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ユズルの夏  作者: カワラヒワ
33/46

帰る 1

 マモルの家のベルを押すと、ママさんのドタバタ走る音がした。

 僕は情けない気持ちで玄関に立っていた。


 姉さんから遠く離れる決心をして家を出たのに、歩いて五分もかからないマモルの家に来ているなんて。

 やっぱり僕はいくじなしの弱虫だ。


 足音が止まって、ドアが開いた。ママさんの顔が驚きの顔になった。

「あら、まあ、ユズルなの?」

 ママさんの見開いた目が細くなって、すぐにママさんスマイルになった。

「チャイムなんて鳴らすから、誰かと思ったわ」

 ママさんは裸足で下に降りてきて、僕の背中に片手を回した。


 いつもはそうだ。チャイムなんか鳴らさずに勝手に入って行く。留守で鍵が閉まっていても鍵を開けて入って行く。鍵の秘密の隠し場所を知っているから。


 でも、今日は何だか勝手に家に入ってはいけないような気がして。


僕は何も言わないで靴を脱いだ。


ママさんは僕が姉さんと喧嘩して、家を出たことを知っているんだろうか。

「汗でべとべと! 早くシャワーを浴びなきゃね」

 ママさんがいつものように、僕の髪をくしゃっとやった。

 ああ、ママさん、僕は本当に帰って来れてよかった。


「マモルは?」

 黙っていると涙が出そうなので、僕は言った。

「ユズルを探しに出かけたままよ。電話すればすぐに帰ってくるわ」


 やっぱり、姉さんは知らせたんだ。でも、それはきっと、世間体を気にしてのことだ。

 ママさんが冷たいお茶を出してくれる。


「メグミちゃんも心配してたわよ」

 そう言って笑ったママさんの瞳が潤んでいる。

「・・・うん」

 僕は小さく返事をした。

 僕の弱い心が涙を流させようとする。姉さんは僕のことなんか・・・。

 だめだ。泣き顔をママさんに見られたくない。


「シャワー」

 僕は風呂場へ駆けて行った。


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