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商人の船酔い

 私達は無事佐東市を出港した。出港前、有力商人を二人手に入れることができるという幸運なアクシデントもあった。もちろん、積極的に商人を自分の仲間にしたのは、商交渉を自分で進めるのが面倒であったからというのが一番の理由である。私は檀家に寄生したようなパライサイト生活を送っていたのだ。自分に能力があるなどと思ったことなどは一度もない。ので、できる人に任せるのが合理的であると判断した。自分に足りないものは他で補えばいい。これが私の考えである。

 また懸念していた村上家の過書について。これは村上が有している領海へ侵入する通行書なのだが、これがないと非常に面倒な事態がおこる。やはり「佐東衆」ごときではもっていなかった。しかし、直正がそれを有していたため、楽に瀬戸内海を通行ができた。苦難が続くと想定していた船旅は直正のおかげで婉曲に進んでいた。まさに有力商人様々である。武士だとどうにも気性が荒く、すぐに戦闘行為に及びがちである。これは鎌倉武士団に対しての評価であるが、「武士はヤクザと同じ」とはよく言ったものである。まるでヤクザと一緒にいるみたいであった。

 それはさておき。私達は堀立を出て、尾道、牛窓…と通過し、兵庫関までだいたい6日程度で到着した。ほとんど海賊による案内であったため、遭難などはまずなかった。おっと失礼、問題なら一つだけあった。

「すびません。私、商人の癖に船に乗れないんです。」

 船酔いしていた藤左衛門の情けない声が響いた。なんでも遠隔地への商売にでなかったのは、でれなかったのではなく、船酔いを我慢できる度胸がなかったからであった。そこで今回を契機に一念発起して、兵庫関・堺まで行こうと考えたのだ。しかし、30分もしないうちに、リバースしてしまったのが現状だった。

「竜、手間をかけるが、藤左衛門についてやれ。」

俺は竜に背中を擦るよう頼むと同時に看病もお願いした。兵庫関の時点では彼女は使い物にならないことを想定したほうが良い。当の本人は「ずびません。」と吐き気を我慢しながら謝罪をする。

「先が思いやられる。」と直正はデコに手を当てて言った。それにしても、藤左衛門にこんな弱点があったとは。

 さて兵庫関に無事ついた。兵庫関とは「大輪田泊」のことであるといった方が馴染み深いだろう。そう平清盛が一時の都、福原京を築いた地である。それ以降も経済の要衝として、西国各国の船が商品を運んできていた物資の集散地であった場所である。当然商人や職人などが住み着き、店舗を開き、町としての活況を呈していた。しかも京都とは川でつながっており、西国の物資が畿内・京都へ運び込まれる入り口として機能し、中世で有数の大都市となっていた。ただし、それは堺が登場するまでである。

 堺が登場して以降、兵庫関の勢いは弱くなり、徐々に商人の出入りも少なくなった。だが、権力は未だに兵庫関の有用性を認識しており、戦国時代、細川氏や三好氏は積極的に統治に努めた。なので、私もその重要性を十分に認識して、兵庫関によった次第である。

 しかし、兵庫関では何か手柄を獲得することはできなかった。私の思っていた以上に兵庫関に経済地としての権威がなかったことに驚いた。強いて言うならば、直正と満身創痍の藤左衛門が西国商人とのコネをつくってきてくれたこと、また猪野川流域に広がる本願寺や興正寺寺院下の職商人などと関係が形成できたことである。尼崎に進出しつつある真宗寺院との関係を構築できたことは幸運であった。

 まぁ直正や藤左衛門は中国一円では手に入らない代物が手に入って非常に嬉しそうではあった。ちなみに藤左衛門に関しては、満身創痍でありながらも、一番に船を飛び降りて、元気よく?飛び出していった。その時はこいつの船酔いはもう二度と心配してやらないと誓った。

 しかし、「若坊様、若防様見てください。きれいな唐焼が破格で手に入りました。」という天真爛漫な笑顔をみて、その恨みは吹き飛んだ。再三忠告するが、私はロリコンではありません。

 いろいろな不安を懐きながら次なる目的地である堺へと向かった。


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