酒 2
ずっと以前、これを飲めば嫌なことが忘れられるって、姉さんが言っていたことがあった。
本当だろうか? 飲んでよく泣くくせに。
僕は瓶に口をつけて、一口、口にふくんでみた。
(げっ、まずっ)
やっぱりそう思った。けれど、吐き出すところもなくて、僕はむりやり喉の奥へ流しこんだ。
むせて、ごほごほと咳が出た。喉から胃に熱いものが走る。
何ともいやな感じだった。
ハアーと息を吐き出すと口の中がピリピリする。
(何でこんなのがおいしいんだ)
僕は口を開けて舌を出したまま、瓶を揺らした。
バスルームからシャワーの音が聞こえる。ママさんがシャワーを使っているんだ。
僕は何となくほっとする。
もうひとくち飲んでみようか。
僕は瓶をもったまま考えた。
ちょっとまずいのを我慢すれば、姉さんみたいに酔っ払って嫌なことが忘れられるのかもしれない。楽しい気分になれるのかもしれない。
よし!
僕はグッと一口飲んだ。続けて二口、三口と飲んだ。
その内に、口の中はさっきほどの刺激を感じなくなった。胃も落ち着いてきて、大分慣れたようだった。
味はおいしいとは思わないけど、そう、まずくもないように思えてきた。
だんだん頭がぼんやりしてきて、まるで体が浮いているような、勝手に揺れているような感覚かする。
僕は面白くなってきて、ははははと笑った。
少し大人になったような気がして、お酒を飲む人の気持ちがわかった気がした。
(姉さんは飲んでて楽しいのかな?)
酒を飲む姉さんの横顔が浮かんだ。
「姉さんなんて、どうでもいいんだ」
僕は小声で独り言を言った。
さあ、もっと飲んでやろう。
僕は何度も、瓶に口をつけた。




