漁 4
「私はね、ユズルが船に乗っちゃいけないって言っているんじゃないのよ。ただ、もっと大きくなってからだっていいんじゃないかと思うの。今は、勉強でしょう。学生は勉強が仕事なんだから」
(あ~あ、また始まった)
僕は心の中でため息をつく。
だけど、ぼくは何も口答えなんてしない。
反論したって、姉さんを口で負かすことはできないし、姉さんは僕の言うことが、理解できないとわかっているから。
それに、姉さんの言っていることも、全部間違いってこともないし。
「死んだ母さんや父さんのためにも、ハジメの分もユズルには立派になってほしいのよ」
ハジメって言うのは死んだ兄さんのことだ。
たった12歳で両親と一緒に死んでしまった。
姉さんは、そう言えば僕がしんみりくるだろうと思っているみたいだけれど、毎回聞かされるとしんみりどころか、腹が立ってくる。
姉さんにはそれがわからないらしい。
僕は食べることに集中する。
「ユズルが高校に入って、大学を卒業して社会人になるまで姉さんがんばるからね」
姉さんが冗談ぽく自分の胸を叩いて言った。
僕は気にせず食べ続ける。早く食べてしまって、この場を離れたい。
僕は我武者羅にコロッケを口の中に詰め込んで、味噌汁をすすった。
お茶を飲んで、ご馳走様と言って、席を立つ。
「ちょっとユズル。姉さんの話し、ちゃんと聞いてた?」
姉さんが怒ったように言う。
「聞いてたよ」
僕はぽつりと言う」
「まだ、眠いんだ。それに明日も早いからシャワーを浴びて、マモルん家に行くよ。だから・・・」
「あんたは、いつもマモル、マモルね」
姉さんが僕の話しを遮って言った。
「あの人は、あんたの兄さんじゃないのよ!わかってるの!」
姉さんの声が大きくなった。
僕はそれ以上、姉さんの話しを聞きたくなかった。
僕は自分の部屋に駆け上がると、新しい下着とTシャツとズボンをわしづかみにして、家を飛び出した。
外に出た僕は、ふうっとため息をつく。
僕は平気だった。シャワーはマモルの家で借りればいいし、僕の寝る布団はちゃんと用意されている。
僕は頭を振りながら口笛を吹いた。
口笛は波の音に混じって優しく響く。
明日も晴れるといいな。
僕は空を見上げて、北斗七星を探した。




