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6.白翼竜、奴隷たちに身の振り方を示す


「あぁ、ありがとうございました」

「あの奴隷商がこちらを狙わなければ、お前らを助けることもなかった。

 礼を言う筋合いもそちらにはない」


 奴隷たちは跪いて、涙を流しながら礼を言う。ヴェルはそれに興味のないかのように返した。


「それでも、我々に解放と復讐の機会を与えてくださいました。

 なにとぞ、恩返しの機会を与えてください」

「ううむ、そう言われてもだな」

「ヴェル様、あの赤子の世話となれば、もう少し人が多い方がいいのでは。

 それにこれだけの人数であれば、ヴェル様の居城もさほど汚れはしませんし」

「そうか、では、繋がれていた者どもよ。

 恩返しをしたければ、ここから遥か遠くに見える、あの巨木の麓まで来るがよい」

「あ、あそこは世界樹・・・!

 となると貴方様は!」


 ヴェルは興味がないのでよくは知らないことだが、ヴェルの住んでいる遺跡と巨木は人間からは世界樹と呼ばれ、そこに邪竜が住んでいると伝えられている。もっとも、人間側からは正式な調査などはされていなかったので、あくまでも与太話の一環として王国では扱われていた。


「そうだ、この方こそ、魔王の同盟者にして白翼竜ヴァ=ヴェル様である」


 レギスの言葉に奴隷一同は恐怖に静まり返る。魔王の同盟者となれば、どのように振舞えばいいのかわからないのだ。それに魔王の同盟者と言えば、そもそも治安や経済の悪化によって彼らが奴隷に身を落とすはめになった原因、その元凶の勢力ともいえる。


「あなたたちの考えていることはわかります。

 ヴァ=ヴェル様のせいで、この地が荒れ自らの身が奴隷へと堕ちたと考えているのでしょう。

 ですが、『君臨せど支配せず』がヴァ=ヴェル様の方針です。

 魔王や他の同盟者の支配地に比べて、この地では魔物から人への不必要な攻撃は行われておりません。

 あなた方がヴァ=ヴェル様の居城の門をくぐり、首を垂れるのであれば悪いようにしません」


 ハティの言葉にもやはり一同の身は堅いままだ。そこに言葉を足したのはスコルであった。


「うーん、ヴェルさまが信じられないなら好きにすればいいけど~。

 あなたたち、もう逃亡奴隷扱いなんだよ~?

 ま~だいたいは私たちが殺したけど~、一部はあなた達が殺したんだから~。

 他の街に行っても、身分の確かな奴隷商を殺した奴隷でしかないわけ~」


 実際は奴隷商ではなく用心棒であるが、スコルはあえてそう言って奴隷たちにプレッシャーをかけた。


「え、ええ、そのとおりです。

 我々も檻から出してもらった時点でその覚悟はしていましたとも」

「俺ぁ、この竜さんのところに行こうと思うね」


 と、声をあげたのは御者である。彼も奴隷商人に加担しては居たが、新入りということもあり特に奴隷の虐待はしていなかったため、生き延びていたのだ。


「あんた・・・!」

「こうなっちまえば、奴隷商側で俺だけ活かされるのも不自然でしょ。竜とオークと人狼(ワーグ)に襲われて御者だけ生き残るなんて与太にしても酷すぎら。

 このままあんたらから離れた街に行っても、尋問されて投獄さてしまいまさぁ。

 と、なれば、竜でもなんでもいいから庇護してくれるところにいくさ」

「うむむ」

「幸い奴隷商たちの食料はあんたらの分も十分に積んである。

 ついてこないってなら、俺ぁてめえの分とあと馬さえもらえればそれでいいさ。

 あんたらもついてくるっていうなら馬車の運転はさせていただくがね」

「いや、わたしはついていく」「俺も」「僕も!」


 御者がヴェルの居城に行くと表明すると雪崩を打ったかのように奴隷たちは彼に賛同していく。


「えぇ・・・ヴェルさん・・・だっけ?

 これでこいつらをあんたの城に連れて行くことになったがいいかね」

「おい、御者の身分でヴェル様に馴れ馴れしくするな」

「よい、俺は気にしていない」

「あぁ、そりゃありがとさん。

 できるなら、道中の魔物に俺たちを襲わねえように言ってくれねえか?」

「俺の方針は放任だから、承諾しかねるが」

「それは私たちで行っておきましょう」


 と、ハティが横から出てきて、奴隷馬車の荷台の布を切り取る。


「この匂いと柄を配下の人狼(ワーグ)と狼に教えておきます。

 それで、この馬車に近づく魔物を遠ざけるよう指示しておきましょう。

 ・・・かなり臭いので、きっと配下の者たちも覚えてくれるでしょうね」

「そりゃ、助かるべっぴんな嬢ちゃん」

「・・・ッ!

 嬢ちゃんではありません、私はハティというちゃんとした名があるんです」

「おぉっと、そうかい。

 じゃあ、ありがとな、ハティちゃん」

「・・・ちゃん付けはやめてください」


 何はともあれここですべきことは済んだ。それよりもヴェルは自分の寝床に置いて来た赤子のことが気にかかっていた。ヴェルが飛んでいこうとしたとき、かなりぐずっていた。まさかとは思うが、また泣いているだろうか。


「よし、レギス、スコル、ハティ・・・あと乳母よ。

 一足先に居城に戻るぞ」


 ヴェルはその四つ足で立ち上がった。木の幹ほどもあるその足にレギスとスコルとハティはしがみ付く。一方、赤子を抱えた少女は戸惑ったようにそれを見ている。


「どうした、早くつかまるがよい」

「え、えぇ・・・?

 それで空を飛ぶんですか?」

「それ以外、何がある」

「いや、人間の握力ではとてもしがみ付いていられないんですけど」

「・・・人間はそんなにやわだったか。

 ハティ、その乳母を俺の足に括ってやれ」


 ハティは少女が落ちないようにしっかりと少女をヴェルの足に括り付けた。また、赤子もずり落ちないよう乳母の体に何重にもひもを巻いてやった。


「あ、そうです。

 毛布などがあればいただけませんか?」

「あぁ、まぁ奴隷商たちの分でよけらぁ」


 御者から毛布を受け取ると、ハティは少女と少女の赤子を何重にもくるんだ。少女は遠めに見たら、ミノムシのような恰好になっていた。


「空は結構寒いので、人間には辛いかもしれないので」

「はぁ、ありがとうございます」


 空を飛んだことのない少女は半分不思議そうにハティに礼を言う。


「それでは、ヴェル様、よろしいです」

「うむ、では」


 ヴェルはばさりと翼をはためかせる。同時にその巨体が地鳴りと共に舞い上がる。


「はわわわ!」


 少女も想像していたとはいえ、その足元から地面が遠ざかる感覚に怯えていた。


「行くぞ!」

「はわわわわわわわわわわわ!」


 ヴェルはそのまま猛スピードで己の居城へと飛んでいった。それからしばらく少女は生きた心地がしなかった。

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