帰る 1
マモルの家のベルを押すと、ママさんのドタバタ走る音がした。
僕は情けない気持ちで玄関に立っていた。
姉さんから遠く離れる決心をして家を出たのに、歩いて五分もかからないマモルの家に来ているなんて。
やっぱり僕はいくじなしの弱虫だ。
足音が止まって、ドアが開いた。ママさんの顔が驚きの顔になった。
「あら、まあ、ユズルなの?」
ママさんの見開いた目が細くなって、すぐにママさんスマイルになった。
「チャイムなんて鳴らすから、誰かと思ったわ」
ママさんは裸足で下に降りてきて、僕の背中に片手を回した。
いつもはそうだ。チャイムなんか鳴らさずに勝手に入って行く。留守で鍵が閉まっていても鍵を開けて入って行く。鍵の秘密の隠し場所を知っているから。
でも、今日は何だか勝手に家に入ってはいけないような気がして。
僕は何も言わないで靴を脱いだ。
ママさんは僕が姉さんと喧嘩して、家を出たことを知っているんだろうか。
「汗でべとべと! 早くシャワーを浴びなきゃね」
ママさんがいつものように、僕の髪をくしゃっとやった。
ああ、ママさん、僕は本当に帰って来れてよかった。
「マモルは?」
黙っていると涙が出そうなので、僕は言った。
「ユズルを探しに出かけたままよ。電話すればすぐに帰ってくるわ」
やっぱり、姉さんは知らせたんだ。でも、それはきっと、世間体を気にしてのことだ。
ママさんが冷たいお茶を出してくれる。
「メグミちゃんも心配してたわよ」
そう言って笑ったママさんの瞳が潤んでいる。
「・・・うん」
僕は小さく返事をした。
僕の弱い心が涙を流させようとする。姉さんは僕のことなんか・・・。
だめだ。泣き顔をママさんに見られたくない。
「シャワー」
僕は風呂場へ駆けて行った。




