帰る 2
(ママさんに一言謝るべきだったな)
汗で張り付いたTシャツを体からはがしながら僕は思った。
ママさんは僕がこの家に帰ってくるだろうと、ずっと待っていてくれたんだ。それなのに、僕は謝りもせず、お礼も言わないで。
ふう~と僕は深いため息をついた。
痛いと思っていたら、足にできた豆がつぶれて血がにじんでいる。
姉さんは、僕がアイツに無言電話をしていたことを、ママさんに話しただろうな。
ママさんはマモルに話したんだろうか。
それを聞いたマモルはどう思っただろう。
マモルにまで嫌われたらどうしょう。
僕はシャワーを勢いよく出した。
ぬるめのお湯が温かくていい気持ちだ。
その時僕ははっとした。
あの子との約束! すっかり忘れてしまっていた。
今日の夕方、あの浜であの子と会う約束をしていたんだった。それなのに、ああ、なんてことだ。
待っていてくれただろうか。悪いことをしてしまった。
会いたかった。
僕はがっくりと肩を落とした。
ママさんは僕に何も訊ねなかった。
「私はユズルが戻って来るってわかっていたから、心配なんてしなかったわ」
ママさんの鼻が赤い。
「でも、ほっとした」
ママさんの目から涙が落ちた。
「ごめんね」
僕は言った。
思いっきり心配してくれたんだ。本当にごめん。
僕はママさんが作ってくれたおにぎりをほおばりながら、心の底から詫びた。
マモルはまだ帰って来ない。
「すぐに帰るって言ってたけど、よっぽど遠くまで行っちゃってたみたいね」
ママさんが笑って言った。
「疲れているでしょう。2階で寝てなさい。マモルもその内、帰るだろうから」
「うん」
僕は立ち上がって、ママさんに微笑んだ。
「ユズル、好きなだけここにいてもいいのよ。メグミちゃんには、私から言っておいたからね」
ママさんも立ち上がって言った。
「ありがとう」
僕はそう言って部屋を出た。




