漁 2日目 3
船が大分沖まで来ても、辺りはまだ暗かった。
小さな雨が降り出して、風がだんだん強くなってきた。
僕たちは、ちょっと気まずい雰囲気で船に揺られている。
僕は少し反省していた。
(ちょっと言い過ぎたな。マモルが姉さんを好きになるのは自由だもんな。僕がいちいち腹を立てたりすることじゃない)
僕はマモルの様子をうかがう。
船を操るマモルの顔は真剣で、声などかけられそうにない。
僕はマモルをちらちら盗み見る。
マモルはそれに気づいて、僕の方を見た。
僕が小さく手を上げると、マモルはいつものようににこりと笑った。
よかった。
マモルはこれぐらいのことで、落ち込んだりしないんだ。
僕はほっとした。
だけど、その時、
「危ないっ!」
急にマモルが叫んだ。
その瞬間、僕は激しい衝撃を受けた。
僕の体は宙に浮いて、くるくる回って飛んで、海の中にザブンと落ちた。
僕には何が起きたのか、さっぱりわからない。
でも、こんなに陸から離れた所の、こんなに暗い海の中に、一人で落ちたってことはわかった。
僕は海に叩きつけられて、随分深く潜ってしまったようだ。
なんとか水から顔を出せたけど、僕はパニックになっていて、ただ、手足をばたつかせるだけだった。
鼻と口からたくさん海水が入って、痛くて苦しくて、気が遠くなりそうだ。
(マモル!)心の中で叫ぶ。
波は頭に覆いかぶさって、僕を水に沈めようとする。
僕はあぶくと一緒に転がされて、もう、どっちが上でどっちが下か、全くわからなくなった。
『ユズル』マモルの声が聞こえたようなきがした。
いったい、僕の目は見えているのか、耳は聞こえているのかどうなんだろう。
気が付いたら、僕はマモルに頭をかかえられて、水面に浮かんでいた。
僕は恐怖から必死になって、マモルにしがみついた。
すると、マモルは僕と一緒になって水の中にしずんでしまった。
「暴れるな! 大丈夫だからじっとしていろ」
マモルが大きな声で言った。
そうだ。マモルが側にいるんだから、もう、大丈夫だ。マモルに任せておけば大丈夫なんだ。
マモルの太い腕が僕の首に巻きついて、顎を持ち上げる。
僕は目を閉じて、全てをマモルに委ねた。




