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職業坊主、いつの間にか戦国時代へ飛ばされてた  作者: 証秀
1章 今 、安芸国佐東郡
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不穏ー未来の出来事ー

 佐東郡の北側に聳える小高い山の上に城郭が立っていた。権威を示す建築ではなく、戦争のためにつくられた城であるので、その風貌は質素であった。その城の中央館のなかで歴戦の雄が数人で円座を組んでいた。その場は静寂、かつ緊迫した状況であった。それを物語るように、各人の額に汗が滲んでいたことからうかがえた。ただそのなかで一人、口元と顎にひげを蓄えた男が、怒りに身を任せて口火を切った。


「香川殿、聞いていないぞ。なぜ佐東市があそこまで潤っている。それはおろか、宮島・廿日市や尾道などにも来ないような武器商人、鷹商人まで出入りしているというではないか」


「何をいうそれより問題は佐東市商人のつながりが堺や兵庫関といった大坂湾だけでなく、紀伊、三河といった湾岸沿いにも商域を広げている。この成長速度は中国地方一といっても過言ではないぞ。最近ではこの噂を聞きつけた石見銀山の銀山商人までも目をつけ始めたそうだ」


「瀬戸内海沿いの港の人は皆口々にこういっている。佐東市で揃わないものはないと」


 香川と呼ばれた男は苦痛を浮かべながら、言葉を出せないでいる。それそのはずだった。現武田家頭首は暗愚であった。滅亡まで秒読み、家臣や連合を組んでいる国人らは早々に大内氏サイドに寝返る準備をしていたのである。もちろん、自分の家の生き残りを賭けてである。ところがどっこい。光和は佐東市復興によって一縷の望みを与えてしまった。故に彼らは迷い、戸惑い、どちらに味方するのが利益を呼ぶのかを綿密に計算している。


「香川殿!!なにか喋られたらいかがか」


「何を騒々しい」


 パシッと戸を開く音と同時に、女の甲高い声が響いた。女は髪を後ろに結い、男の装いをしていた。ただ彼女は姫と呼ばれる人種ではなく、本来的には男が務める家長であった。彼女の名前は熊谷信直。熊谷家の当主にして、武田氏と友好を結ぶ周辺国人のなかではナンバーワンの実力を持つ人間であった。しかも、家名だけでなく、戦も滅法強かった。故に彼女の姿をみた男どもは怯えた表情を見せる。


 しかしその中の一人は恐れずに声を張る。


「しかし、我々の意思を揺るがす一大事ですぞ」


「だから、私はいったではないか。なぜ光和様を信じないのかと」


 歴戦の雄らは「何をぬけぬけと」と思ったが、それを口には出さない。確かに信直がそれを口に出していたことは確かであったからだ。一人寝返り派の男が口を開く。


「しかし、数ヶ月前までの武田は空前の灯火、なぜこのような事態になったかも理解できない。未だ検討の余地はある」


 他に連合している国人らの意思は煮え切らない様子だった。信直はその状況に歯軋りをし、あからさまにイラつきを見せている。その姿を見て、信直が爆発しないかを彼らは気にしていたため、意見が出せないのだ。


「貴様らは本当にコソコソと鼠のような真似がすきだな。この中で武田を裏切るとして目をつけられているのは私だけだ。なぜなら、私が一番毛利と仲がよくしかも一度裏切っているからな。それに他の者らは自らの保身ばかりを気にし、自ら行動を起こそうともしないことも私の悪目立ちを手伝っているのだろう」


「しかし、この世を生き抜いていくには慎重を期して…」


「ええい、やかましい。私は今日限りでこの連合を抜けさせてもらう。貴様らに付き合っていたら、私達の未来は破滅だ。私は光和様に味方し、家の存続を果たす」


 信直は啖呵を切ると翻して、乱暴に襖をあけ、身を投げ出すように飛び出した。その後、円座の半分ぐらいの盟主も信直につづき、「抜ける」と告げ、館を後にした。残りのものは愕然とし、腰を曲げ、頭を抱える。


「それにしても、なんなのだ。光和様の背後で暗躍する超順という坊主は」


「某、彼とは長い付き合いであるが、昔は坊主の癖に槍を持ち、戦場を駆け回るような気性の荒い男だった。肉体派という言葉があっている。しかし今は見事な手腕で貿易を成功させた頭脳派に成り代わっている。まるで人間そのものが変わったかのようだ」


「し、信じてみてもいいのではないか。京都の首都機能が低下した今、その領地の領主の手腕で経済状況が変動している。ほとんどの人間が家臣団経営に失敗している中、光和様は超順を重用し、見事に首都機能に依存しない商人のつながりを形成し、新しい経済圏を築き、これを動力源に家を復興しようと試みている」


「信じても良いのか。安芸国の統一を。足利幕府始まって以来の悲願を」


中年・初老の武士たちはお互いを見つめ合った。10分30分…口を紡いでから、かなりの時間が経過する。だが、彼らはすでに答えを得ている。光和に味方をするべきであると。しかし、彼らは「保守的」であった。誰かが言い出してくれるのをずっと待ちぼうけている。そして悠久に時間はすぎていく。

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