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ユズルの夏  作者: カワラヒワ
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酒 1

 マモルは明日も早くから漁に行かなきゃいけないのに、僕のために寝る時間が少ししかない。

 僕は自分のしたことを後悔しだ。


 僕はいつもそうなんだ。

マモルに迷惑ばかりかけている。マモルばかりじゃなくママさんにも。それから、姉さんにも。


すぐに、カーと頭に血がのぼって失敗ばかり。

弱虫で力もなく、何もできないくせに。

そんな自分が情けなく、腹が立つ。そして、悲しい。


僕はとうとう涙を落した。

一粒涙がこぼれると、次から次へと涙が落ちた。


僕が世界でたった一人きりなら、大声で泣くこともできるのに。


これ以上、ママさんに心配をかけることはできない。

もうすぐマモルだって帰ってくるし、こんな泣き顔をしてちゃいけない。

何か他のことで気を紛らわさなければ。


僕は部屋を見渡した。

今さら気付いたけれど、マモルの部屋って何もない。テレビもラジオもおいてないし、本もないし、雑誌すらない。

学生時代からある机と椅子、他にベッドがあるだけだ。


こんな部屋だったかなあ。いつもはマモルと一緒にいるから気がつかなかった。

そう言えば、マモルはこの部屋のことを寝る部屋って言っていたし、僕だって寝る時しかこの部屋を使わなかった。


でも、今は目が冴えて眠くないし、眠れそうにない。

リビングから雑誌でも持ってくればよかった。

どうしようか。

僕はもう一度、辺りを見回した。


(あれはちょっとなあ)

 それは、琥珀色の酒が入った瓶で、ずっと前からそこに置いてあった。

 姉さんが飲んでいたものと同じラベルが貼ってある。


 だけど、半分入っている酒の量は変わることがなかった。

(マモルが飲んでいるのを見たことがない)

 僕は思った。


 薄く埃を被ったそれを僕は手に取った。

 蓋を開けて匂いをかいでみる。

 つんと鼻に突き刺さるような、何ともいえないきつい匂いだ。

 いい匂いじゃない。姉さんが酔っている時にする匂いだ。


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