思い出した
僕は眩しいくらい明るい海に来ていた。
海は穏やかで、静かに小さな波を立てている。
向こうに僕がよく行く松林が見える。
気持ちいいな、僕は思った。
ぽんっ、誰かが僕の肩を軽く叩いた。
振り向くと、白いワンピースの女の子だった。
女の子は笑いながら、僕を挑発するように走り去って行く。
ようし、鬼ごっこだな。僕は女の子を追いかける。
すぐに追いつけるだろう。女の子に負けるはずがない、僕は思った。
だけど、さらさらでやわらかい砂に足を取られ、思うように前に進めない。
一生懸命に走るのに、女の子との距離が全然縮まらない。それどころか、だんだん離れていくようだ。
(くそっ)
僕はふてくされて、砂浜に座り込んだ。まるで幼い子供のようにいじけて、ふくれている
女の子は遠くから手なんか振って、笑っている。
僕は悔しくて、悔しくてたまらない。
あっ。
こんなことがいつかあった。
ずっと前、僕がまだ小さかった頃、同じような思いをしたことがあった。
僕ははっとした。
手を振る女の子が子供の姿に変わっている。
そして、僕も小さな子供に。
「シズちゃん!」
僕は叫んでいた。
シズちゃんだ。懐かしい、あのシズちゃんだ。
僕は思い出した。小さい頃よく砂浜で、鬼ごっこをして遊んだ女の子のことを。
よく、白いワンピースを着ていた。笑うと片えくぼがあった。僕はいつも、鬼ごっこで負けて、悔しがっていた。でも、優しい子だった。僕はシズちゃんが大好きだったんだ。
だけど、シズちゃんは両親と兄の事故の後、すぐに海で溺れて死んだ。
僕は両親と兄のことで、彼女のことを気にする余裕がなくて、僕は今まで、シズちゃんのことを忘れてしまっていた。
「シズちゃーんっ!」
僕は大声で叫んでいた。
シズちゃんは、にこにこ笑いながら、引き返してきた。
シズちゃんは、僕と同じように成長した姿になっていたけれど、昔の面影がいっぱい残っていた。なのに、どうして気づかなかったのだろう。
「シズちゃん、僕・・」
シズちゃんは笑って、片手を上げた。
「バイバイ、ユズルちゃん」
シズちゃんは言い、上げた片手を左右に振り出すと、シズちゃんの体がぼんやりかすんできた。
「シズちゃん!」
僕はシズちゃんを抱きしめようと、両手を伸ばした。けれど、シズちゃんの体はほとんど消えていて、僕の手は宙に泳ぐだけだった。
「待って、もう少しだけ」
僕の声が空に響いた。
とうとう、シズちゃんの体は完全に消えてしまい、僕はたった一人砂浜に残された。
その内、暗いとばりが降りてきて、あたりは暗闇に包まれてしまった。




