ありがとう
すぐに、ぼくの主治医らしき先生が入ってきて怪我のことなど説明してくれた。
怪我は結構深くて出血も多かったけれど、命がどうのこうのという問題ではなかったらしい。
だけど、姉さんたちにいくら心配ないといっても、三人とも取り乱してしまって大変だった。と先生は教えてくれた。
ほんと、みんなばかだなあ。僕なんかのために。
「みんないい人達で、君は幸せだね」
先生は笑って言った。
そんな余計なことを先生が言うから、僕はまた鼻の奥がつーんとしてきた。
「もう少し眠るといいよ」
そう言って先生は出て行った。
僕は満たされて気持ちでベッドに横たわっていた。
そうだ、みんないい人たちだ。死んでしまった人さえも、僕のことを心配してくれていたんだ。
シズちゃんは僕がダメになってしまわないように、僕の前に現れたんだと僕は思う。
シズちゃんのことをすっかり忘れていた薄情な僕に、昔と変わらない優しさをくれた。
あの、手をつないだ感触、体の温かさは、ただの幻想だったんだ。
だけど、僕ははっきり覚えている。そして、きっと忘れないだろう。
たぶん、シズちゃんにはもう会えないと思う。
でも、僕はシズちゃんの助けを借りなくても大丈夫だ。僕は随分強くなれたと思うから。
もうすぐ、夏休みも終わる。
今年の夏は色々あったけど、僕にとっては最高だった。
波の音が風に乗って聞こえてきた。
僕はゆっくりとまぶたを閉じる。
眠りに落ちるまどろみの中で、母さんや父さん、兄さん、シズちゃんが微笑みながら、手を振っているのが僕には見えた。
おわり




