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小坂、古城を目指す その四

「ああ、あれである。懐かしいであるな、先代の文明の名残である」


 アビスの言葉に、ほぅ?—と、興味を刺激されて声を上げる。

 俺の反応に気を良くしたらしいアビスは、更に続けた。


「我が封印されるよりもはるかに昔の事である。魔術を核とした人間達の文明が栄えたのであるな。その時代の人間達の魔力は凄まじいものであった。何故だと思う?」


 尋ねられた俺は、僅かに考えてから答える。


「精霊石を取り込むという発想がなかったからでは?」


 これにアビスはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、半分は正解である—と、前置きしてから続ける。


「故に人の平均寿命は短いものであった。長くても30歳まで生きた者は、程なく魔物化してしまう。おそらくは、人間本来の生命力など50年そこそこしか保たないのであるな。生命力が衰えると、魔物化を抑える事が出来なくなるのであるな…」


 アビスは俺の前を歩き出すと、古城目指して坂を下り始めた。俺もそれに続く。


「よく、30年も魔物化しませんでしたね。魔素が今よりも薄かったとか?」


 俺の言にアビスは首を振ると、人差し指を持ち上げて、くるくると回した。

 その行為の意味するところが分からずに眉を寄せるが、どうやらそれが魔術を行使する様を表したものである事に気が付くと、大人しくアビスの言葉を待った。


「その頃は魔物化を魔術により抑えていたのである。そういう魔術を作ったのであるな。様々な魔術文字が作られたであるな…今は失われた魔術文字も多くある」


 アビスは足を止めると俺に向き直る。俺が何か言うのを待っているらしい。

 そんなアビスを前に、俺は頸を摩りながら、何と声をかけたものかと悩んだが、気の利いた言葉など出ようはずもなく、興味の向くままに尋ねる事にした。


「えっと…魔術文字って、作れるんですか?」

「ふはは!やはりそれを聞いてきたであるな。作れるであるぞ。原初文字という神々が用いた文字がある。魔素はそれを解し、原初文字の組み合わせとして、魔素が理解できるものならば魔術文字として使用できるのであるな」


 ほぅ—と、感嘆の声を上げて考え込む。魔術文字が作れるというのなら、やりようはいくらでもあるのではなかろうか。それこそ、向こうの世界に帰り着くための魔術とて、創り出せる可能性もある。


「貴様、簡単に考えているであろうが、そう楽な話ではないであるぞ?」

「え?」


 よほど俺の顔に出ていたのか、アビスは盛大に嘆息すると、釘を刺してきた。


「魔術文字の組み合わせというものは、実は無限にある。その中でも有用なのは、ほんの一握りだけ。それを探すのは、実に骨の折れる作業なのである」


 それはそうだろうな—と渋い顔を作る傍で、クローディアならばやっているのではないだろうか—とも思う。彼女はその手の終わりない作業が好きそうな気がする。


「師匠とか、やっているのでは?」

「うん?言われてみればそうであるな。あれはその手の終わりない作業が好きそうであるからな。…しかし」


 俺とアビスの認識が全く同じであった事はさておき、アビスはそこで言葉を濁した。

 俺も、なんとなく言いたい事を理解して頷く。


「やっている様子は見受けられないですね」

「…で、あるな。もしかすると、魔術文字が作れる事を知らないのかもしれないである」


 ならば教えてやろうかとも考えたが、やめた。ワーカーホリックなあの魔人族は、手慰みになる仕事が目の前にあると、どこまでもそれに没頭しかねない。

 そのうち、連日の無理により倒れる事だろう。そうなった暁には、きっと俺が彼女の睡眠の管理を任せられる事になる。それは絶対に嫌だ。


(何が悲しくて、いい歳した大人の睡眠の面倒まで見なくてはならんのか)


 チラリとアビスに視線を向ければ、アビスもまた俺を見ていた。その顔には、どうする?—と、書いてある。教えるか否かの判断を、俺に委ねるつもりらしい。


「やめときましょう」

「うむ、それが良いであるな。あれのためにも、貴様のためにも」


 それきり、俺達は黙り込んだ。箸休めだ。ずっと喋り続けていては疲れてしまうから。

 この場にファーレンがいたら、きっとニコニコ顔で何かしら話し出すのであろうが、生憎と今日は不在である。大好きな冒険をかなぐり捨ててまで向こうに残ったあたり、昨日の事がよほど応えているのかもしれない。そんなに大型魔獣との一騎討ちが嫌だったのか。


(グリフォンには圧勝したのになぁ…)


 はぁ—と白い息を吐き出しながら、眼下を眺める。一望できるのは、どこまでも広がる海に、絶壁の傍に佇む古城だ。古城はよくよく見れば、植物に覆われており、一目見ただけではそれと分かり難い。我ながらよく気が付いたものである。


「あの辺一体はな、昔は広い平原であったのである」


 その言葉にチラリと視線をアビスに向けるが、嘘を言っている様子はない。アビスは目を細めて、真っ直ぐに古城を見つめていた。


(平原が海に沈んだのか?大地震とか?)


 絶壁の縁を視線でなぞりながら、そんな事を考え眉を寄せるも、答えはまるっきり違った。


「古代文明を築き上げた先人達はな、神の怒りに触れたのである…その結果が、あの古城であるな」


 俺は再びアビスの横顔を見た。

 アビスは悲しげな表情を古城に向けている。何とも声をかけ辛く、俺も古城へと視線を向けた。


「当時、人間達は精霊石を体内に取り込むという発想が湧かなかった。故に魔物化は避けられないものであった—というのは語ったであるが、当時の人間達は、別の方法で魔物化を防ごうとしたのである」


 分かるであるか?—と悪戯っぽく問われたが、分かりようはずもない。俺は黙って首を振った。

 つれないであるな。少しは考えるである—と不満を口にした後、アビスは続ける。


「神々と一体化する事で、魔物化を避けようとしたのである」

「…え?」


 思わず、目を見開いてアビスを見た。

 そんな俺の様子を可笑しそうに笑いつつ、アビスは坂を下り始める。

 俺もそれに続いて歩き始めた。


「多くの神は融合の憂き目にあっても、自我を失わなかったのである。むしろ、望まずとも人の意識を乗っ取ってしまったのであるな。だが、そうでない者もいた…」


 そうでない者—これは、人に自我を破壊され、みすみす神の力を手渡してしまった者達の事だろう。何やってんだよ古代人—と、眉を寄せずにはいられなかった。


「それから程なくして、荒々しい神達は、下級神(ヤザタ)を切り捨てる事になったとしても、人間達を粛清する事に決めたである。それに反論できる者など、いなかったのである。古代を生きた人間達は、それほどまでに危険視されていたのであるな」


 アビスの声音は、やや悲痛な色を帯びていた。

 俺ならどうするだろうか—と、眼下に佇む栄華の残滓を眺めつつ考える。絶壁に叩きつけられる波の一部が、大きく跳ねて古城へと覆い被さった。


(きっと、俺も変わらない。古代人を一掃するだろうな)


 神と人は共生の関係にあった。だが、人は踏み込んではならない領域に立ち入った。禁断の果実を口にしたのだ。もはや止まらない。止まれないだろう。神と融合した時、無事に自我を保っていた成功例が一つでもあれば、欲深い者や無謀な者、先のない者なども後に続こうとするに違いない。


(成功率を高める研究も、同時に行われていたはずだ。神からすれば、気が気じゃないよな)


 ふと足音が聞こえなくなった事に気が付いて、背後を振り返る。

 アビスは歩みを止め、眼下の古城を悲しげに眺めていた。


「今を生きる人間達は、殺す必要なしと判断された…今で言う落ちこぼれの末裔である。魔力の適性が薄く、魔術を使いこなせない者達の子孫であるな」


 アビスの言は、納得のゆくものであった。人類を皆殺しにしてしまう訳にはゆかない。それこそ、神の得られる糧がなくなってしまうからだ。下級神(ヤザタ)を切り捨てる事も覚悟していたようだが、それは最後の手段だったに違いない。


「では、アビスさんが人類の守護竜というのは?」


 俺の問いかけに、アビスは古城を見つめたままで答える。


「人類はあの時、魔術に明るい者達が駆逐された事で、魔物に対抗する術を、一時的とはいえ、なくした訳であるからな…誰かが守らねばならなかったのである。我ら竜種は畏れの象徴。力の象徴。我らを乗っ取ろうと画策する人間などは流石におらず、故に我らは人類の掃討に手を貸しはしなかったのである。だからこそ、人間達は我らを過剰には恐れなかったであるな。見ていただけでも同罪である—と、我は思うのであるが」


 最後には戯けてアビスは口を閉じる。なるほどな—と首肯を返せば、今度は面白い事を問いかけてきた。


「ところで、魔素にはどうやって対抗していたと思う?魔物の被害を抑えたとて、魔物化を食い止められなくては、産まれて間もなく魔物化するはずである。それに対する措置は?」

「む?…確かに…そうですね…」


 考えるも、何も思い付かない。全く分からなかった。

 首を振って降参を示せば、アビスは上機嫌に教えてくれた。


「魔素を吸収する装置…聖剣という物を神々は創り出したのである」


 聖剣—かつてアビスの語った昔話にチラリと姿を見せた程度の存在だ。それがこれほどまでに重要な物であるなど、思ってもみなかった。


「聖剣って…確か、以前に…」


 俺の言葉にアビスが鷹揚に頷く。やはり、聖剣の迷宮に秘蔵されている物の事であるらしい。


「そうである。まさにそれの事であるな。ところで、聖剣は魔素を吸収する。人間などがそれに触れては、たちまちの内に身体中の魔素を吸い尽くされてしまい、死に至る。故に、これを振るえるのは我々神々だけである。そういう意味でも、有事の際に備えて、我ら竜種—否、我ら混沌竜(アビス・ドラゴン)の一族が、人を守護する竜として、この地へ留まったである」


 情報量過多—というのは、まさに今のような状況を指すに違いない。次から次に新しい情報がやってきて、整理が追いつかない。気になる事も多かった気がするが、話の細かい事までは思い出せなかった。もういいから—と、ぶん投げて帰りたい心持ちだ。

 もちろん、いい大人である以上、そんな事はしない。ここまでの情報を整理しつつ、気になった事を尋ねた。


「人は聖剣を振るえば魔素を吸われて死に至り、魔物では魔石が砕け死に至る…というものですか?…ではなぜ、神は聖剣を振れるのです?」


 俺の問いかけに、アビスはきまりの悪そうな顔を見せる。何その反応?


「…耐えているだけであるな。神力は魔力よりも吸われ難い。柄を握るくらいならば、何とか耐えられるのでる。串刺しにされれば、アウトであるがな」


 何とも情けない話だった。聖剣って言えるのか?それ?魔剣・マナイーターとかの方が相応しいと思う。

 ところで、それとは別に思い出した事がある。邪神だ。かつてアビスは、邪神を異界からの侵略者の如く語った。けれど、あの時の話と今の話、どうにも無関係ではない気がする。


(いや、絶対に関係がある)


 確信めいたものを感じた。勘などというものは、技術職であれば鼻で笑い飛ばすものだ。技術屋ならば、理論と実績で物事を万事抜かりなく進めねばならない。だがしかし、仕事をしていて、おや?—と、己の作り上げた物に違和感を感じる事がある。実際、そういった時の勘は当たる。思うに、勘というのは、積み上げた知識と、培った経験から働くものなのではないだろうか。


「ここまでの話と、邪神との関係は?」

「…貴様…たまに驚くほど勘働きが鋭いであるな?」


 アビスから向けられるジト目を躱すかの様に、古城へと視線を逸らす。

 ややあって、嘆息が聞こえたため、アビスへと向き直れば、アビスはもの悲しげな視線を古城に向けていた。


「…人に力を乗っ取られた…或いは、明け渡した神々であるな。人類を粛清した時、同時に、一度はこの地より追放したのである。その内の何体かが、力を蓄えて、この地へと舞い戻ってきたのであるな」


 予想通りであった。邪神とは、いわば古代人の生き残りだ。


(…はぁ…根が深いな…)


 眉間を揉みつつも、ここまでの流れを整理してみる事にした。

 まず、古代人達が生活を営む中で、魔物化を恐れるあまり、神々と融合し、身体なのか力のみなのかは知らないが、これを乗っ取り始めた。それに成功した者を邪神という。

 それに危機感を抱いた好戦的な神達は、古代人—おそらくは、邪神も含めて—を滅ぼすために力を奮い始める。

 古代人は文明ごと滅び、邪神は他所の世界へと追放される。

 古代人の殺害には関与しなかった竜が人類を守護する事とし、同時に、魔素から人類を守るために、神々は聖剣を創り出した。


(…ここで、しばらくは竜の庇護下と聖剣の力で、人類は繁栄してゆく事になった訳だ)


 なんとなく大枠は把握できてきた。次は、何年後の話かは知らないが、邪神達が帰ってきた時の事だ。

 追放したはずの邪神達は、異界から帰り着き、悪逆の限りを尽くすも、これを止める事は叶わず、神も、人間の戦士も次々に倒れていった。アビスもまた敗れ去り、逃げ帰ったという事だ。


(この辺、詳細が分からないな…聞いてもいいもんか…)


 チラリとアビスを盗み見れば、アビスは真剣な眼差しをこちらに向けていた。


(…今は、やめておくか…)


 なんとなく、今は尋ねるべきではない—と考えて、次の段階へ思考を進める。


(ここで、聖剣の迷宮の発生か…)


 アビスが庇護していた人間達は、己が命を賭して、巨大な迷宮を作り上げた。聖剣を邪神達に奪われないよう、迷宮の最奥に封印したのだ。

 そして、アビスもまた聖剣と共に迷宮に閉じこもった。俺に出会すあの日まで。


(そうか、聖剣とは魔素を吸収する装置。ならば邪神達にとっても脅威なのだろうな)


 そこから、どうやって人類が今日まで生き延びたのか、知る由はない。少なくとも、邪神達は人類に手を出しはしなかったという事なのだろう。表立っては—だが。

 そして、人類はさまざまな手段を用いて試行錯誤した結果、精霊石に縋るという手立てを見つけたに違いない。魔物化を避ける術としても、魔物除けの結界としても—だ。


(アビスさんが地上にいた時代には、魔人族も獣人族も存在していなかったらしい。となれば、あれらは人が魔素に侵された、或いは順応していった結果なのかもな)


 ある程度、己の中で満足のゆく答えを出してすっきりした。

 ところが、一段落ついて余裕ができたからだろうか。はた—と、変なところに思考が飛ぶ。脳裏を過ったのは、現在、この世界に生きる人間と、古代人との違いだった。


(魔力適性が高い古代人でも、魔物化はする。けれど、魔力適性が高いという事は、魔石が体内にできても、順応できたんじゃないか?…すると、どうなる?)


 現在の人類の通説では、魔物化すると理性を失うらしい。ここまでその理由は不明であったが、それを魔力適性が低いからだと仮定した場合、とんでもない事に思い至る。

 そんなバカな—と何度も何度も考え直すが、一度そう思い込んでしまうと、己一人の力では、その泥沼から這い出す事はできなかった。


「…質問、いいですか?」

「…何であるか?」


 俺の掠れた声に、アビスが眉を寄せる。

 どう切り出したもんか—と僅かに目を泳がせるも、なるようにしかならない。覚悟を決めると、徐に尋ねた。


「俺が魔物化しても理性を失わなかった理由…今の話と関係がありませんか?」


 アビスの眼が驚きに見開かれるも、それは一瞬。瞬きの後には、彼の眼は細められていた。

 ああ、やっぱりか—と、天を仰ぎたい心持ちになった。アビスから見えないように片手を背後に回し、背中に亜空間を開く。いざという時のために、魔石を数個握り込んだ。

 だが、そんな俺の異変を逸早く察知したアビスは、ゆっくりと両手を上げつつ戯けてみせた。


「先に断っておくである。貴様を害するつもりは、微塵もないであるな」


 じっ—と、アビスを観察する。嘘は言っていないと思う。まだ警戒を解く事はできないが、魔石は亜空間へと戻した。どうやら、即座に戦闘という、最悪だけは回避できるようだ。


「どうして気が付いたである?」

「どうしてって…勘としか言えませんよ…」


 カラカラと笑いながら尋ねてくるアビスに、ジト目を送りながら答える。


「…貴様は本当に帰すのが嫌になるほど優秀であるな。うはは」


 アビスなりに気を利かせてくれた発言なのだろう。けれども、戯けて振舞う気分にはなれない。ああ、そうですか—と、乱暴に返した。


「つれないであるな」

「そうでしょうとも」


 腰に手を当てて嘆息するアビスにジト目を向けつつ、口を尖らせる。

 実に面白くない。今日まで俺は、魔物化したのに理性を失わなかったのは、運が良かった—と、楽観的に考えていた。けれども、そうではなかった。運ではなかったのだ。これは、必然だった。


「古代人…邪神と共に異世界へ行きましたね?」


 アビスを睨み付けながら問い質す。

 降参だ—とばかりに、再び両手を上げると、アビスは首を振って嘆息してみせた。


「…貴様の考える通りであるな。追放された邪神達と共に、多くの人間達も、他所の世界へと渡った…いや、逃げたである。また、その者達は、魔力への適性が高く、魔物化しても理性を失う事はなかったであるな。おそらく、お主の世界へ渡った人間達である…もしかすると、お主の世界の人間達は、皆この世界の先人達の子孫なのかもしれんである」


 ほぼ確定だろう。俺は、俺達の世界に生きる人間達は、この世界から追い出された、古代人の末裔だったのだ。


(魔力適正が高ければ、魔石との親和性も高く、魔物化による影響も少ないだろうな。…はぁ、人類って、猿から進化したんじゃないのかよ?)


 どんな文献を読んでも、人間は猿から進化した—と、書いてある。今日までそれを疑った事すら、あったかもしれないが、定説が覆ろうなどとは思ってもみなかった。


(俺は、この世界で言うところの、古代人の末裔か)


 これからどうしたものか—と、頭を抱える。古代人とは、神々からすれば、唾棄すべき存在だ。アビスは特に俺をどうこうするつもりもないらしいが、アビス以外にも神がいるとするならば、由々しき事態だ。

 今後、神という存在と出会す事があったならば、不用意に異邦人である事を告げる事はできない。神の性格によっては、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神で、即座に襲いかかってくる可能性も否定はできない。

 無論、不死系魔物(アンデッド)である事も隠さねばなるまい。魔物化して理性を失っていないだけで、古代人の末裔と勘繰られる事は間違いないだろう。


「安心するであるな。貴様はそんじょそこらの神には遅れを取らんほどに強いである。万が一、古代人の末裔というだけで襲いかかってくるような分別のない神がいたとするならば…返り討ちにしてしまえばよいであるな」


 俺の内心を正しく把握して、アビスが呵呵大笑する。

 そんな簡単な話じゃなかろうに—と渋い顔を作るも、それには触れてこない。敵対する神が現れる度に手を血で染めていては、やがて、古代人同様に危険視される事は間違いない。それであるのに、返り討ちなどという提案をしてくる辺り、いい性格していると思う。


(厄介だな…師匠達にも相談しなくてはならないか…)


 一旦、この話題は保留にするべきだろう。今後、どのようなスタンスで臨むべきか、きちんと仲間と会話をせねばなるまい。


「…その件に関しては、後々で。話を戻しましょう。…ええと、私のいた世界には、多分…魔素はありません。どうして帰ってきた邪神は、力を蓄えられていたのですか?」


 すぐに答えが返ってくると予想していたが、意外な事に、そうはならなかった。

 アビスは何かを想像でもしているのか、顎髭を摩りながら、目を瞑り唸る。しばらくはそんな事を続けていたが、分からないならいい—と発しようとしたところで、顔を上げた。


「…おそらくは、他の邪神を喰らい、己の力としたのであろう。この世界へと帰り着くために」


 アビスの言に、耳驚いて目を見開く。


「…共食い、ですか…」


 渋い顔を作る俺に、アビスは頷きを返した。

 アントロポファジーという表現が適切かは分からないが、やはり、俺の生まれ育った世界に魔素はなかったに違いない。やむに止まれなくなって、同族を食らったのだろう。生に対する邪神達の執念が垣間見えた。


「オサカよ、聖剣は神でなくては振るえぬのである。それでも、竜になる気はないであるか?」


 考え込んでいると、アビスが声をかけてきた。視線をむければ、アビスの顔は真剣そのものだ。どうやら、本気で俺を竜にしたいらしい。

 それにしても、随分と唐突に話題が巻き戻ったものだ。話が全く進まないために、焦れてきたのかもしれない。


(やだよ、面倒だし)


 俺は苦笑してみせる。これだけでも答えとしては十分だと思うが、アビスは未だに真剣な眼差しを解こうとはしなかった。

 やれやれ—と嘆息し、本心を語る。申し訳ないが、俺にはそこまでの責任感は持てない。

 


「聖剣がなくては邪神を倒せない訳ではないのでしょう?それに、私は不死系魔物(アンデッド)です。神になるのはなかなかに大変そうだ。そんな面倒なのはごめんですよ。聖剣はアビスさんに任せます」


 そう告げてニヤリと笑えば、アビスは呆れたかのような表情を作ると、腰に手を当てて大きく嘆息した。


「…まあ、貴様ならば、そういう選択肢もありかもしれんである。…全く、つくづく思い通りにならぬ男であるな」


 言葉や表情とは裏腹に、声音は何とも機嫌が良さげで、俺は思わず笑みをこぼす。

 俺が笑えば、アビスもまた声を出して笑った。


「ん?」

「お?」


 不意に俺達の頭上を影が覆う。

 何事か?—と空を仰げば、そこには、遠目でも、それと分かる大きな島が浮いていた。


「なぁ!?」

「おお、珍しいであるな」


 空中に浮かんだ島は、その下部しか窺い知れなかったが、遠方へ向かうにつれ、島の上部も見えるようになってくる。すると、驚くべき事に、島には人工物らしき建設物が見受けられた。


「く、空中都市?」

「ん?おお、よく分かったであるな。あれは空中都市である」


 思わず口を割って出た言葉をアビスが拾う。

 ファンタジー過ぎるだろ—と、目を見開いて空を泳ぐ都市を眺めていたが、やがて、島下部の岩肌に青白い紋様が浮かび始めると、島は嘘のように消えてなくなる。

 それを目の当たりにした俺は、再度驚きに目を見開いた。


「い、今のは一体…」


 即座にアビスに向き直り尋ねるも、アビスは口籠もり、なかなか応じようとしない。そんなアビスに焦れて再度尋ねれば、アビスは渋々口を開く。


「いや、その…我もほとんど知らないのである。我の父上の代…いや、その更に昔からあるものらしいであるから…むしろ、眼下に見える古城よりも、先の空中都市で、天使というものは見かけるものである…というくらいしか知らぬであるな…」


 アビスの言に、俺は再び上空を仰ぎ見る。既に空中に浮かぶ島はどこにも見当たりはしないが、まるで童心に返ったかのように、心が弾んでいるのを自覚した。


「まあ、何にしても珍しいのである。貴様、先の空中都市を見た事で、一生分の運を使い果たしたのではないであるか?」

「…それは、勘弁してほしいですね…」


 アビスの言から察するに、先の空中都市はそうそうお目にかかれる代物ではないらしい。しかも、そこには天使がいるのだとか。


(天使かぁ…まさか、実在するのか?)


 ラッパを手にし、羽の生えたふる○んの赤子を想像して、思わず唸る。会えても、あまり嬉しくないかもしれない。


(いや、待てよ?)


 空中都市に僅かに見えた建造物は、果たして赤子の手で作り得るものであろうか?—などと考えた。

 魔術、魔法の力でなんとでもなるかもしれないが、赤子サイズの天使には不要な大きさの建造物であったように思う。ならば、赤子以外の天使もいるのではなかろうか。いや、そもそも天使が赤子というのは、俺の世界の絵画から得た色眼鏡だ。俺がイメージする天使と、この世界の天使とでは、全く別物かもしれない。そう考えると、まだ見ぬ世界に、再び童心を刺激された。


「この世界は…本当に面白いですね」

「ぬ?皮肉であるか?」


 素直な気持ちを口にしたのだが、アビスはそう捉えてくれなかった。何故なのか。


「はぁ、もういいです。…ところで、どこまで話しましたっけ?」


 空中都市は何もかもを持ち去っていった。あまりのインパクトに、それ以前の会話の記憶が朧げだ。


「…我も思い出せないである」


 そしてそれはアビスも同様であったらしい。

 俺達は互いに笑みを交わした。


「ええと…じゃあ、そういう事なんで…改めて、よろしくお願いします」

「なんであるか、それは?…まあ、よいである。こちらこそ、よろしくであるな」


 手を突き出せば、アビスもそれに応じる。

 俺達は硬い握手を交わした後、再び眼下を見下ろす。古城は変わらずにそこにあり、まるで俺達の訪れを待ちわびているかのように静まり返っている。俺とアビスは古城を目指して、緩やかな下り坂を歩き始めた。


「ところで、ええと…何か聞かなきゃと思っていたのですよ…そうそう!邪神、古代人の事を考えるに、世界を渡る魔術はあるのですね?」


 視線を眼下に向けたままで、アビスへと尋ねる。

 あるはずなのだ。間違いなく。俺がこの世界へと呼び出された切っ掛けである魔法陣もそうだが、邪神や古代人達をこの世界から追放した—とアビスは言った。ならば、世界を渡るための魔法陣はあるに違いない。


「うむ…失伝したようであるが、そういった魔術は確かにあったである。作れる事は間違いないのであるな」


 アビスの言葉に、俺はニヤリと笑う。希望が湧いた事により、足取りが軽くなるのを感じた。

 まあ、すぐさま泣きが入るくらいの急斜面に差し掛かった事により、足取りなどは意味をなさなくなるのであるが。


「ふっ」

「不便であるな…人間は…」


 急勾配を降りるのは簡単な事ではない。俺ならば飛び降りても何の事はないのかもしれないが、怖いからなるべくならやりたくない。地上から高く飛んで降りてくるのと、崖から飛び降りるのとでは、どういう訳か怖さが違うのだ。

 そんな訳で、手近な出っ張りや亀裂を頼りに、俺はゆっくりと下を目指す。勾配と直角に佇んだアビスが欠伸をしているが、なるべくそちらは見ないようにした。腹立つから。


「こういう急斜面だと…流石に魔物も出ないんですね」


 辺りを見渡しても、それらしい姿はなく、何の気無しに口にしたのだが、アビスはそれを否定してくる。


「ふむ。この辺りの気候・植生から考えるに、貴様の世界でいうところの、山羊やら鹿やらの魔物は出ると思うであるぞ?それに、上空からの襲撃もあるである。さっさと下りてしまうがよいであるな」


 この世界には、安全地帯というものはないらしい。そうですね—と辟易しつつ、心持ち動きを早めた。


「ああ、噂をすれば—であるな。あれが山羊の魔物であるな」


 ほぅ?—とアビスが指差す方へ視線を向ければ、やたらと立派な渦巻状の角をもつ山羊が、急勾配をピョンピョンと跳ねていた。見事なものである。

 山羊は岩棚の上まで一気に駆け上がると、そこで一息ついて首を震わせる。まるで、大きな角が邪魔であるかのような仕草が面白い。


「…あ。こっち見ましたね」

「…逃げていったであるな」


 やがて、脚を折って座り込もうとした山羊だったが、我らの存在に気がつくと、一も二もなく斜面を上り、去っていってしまう。少しだけ傷ついた。


「…魔物なんだから、襲いかかってこいよ…」

「…貴様は、己がどう見えているか分かっていないから、そんな事が言えるである。魔素に鈍感な人間くらいであるぞ?貴様の姿を見ても怯えないのは」


 そうですか—と、口を尖らせる。

 斜面はほぼ絶壁に近くなり、手足を預ける場所選びも慎重にならざるを得ない。そんな中、崖に対して直角に生えている気持ち悪いおっさんには、何も言われたくない。お前こそ、己がどう見えているか知った方が良い—などと、内心で毒づいた。それに、グリフォンは襲ってきてくれたし。


「ほっと!」


 やがて、飛び降りても問題なかろうと思われる高さまで辿り着けば、俺は壁を蹴って開けた場所に着地した。

 遅れてアビスも俺の隣へと着地し、着地の衝撃で乱れた前髪を正してから立ち上がる。


「これは見事な森であるな…」

「はは、皮肉が効いてますね」


 アビスが呆れたような目で周囲を見ながら呟く。

 俺もまた、心持ちはアビスと同じであった。


(どうなってる?上から見ていた限りでは、普通の森だった。けれども、これは…)


 山の尾根や絶壁を下っている途中、眼下に広がるのは鬱蒼とした森林であったはずだ。ところが、実際に降り立ってみれば、どこまで遠くを見ようとも、木々に葉は残っていない。そればかりか、木は押し並べて、どこか普通の木とは違って見えるのだ。


「随分とまぁ…乾燥した土地であるな。微塵も水分が残っていないように見受けられるである」


 そう言ってアビスが土を摘めば、土は軽く振るっただけでも砂のように細かく分離し、手からこぼれ落ちた。


「…え?いや、海沿いですよ?おかしいでしょ?」

「しかし、現に乾燥しているであるな」


 そんなはずは—と俺も土を軽く掴み上げ、数回揉んでみるが、確かに水分を含んでいるようには感じられない。


「そもそも、こうして立っているだけでも、口の中が凄いスピードで乾いてゆくのである」

「言われてみれば…」


 口の中から水分が失われ、いやに粘つく。

 不快感に舌打ちして、先に感じた違和感の正体にも気が付いた。木も完全に乾燥しているのだ。まるっきり水分が残っていない木というものは、思い描いていた枯れ木と合致せず、それをおかしく感じたものだろう。


「アビスさん、水を」

「うむ。すまぬであるな」


 水魔術で即座に水を生み出し、アビスに飲ませつつ、己も喉を潤す。水は生み出した先から即座に消えてゆくため、満足する量を作り出すのには、なかなかにMPを消費する。

 やはり、どう考えても、この場所はおかしい。俺とアビスは頷き合うと、古城目指して歩みを再開した。


〈オサカよ、聞こえるであるか?〉


 前を歩くアビスから念話が届く。口を開いては凄まじい速度で水分が失われてしまうからの措置だろう。


(はい、聞こえます。どうかしましたか?)


 また喉が渇いたのか?—と水を作り出す準備をするも、アビスの用件は違った。


〈こんな高域を魔術により干上がらせ続けるとしたら、一体、どれほどのMPが必要である?〉

(…なるほど。あまりにも常識を逸してますね)


 言われて気が付いた。俺ならば普通にできてしまうため、気にも留めなかったが、規模がおかしいのだ。


(何かしらの呪具を用いれば…或いは。それでも、呪術を維持するのに、膨大な贄を用意する事になると思います。こんな何もない場所で、やる事だとは思えません)


 俺の発言に、アビスが振り返った。


〈何故、何もないと分かるである?メキラ王国が管理しきれていない、村や町があるかもしれないであるぞ?〉


 もっともな疑問であるのだが、それに答えるのは今ではない。場所が悪いのだ。もう少し、長く語れる場所でなくてはならない。そうでないと俺の衒学癖の渇きは満たされない。それに、できればファーレンが居て欲しい。リアクション王ファーレンが。


(種明かしは後でやりますが、この辺には何もないですよ。あるのは古城くらいで、どこまでも絶壁が続き、禿山が広がるのみです。山の上で魔物を一匹しか見かけなかったのも、それが理由かもしれません。食べ物がなく、食物連鎖が成り立たないのではないでしょうか)


 一息に告げれば、アビスは肩越しに見せる目をますます細めた。けれど、それもすぐに平常のものへ戻れば、まぁよいであるな—と、視線を前に戻す。納得してくれたらしい。


〈では、貴様の言うように何もない場所で、こんな馬鹿げた真似をする必要はないであるな。木々や大地の乾き具合から見て、昨日今日の話ではないである。となれば注意せよ。“権能”の可能性が高いであるからな〉


 目を細めてアビスの背中を見る。アビスはこちらに背を向けて歩いているが、僅かな緊張が見て取れる。周囲を警戒しているのかもしれない。


(邪神がいる—と?)

〈かもしれんである〉


 アビスは可能性を示唆するに留めたが、実際のところはどうなのだろうか。魔術によりこんな事をしようとすれば、莫大なMPを支払い続けなければならない。呪具を用いれば、今度は定期的な贄がいる。それも、アビスが言ったように、昨日今日の話ではないだろう。木は完全に朽ち果て、大地は死に絶えている。川があったであろう窪地も、今は剥き出しの土があるのみだ。一体、何年に渡り術を維持すれば、これほどの事態ができあがるものだろうか。


(しかも、簡単に町へ辿り着ける距離にはない。補給もままならないだろう。亜空間による擬似転移—は、そうそうできる事でもない。となれば、尚更、真っ当な相手ではないのだろうな)


 では、ここで己の想像が及ばない超常の存在の仕業だとすればどうだろう。権能ならば、ランニングコストはかからない、或いは、少量で済むのかもしれない。そして、神だとするならば、魔素さえあれば、食事は不要—なのだろうか?


(情報不足だけれど、神の仕業—と考えた方がしっくりくるかな)


 結局、何もかもが想像の域を出ず、何も分からず終いだ。そもそも、こんな事をする理由が不明だ。この土地を死の大地にしたところで、一体何があるというのか。


(出たとこ勝負かぁ…やだなぁ)


 現地の言葉なんか喋れもしないのに、しょっちゅう海外出張に行かされていた身としては、出たとこ勝負は得意な方だったりする。だがしかし、それとこれとは話が別だろう。


(辺りを漂う魔素もなぁ…どうにもおかしいしなぁ…)


 口の中に水球を作り出して、喉を潤しながら気が付いた。俺の消費されたMPが、ほとんど回復していないのだ。

 周囲の魔素を具に捉えてみれば、通常の魔素とはどうにも様子が異なるではないか。それが故に身体が取り込めないらしい。

 何もかもが初めての事で、嫌な予感しかしない。これは本当に邪神が出てくるかもしれない—などと考えて、思わず嘆息した。


(静まり返っていますね…)

〈そりゃそうである。魔素が瘴気に満たされているであるな。出たとして、不死系魔物(アンデッド)くらいであるな〉


 俺とアビスの二人は、古城の前まで辿り着く。早速—とばかりに、古城の外観をぐるりと見て回り、人気のなさに嘆息した。

 周囲を漂う気配は、先の違和感を感じる魔素は少なくなり、代わりに—と言って良いのかどうかは不明だが、瘴気を伴うものへと変わっていた。


(ああ、やはり瘴気はいいな。落ち着く…じゃない!なんなんだ一体!この古城もおかしいぞ!?)

〈まあ、おかしいと言えば、おかしいであるな〉


 古城は石造りであり、山頂からは分からなかったが、絶壁側は半壊していた。どこから崩れ始めたのかは知らないが、瓦礫の上に積もった土と生い茂った植物の朽ちた様が、この城が長い事放置されていた事を物語っている。

 そして面白い事に、城壁は見当たらない。その代わり、周囲にはいくつもの魔法陣が張り巡らされていたらしい痕跡を見つけた。近代の人間達は、城壁を築いて周囲の脅威から身を守っているが、この時代の人々は、魔術により脅威から身を守っていたようである。

 俺がその魔法陣を順に追ってゆき、その効果に気が付いた時、それを見て取ったアビスが語る。


〈そう、貴様が蟻との戦い—いや、蹂躙であるな、あれは。蟻の蹂躙劇で見せたものである。魔法陣を魔法陣の制御文字として使用する、“天極陣”と呼ばれた魔術である。かつて繁栄した魔術文明とも呼ぶべき社会では、当たり前のように使われていた技術でもある〉


 思わず舌打ちした。世界初なのではないか?—と思われる快挙を成し遂げた気分になっていたものが、誰でもお手軽に使えた魔術であると発覚したのだ。正直言って、超面白くなかった。

 だが、剝れる俺には構わず、アビスは更に続ける。


〈まあ、安心するである。単独であれほどの魔術を見せたのは…人・魔物部門では貴様一人である〉


 人・魔物部門?—と、訝しんでアビスに尋ねる。


(つまり、神々は、単独で魔石を用いずに、あれが出来ると?)

〈うむ。そうである。我クラスの神ともなれば、本気を出せばいけるぞ?我は魔術は苦手であるから、無理であるがな〉


 魔術に秀でた神ならば、単独での天極陣の行使が可能らしい。くそぅ—と俺が不貞腐れて唸り声を上げると、アビスは苦笑いしながらフォローしてくる。


〈仕方ないである。当時の神々は、そういう魔力や脳の使い方に特化していたである。その分、他の事に関しては注意が散漫であったりと、散々であったであるな。逆に年若い神では、同じだけの力を持っていても、あれを単独でなし得る事は不可能であるな。それだけの快挙である。誇るである。貴様は誰に言われるでもなく、その頂に到達したのだから〉


 アビスにここまで言われては、いつまでも剝れてはいられない。魔法陣から視線を外して、徐に立ち上がると、城の正門へと向かった。


(…行きますか?)


 正門と思わしき朽ちた扉を前にして振り返るが、アビスは首を振る。

 え?なんで?—と渋い顔を作れば、アビスは苦笑しつつ空を指差してみせた。


〈もう夕刻であるぞ?明日にしてはどうであるか?〉


 アビスの言に空を見上げれば、確かに空は茜色に染まっており、日暮が差し迫っている事を教えてくれている。


(…ですね。気にはなりますが、明日、また出直しましょう)


 明日の探索を提案したアビスに頷いて返し、今日のところは、大人しく小坂邸へと帰宅した。

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