銀美少女は心配そうに首を傾げる。

 いちいち動作する度に、彼女が持つ二つの山が揺れるのだが、俺の精神衛生上的に悪すぎるから止めて頂きたいのだが。巫女服って普通に着てて乳揺れんよな? そういう構造のはずだが。



「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと目の前に絶世の美女がいたもんだから、驚いただけ……です」


「……そ、そうですか。お世辞でも大変喜ばしく思います」



 さらりと人類の9割の女性を敵に回す発言をする美少女。彼女のがその言葉を口にするのなら、『絶世の美女』という言葉は誰に使えばいい?

 いや、もう頬を赤らめる表情は反則だろう。


 俺は腰を上げて周囲を見渡し、美少女の出で立ちをもう一度脳内保存しようとして気づく。

 耳が長くて尖っている。耳の形は千差万別だが、少なくとも俺のいた世界で、ここまで耳の長い人間はいなかったはずだ。



「えっと……もしかしたら失礼な質問になるかもしれないですが、一ついいでしょうか? あ、もちろん応えるのが嫌なら無理に言う必要はありませんよ?」


「はい、私に答えられることならば」


「その尖ってる耳は……この世界の人間の特徴でしょうか?」



 口に出して後悔する俺。

 そんなの「その黒い目って日本人の特徴?」って聞いていると一緒だ。文化圏特有の者の可能性もあるし、この世界の人間の特徴かもしれない。ただ、問題なのは彼女のコンプレックスの可能性を考慮しなかった点だ。物凄く失礼なことを聞いているのではないだろうか?

 しかし、この世界の常識というものを知らない俺は、何でもいいから情報を欲している。特にココがどこで、彼女が何者かは知りたい。そのための皮切りとなる質問がコレだ。


 内心もやもやと考え事をしている俺を他所に、彼女は真紅の瞳を丸め、耳をピクピク動かしながら「あぁ」と納得した様に笑う。

 笑顔が物凄く可愛い。



「これは私達小神族(エルフ)の特徴的なものです。人間の方は、貴方様のような耳ですよ?」


「……おー、あー、そーきたかー」



 そうだもんな、ここ異世界だもんな。人間じゃない可能性を失念していた自分に頭を悩ませつつ、俺は苦笑いを浮かべる。確かにファンタジーなら人外てんこ盛りでもおかしくないだろう。彼女もその一人だったという話なだけだ。

 同時に内心首を傾げる。『エルフ』という単語は……えっと、ゲルマン神話だっけ? そこに出てくる仮想の生物だったはずだ。もしかしこの異世界は俺の居た世界と関係がなくはないのか?

 それとも本格的に『俺の妄想が生み出した世界』なのか?



「あの、できればそのエルフという種族に関して詳しくお聞きしたいのですが……」


「それは構いませんが……場所を移しましょうか? ここで立ち話というのは、足が疲れますでしょうし」



 俺はデリカシーがない上に、思慮も足りん人間だったのか。

 女性に立ち話させるとか馬鹿にもほどがあるだろう。



「……すみません、場所を移す方向でお願いします」


「ありがとうございます。初めての場所でしょうから、私が案内させて頂きます。どうぞ、こちらが出口です」


「あ、はい──あ、ちょっと待って! 待って下さい! ……はい、案内お願いします」



 危うく自分の荷物を忘れるところだった。

 急いで荷物を取りに行った俺は、彼女の後ろをついていく感じで歩く。


 神殿の外は街なんだろう。

 外がやけに騒がしいので、この神殿らしき物件は街の中にあると推測している。

 さて、異世界転移テンプレートの中世ヨーロッパ風の街並みだろうか? それとも原住民族感を全面に押し出した集落なのだろうか? 木の上に住居を構えている……なども考えられる。それとも、俺の常識を遥かに超えた幻想的な場所かもしれない。


 異世界に飛ばされた不安よりも、まだ見ぬ超常現象に心を躍らせ、神殿風建造物から出た俺は──






 石瓦の木造建築群が視界を覆う。


 和服を着たエルフを始めとする人外の皆様方。


 遠くに見えるのは天守閣が素晴らしい山城。


 背景には噴煙を撒き散らす活火山。






「───」



 俺が思考停止に落ちいる中、エルフの美少女は微笑みながら、俺の顔を覗き込むように上目遣いで見つめてくる。

 まるで自分の自慢なものを見せびらかす子供のように。

 それはもう満面の笑みで。






「ようこそ、私達の国──()()()へ!」



 俺は異世界転移じゃなくてタイムスリップでもしたのだろうか?





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