病院で 3
「ユズル、姉さんね、今、いろいろ考えてたんだ」
姉さんが静かに言った。
「私、今まであんたの優しさに甘え過ぎてた気がするの。あんたはいつも親切で、しっかりしてて、私なんかよりもずっと落ち着いていたから、私はあんたに助けてもらってばかりだったなあって」
姉さんが言葉を選ぶようにゆっくりと話した。
僕はびっくりしてこれは夢じゃないかと思った。
姉さんが僕のことそんなふうに思っていたなんて信じられない。
姉さんはぼくの顔を見るたび、いつも子供扱いして、勉強しろとか部屋を片付けろとか説教ばかりしていたのに。
僕は自分のほっぺをつねりたくなった。
「あんたがいたから、私は生きてこれたようなものよ」
僕は何も言えないでいる。
「あんたのことを頼りに思い過ぎたのね。だから、あんたがタサキにいたずら電話をしてたことショックだった」
ため息まじりの姉さんの声に僕の心がずきりと痛んだ。
「でもね、あんなヤツ、もうとっくに嫌いになってたのよ」
それは嘘だって僕は知っている。きっと姉さんはアイツのことまだ好きなんだ。
「本当よ」
そう言う時って、本当じゃないんだ。
だけど、僕はうんってうなずく。
ごめんね、姉さんうそをつかせて。
「ところで」
急に姉さんの表情がぱっと明るくなる。
「シズちゃんて誰?」
姉さんがにやにや顔できく。
「うわ言で、シズちゃん、シズちゃんって何度も言ってたわよ」
姉さんが意味ありげに笑って、目をしばたいてみせる。
僕は返事に困って、曖昧な笑顔を作るだけだ。
「さて、私も一度帰って、入院に必要な物を持ってくるわ」
伸びをしながら立ち上がった姉さんが、僕に手を振る。
「じゃあ、また明日ね」
ドアが閉まり、僕一人っきりになった。
カーテンの向こうが白んできている。朝になったんだ。
(姉さんのいう明日っていつのことだろう)
僕はそんなことを考えていた。




