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職業坊主、いつの間にか戦国時代へ飛ばされてた  作者: 証秀
1章 今 、安芸国佐東郡
3/19

提案

「若坊様!!」


 蔵の外にでた私に声を掛けてきたのは、猫目の可愛らしい女性だった。着衣に関しては中世で一般的な小袖姿、背丈があり、足の長さもモデルのようであった。流れるように真っ直ぐな髪の毛が美しい。その表情を見ると、何やら急を要することがあるようだ。


「どうした、私になにかようか」


 一応領主(境内レベル)らしいので、私の思い描く領主然とした姿―胸を張り、声音を低くする―で答えた。強がっている感じがするが、まぁ気にする必要はないだろう。


「ええ、若坊様。それが領主様がお見えに…」


「光和様か」


「はい、そうです。何やら思いつめている様子で」


「なぜ、思いつめたら、私の元にくるのだ」


 私の質問の意味がよくわからなかったのか、美しい女性は無表情に首をかしげている。これは自分で考えるしかなさそうだ。推定であるが、私は武田光和の相談役を担っていたのではないだろうか。まぁ思いつめたときに来る動機などその程度しか考えられないが。おそらく、ここ最近足繁く通っていたのだろう。


「いや、済まない。今のは一応要件を聞こうと思ったまでだ。気にするな」


「いえ、こちらこそ子細をお尋ねせず申し訳ありません」


「良い。それで、えーと、君の名前なんだっけ」


「若坊さま。まだお若いのにボケが入っているんですか。私は竜ですよ。円龍寺住職の竜です」


 私は頭を掻き申し訳なさそうに振る舞い、それに対して竜はやれやれといった様子を見せる。竜の話を総合すると彼女は私の部下ということで間違いない。先程目を通した由緒書に仏護寺の末寺一覧が掲載されていた。そこに円龍寺の名前があった。つまり、今までの態度は無礼に値しない。正解だったわけだ。


「ああ、済まないな竜よ。それでは案内してくれないか」


 竜は「はい」と無愛想に答え、後ろを向き、歩き始めた。彼女の歩行はなんだか艶めかしかった。その尻を追いかけるように、私も歩き始めた。



「おお、超順。我が親友よ」


 光和は私の顔を見るなり、立ち上がりハグの準備をしていた。アメリカ人かよ。その顔立ちはひ弱な少年といった様子であった。どちらかといえば女の子、いや中性的というべきであろうか。如何にせよステレオタイプな武士の息子という風体ではなかった。現代であれば、男の娘アイドルとして、売れていたかな?なんにしても領主にしては頼りない。ただ着衣は一級品で由緒正しき武士が身につける着物を羽織っている。一応私はその抱擁には応じた。


「して、どうなさいましたか。光和様」


「おお聞いてくれ。最近周辺の国人どもが騒がしいのだ。もしや、大内や毛利の調略に合ったのではないかと思って」


戦国時代に来て初めて、馴染み深い名前に出会った。毛利元就、戦国時代に活躍した梟雄。私の時代でも知名度は抜群だった。私は自分の興味関心から彼の動向に詳しかった。確かに武田氏に味方をしていた国人は同盟を断ち切り、毛利氏方につく。彼の懸念はあたっている。しかし、私は預言者ではない。迂闊に未来予言などしてしまっては、根拠のない妄想だと一笑に付されてしまう。それに今は自分の立場を探し出す必要があるため、差し障りのない回答を返す。


「そうですね。可能性は否定できません。毛利氏の背後には大内氏がいます。一方で私達は尼子氏の庇護を得てやっと生きながらえています。それに彼らは救援に来るかも怪しい状態。国人たちは自分の家を存続させるために大内・毛利氏側につくかもしれません」


「そうなのだ。尼子も援軍に関しては生返事しかしないし。最近熊谷や八木の様子がおかしいのだ。呼び出しに対して不調を訴えて出てこんのだ」


「毛利氏は我々と今や同格ではないでしょう。石見・備後・安芸の国境の国人を結集する頭目です。一方で、私達は落ちた古豪。かつて守護を務めた家柄であるといっても、その栄華はすでに散っているでしょう。その証拠に仁保島の海賊白井氏は武田と袂をわかっています」


「うーん、超順は情報通だな。先代に起こった出来事まで網羅しておるのか」


「当然です。私は主の相談役でしょう。物事を知らねば相談など叶いますまい」


「頼りにしている」


 相当精神にきているのだろうか。優しい言葉に目を潤ませる。それになんだか落ち着かない様子でもあった。なにか言いたいことがあるのだろう。私は自分の役割がこうではないかと考え、優しく発言を促す。


「光和様、この超順、光和様の頼みでしたら、その期待に答えましょう」


 光和は逡巡する。30秒ほど間が空いた後、口を開く。


「超順、ワシと一緒に戦って死んでくれんか」


「ほーう、光和様。あなたは負ける前提で戦をするのですか」


「ひっ」


 私の声は冷え切っていたのだろう。なぜならば、最初から勝敗を決めることが私は嫌いなのだ。それに戦うならば、それに全力を尽くす。それが私の流儀である。これは高校時代に部活で培った精神構造である。ただし、自分は練習したりはしない。味方をいかに使って勝つのかを私は考えている。


「若坊様、領主様が貴方の殺人鬼みたいな顔に驚いています。起こると怖いんですよ顔」


私の後ろに控えていた竜のおかげで、私は平静を取り戻した。竜の方を見ると、ジトッとした目で私を見つめていた。それはさておき君主様に対して言葉を続ける。


「光和様、ここはどこですか」


「えっ金山であるが、」


「その麓は由緒正しい古代以来商業発展続けてきた港町である金山城下があります。しかし、見てください。あの薄暗さを。都市としての体裁を保っていない。あれでは碌に人も出入りしていないのでしょう」


「だからなんのだというのか。今更町を復興して何ができるというのか」


「当然でしょう。武田氏の経済力を同盟国の存在なしの独立した運営可能な状態に構築していくこととその厖大な資金で最新装備を購入し、そして我が領国に味方をする利点を作り、味方を増やす、といったところが見込めましょう」


 光和は唖然とする。私も口走り過ぎたと思ったが、以前の超順ではこんな事を思いつきもしなかっただろう。なぜならば、私の持つ未来の知識と歴史の知識がこの策を献じるのに手伝っているからだ。今彼の目の前にいる超順は領国維持のための物凄い方策を提示したのだ。驚かないはずがない。


「武田を自分の代で滅ぼさなくても良いのか。超順」


「無論です。私の先程の策とこれから提示する施策を行えば、必ず周辺の屈強な大名たちに勝利していく実力が我が国につくでしょう」


光和は涙を流す。超順の言っていることが叶わなくても、お家存続の一縷の望みを手に入れたのだから安心したのだろう。


「光和様、加えて先代がやった偉業が正しかったと証明してみせますよ」


「偉業とはなんじゃ」


「佐東郡に積極的に真宗寺院を誘致したことですよ」


「なぜじゃ、あれは流行に合わせた判断であると思うが、」


 私はその質問に対して明確に答えなかった。こういった手合は手品のネタをすべて明かしてしまうと、第3者にすぐに話してしまう。光和は人を拠り所とすることで、愚痴を漏らすことで、自分の中の不安に折り合いをつけるのである。つまり、光和は、不特定多数の人間と対話をしており、先に戦略がばれてしまうことが懸念される。やはり、功績は静かに立てるものだ。功績を挙げることを宣言するのは、非常にリスクが高い。平和な私の時代でも、功績の争奪ゲームは常に繰り広げられている。人は人のものを収奪して生き残る生き物である。推測だが、戦国期はそういった欲望がどの時代より一層顕現している時期と思う。故に私は話さない。


「ふふっ、ビフォー、アフターをお楽しみに」


「びふぉ??」


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