酒 5
(あーあ、僕も死ぬのかなあ。父さんや母さんや兄さんみたいに)
死んだらみんなに会えるのかな。
父さんも、母さんも、兄さんもあのままの姿で年を取ってないのかな。
そうしたら、兄さんなんて僕より年下だ。
僕の事を兄さんて呼ばそうかな。ははは・・。
話したいことがいっぱいある。
マモルのことも、ママさんのことも。
お酒ばっかり飲んでる姉さんのことも。
でも、天国ってどんなところだろう。
きれいなところなんだろうな。花なんかがいっぱい咲いていて、美しい川が流れていたりして。
何の苦しみも悲しみもない、幸せな世界なんだ。
僕は死んだ方がいいんだ。その方が楽なんだ。
みんなに心配ばっかりかけて、姉さんにも嫌われて、僕なんて生きてたってろくなことないんだから。
もう、この世に何の未練もないんだ。
・・・・。
いや! 違う!
僕は本当は死にたくなんてないんだ。
嫌な事があっても生きていたい。
死んで楽になりたいなんて、全然思わない。
姉さんに嫌われても。
姉さん・・・。
姉さんだって、僕が死んだら悲しむんだ。
姉さんは泣き虫だから僕が死んだら泣くだろう。
だって、船の事故の時あんな風に泣いたんだから。
あれが本当の姉さんなんだ。
姉さんは僕が死んだらよかったなんて言ったけど、本心じゃないって僕にはわかっていた。
だから、僕は姉さんを憎んだりしなかった。
姉さんがいつも僕のことを考えていてくれてること、小さい時から知っていた。
きっと、姉さんは今も変わらずそうなんだ。
姉さん・・・。
無言電話のことは僕が悪かったよ。謝りたいんだ。ごめんって。
僕は赤一色になったタオルから手を放すと、ベッドにもたれて天上を見上げた。
マモルに会いたい。
僕を探しに遠くまで行って、まだ帰って来ないマモル。
家出なんかして、勝手に酒なんか飲んで、勝手に怪我してまた迷惑かける。ごめん。
僕がここで死んだりしたら、さらに大迷惑だよな。本当にごめん。
かっこよくて、優しくていつも頼りになるマモル。
マモルは僕の兄さん以上に兄さんだった。
僕はマモルみたいになりたかった。強くてたくましい漁師に。
ああ、マモル早く帰ってきて僕を見つけてくれればいいのに。
生きたいと思うのに僕は消極的過ぎる。
助けてと叫べば、ママさんはすぐ気付いて、助けにきてくれるのに。
洗面所からママさんの鼻歌が聞こえる。
すぐ近くにママさんがいる。
だけど、僕は自分から助けを呼ぶのはいやだ。
矛盾しているよな。何でこんな時に意地をはる?
僕の悪い癖だってわかっている。




