表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユズルの夏  作者: カワラヒワ
45/46

病院で 3

「ユズル、姉さんね、今、いろいろ考えてたんだ」

 姉さんが静かに言った。


「私、今まであんたの優しさに甘え過ぎてた気がするの。あんたはいつも親切で、しっかりしてて、私なんかよりもずっと落ち着いていたから、私はあんたに助けてもらってばかりだったなあって」

 姉さんが言葉を選ぶようにゆっくりと話した。


 僕はびっくりしてこれは夢じゃないかと思った。

 姉さんが僕のことそんなふうに思っていたなんて信じられない。

 姉さんはぼくの顔を見るたび、いつも子供扱いして、勉強しろとか部屋を片付けろとか説教ばかりしていたのに。

 僕は自分のほっぺをつねりたくなった。


「あんたがいたから、私は生きてこれたようなものよ」

 僕は何も言えないでいる。


「あんたのことを頼りに思い過ぎたのね。だから、あんたがタサキにいたずら電話をしてたことショックだった」

 ため息まじりの姉さんの声に僕の心がずきりと痛んだ。


「でもね、あんなヤツ、もうとっくに嫌いになってたのよ」

 それは嘘だって僕は知っている。きっと姉さんはアイツのことまだ好きなんだ。


「本当よ」

 そう言う時って、本当じゃないんだ。


 だけど、僕はうんってうなずく。

 ごめんね、姉さんうそをつかせて。


「ところで」

 急に姉さんの表情がぱっと明るくなる。

「シズちゃんて誰?」

 姉さんがにやにや顔できく。


「うわ言で、シズちゃん、シズちゃんって何度も言ってたわよ」

 姉さんが意味ありげに笑って、目をしばたいてみせる。

 僕は返事に困って、曖昧な笑顔を作るだけだ。


「さて、私も一度帰って、入院に必要な物を持ってくるわ」

 伸びをしながら立ち上がった姉さんが、僕に手を振る。

「じゃあ、また明日ね」

 ドアが閉まり、僕一人っきりになった。


 カーテンの向こうが白んできている。朝になったんだ。


(姉さんのいう明日っていつのことだろう)

 僕はそんなことを考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ