憎悪と復讐の始まり
久しぶりというか初めてのような…。
目の前にあるのは古びた小屋の壁だけだ。
私はただ、裸同然で寝てしまっただけだ。
そう、私はただ…。
でも、見たくも無い。
知りたくも無い。
分りたくも無い。
だって…。
「嘘だと言ってよ…」
目の前に広がるのはゴブリン達がいる光景だった。
そいつらに捕まった女性の末路は有名だ。
子を作る為にひたすら犯され続ける。
それが死ぬまで続くのだ。
たとえ助かったとしても犯される前じゃなければ、その女性は一生の傷を負うことになる。
それは嫌だ。
でも私には力が無い。
力がほしくて冒険者になったのに…。
私のような新人じゃゴブリン一体にも勝てやしない。
私の他にも捕まってる人がいるようだが、私と同じように捕まってる人もいる。
今なら間に合う。
自分が身を呈している間に逃がすことが出来かもしれない。
縄で結ばれながらも私は立ち上がる。
「私が食い止めて見せるから…あなた達はできれば助けを呼んで…」
私の足は震えている。
正直、怖い…。
「でも…あなたは…」
「私は大丈夫…覚悟は出来てるから…」
そう言って無理に笑って見せる。
彼女達は辛そうな顔をしながらも頷く。
優しい人達だ…。
前を向く。
どうやら、お盛んなゴブリン達も始めようとしていたらしい。
「簡単に…屈すると思うなよ…」
震える足を動かして突撃する。
しかし、それは意味を成さなかった。
たしかにゴブリンの一体は吹き飛ばすことに成功した。
しかし、それだけだった…すぐに押し倒され捕まる。
私はすぐに他の子達を見る。
しかし、ゴブリンの数が多いせいか彼女達も押し倒されていた。
「うそ…」
自然と涙が出てくる。
抵抗する力すら抜けて、私は絶望する。
何もかも…上手くいかない。
「誰か…助けて…あの子達だけでも…」
自然と動いた口…そうしている間にもゴブリンがそのまま上にのしかかってくる。
ーあ、終わりか…ー
涙すら出ない…もう枯れてしまった…。
助けは来なかった…。
瞬間、私の顔にべったりと液体が付く…。
私が目を開けるとその場にいるゴブリンが全員、肉塊と化していた。
私は反射的に彼女達の無事を確認する。
「よかった…?」
どうやら気絶しただけのようだ。
しかし、理解できない。
なぜ、ゴブリン達が死んだのか…。
しかし、その答えはすぐそこにあった。
先程までいなかった人が外套のフードを深く被り立っていたのだ。
「まだ、残ってるんだな…良心って奴が…王を暗殺する予定だったんだがな…」
声から判断するなら、男である。
声変わりして間もないトーン調子から考えて若い冒険者?
「あなたが…助けてくれたんですか?」
私は気になり聴くと男は渋々と頷く。
そうして、すぐに何かに気付いたのか何かを漁る。
そして、室内を見回してから私に向き直る。
「これを渡しとく…ギリギリ数が足りた」
そう言って自分の着ていた外套とリュックの中に入っていたと思われる外套を私に投げてくる。
量は丁度、私達捕まった女性の数だった。
そして、その時私は素顔を見てしまった…。
見てはいけないと思えるような素顔を…。
「俺の事は忘れろ…お前達は幸運にも武者修行の旅に出ている戦士に助けられた…」
そう言って剣を抜き、戦いに行く。
「あれは…つい最近登録したばかりの『名無し』?」
前見た時とは違う。
一週間前のその人は明るかった。
あんなに絶望と憎悪そして明確な殺気は無かった。
一体、この一週間の内に何が…。
*************
「邪魔だ」
つまらないと言わんばかりに俺はゴブリンを殺していく。
俺が探しているのは特殊型のゴブリン…『名持ち』の奴だけだ。
「見つけた…『名狩り』」
そうして一撃で仕留める。
今の俺のステータスならゴブリン程度ならいくらでも相手にできる。
「しけた名だな…。
でも、ストックが余ってんだ。
『名持ち』は全部奪わせてもらう!」
先程より速く強くなり、俺はゴブリン達を虐殺して行く。
*************
数時間後
「何が…ここで起きたんだ」
アーガルは自分のパーティーを率いて来た。
そして、そこには人影も無く全滅したゴブリンの集落だった。
そこには一匹の生き残りはいない。
数時間前に何人かの女性がゴブリンの集落から逃げ帰って来て、一人で戦っている人がいると聞いているがこんなに早く終わるなんて考えられなかった。
人の方が死ぬならあり得るが、何百とあるゴブリンをこんな短時間で全滅させるなんてAランクでも無理だ。
まず、自分は持久戦型だからと言っても同じことをやれと言われたら仲間の補助無しじゃ辛い…。
実際、自分のステータスやレベルはD〜Cランク相当である。
要するに普通程度しかなく、スキルに頼ってここまで来たのだ。
なら、これは殲滅系のスキル持ちが行ったことかと言われれば即座に否定する。
それは傷口だ。
殲滅系ならある程度倒れ方や傷口に法則性が生まれる。
しかし、そんなものは微塵も無い。
それは完璧なる多対一で戦っていることになる…。
「アーガルさん、どうやら一匹残らず全滅させている模様です。
逃げたと思われるゴブリンなどの死体も少し遠くで発見されました」
「一体、何がここで起きたんだ」
アーガルは悩んだ。
探知に戦闘更には隠密系のスキルを持っていると被害者の話とここまでで予測できる。
しかし、それはほぼ不可能である。
人にはスキルの傾向というものがあり、取得できないスキルというのが必ず存在する。
「仲間がいないとの話だが、近くに隠れていたまたは援軍の可能性は…無いな」
アーガルは即座に否定する。
それなら暗殺しようと単独行動していた意味が分からなくなる。
もし、援軍だとしてアーガル達以外にこの森に入った冒険者は殆どいない。
アーガルは答えの出ない問答を続けた。
*************
「お久しぶりです」
俺は一週間ぶりの冒険者ギルドに顔出した。
「ここのところ来ていませんでしたが、何かあったのですか?」
「いえ、何も…あえて言うなら武者修行ですかね?」
そう言って俺はギルドカードを渡す。
因みにゴブリン達の情報は一切無く、そこにはオーガやオークと言った魔物の討伐情報がある。
何故、ゴブリンが無いのかと言うと、このカードは所有者が近くにいないと作動しないのだ。
故に家に置いて狩りに出掛けてもその時狩った魔物の記録はされない。
そうすることによって情報を隠蔽を今回計ったのである。
「そうですか…随分沢山の中位の魔物を狩りましたね。
この調子なら次のランクも早々になれそうですよ」
「そうですか…」
ランクか…。
少し前の俺なら上げようと息巻いていただろう。
でも、今の俺はそんな意義などない。
あるのはそこにある憎悪と復讐心…そして、貪欲までに求める強さだった。
「本当に何も…ありませんでした」
どうやら今までの俺の受け答えとの違いに心配してくれているようだ。
優しい…でも今の俺はその優しさに甘えてはいけない。
そんな権利などもう無い。
「いえ、少しレベルが上がって感慨深く思っていただけです」
俺は無理矢理笑顔を作りそう言った。
それは笑顔になっていたのだろうか?
前の俺だったら笑えていたのかな?
そうして、換金をした後に俺はいつも通り森に向かった。
少し歩いたところでふと、違和感を覚える。
「誰だ」
俺はそう言って隠れているであろう木を見る。
そして、そこから姿を現した。
「あの、すいません」
ひとりの少女が俺の前で綺麗にお辞儀をする。
「確か、あんたはあの時の…」
彼女はゴブリン達に一人で立ち向かおうとしていた人だ。
「えっと…お礼を言おうと思って…」
「いらない、忘れろとも言った」
俺は即座に彼女の言葉を払う。
「でも…」
「それなら構ってる暇がない…」
そう言って俺は去る。
俺はそんないい奴ではない。
これからやることの罪滅ぼしにもならない…。
さらに言えば俺は彼女達を本来なら見捨てる予定だった。
ゴブリン達が彼女達に向いてる間に王の暗殺が本来の目的だった。
今回は尻込みしていたが次からはやると決めたからにはやるつもりだ。
今から行う計画も褒められたものではない…昔の自分が知ったら吐き気が出るほど嫌なことだ。
俺は森の中を歩き続ける。
丁度いい獲物がいないのでそろそろ諦めようとしていた頃だった。
「あれは…オークか?
いや、あれはオークの王だ」
俺は足を止めて観察をする。
そうして、鑑定を使っていき一体一体見ていく。
そして、ふと王を鑑定した時に俺の求めていたものがあった。
その瞬間、俺は飛び出す。
周りのオークが俺がすぐ近くに来た辺りで気が付き武器を構える。
しかし、それは遅く。
俺は既に王のところまでたどり着く。
そうして、剣の一線。
ガキンッ
と音を鳴らして剣を打ち合う。
しかし、それは一瞬のことだった。
俺はすぐに体制を変えて王の懐に入る。
「『名狩り』」
そう言って俺は王を切り裂く。
その瞬間、周りにいたオークが静まり返る。
王の息は絶えており確定だった。
その瞬間、俺は笑う。
ーさぁ、計画開始だー
さて、ここからは全力です。
人によっては胸糞悪い描写になっていくこと間違いなしです!