姉さん 2
頬杖をついた姉さんは無表情のままで、僕の目玉焼きを見ている。
(やばいな~)
僕の目玉焼きは穴だらけだ。
不意に姉さんが口を開く。
「あんた、タサキに無言電話してたんだって?」
姉さんの冷たい声が静かな部屋に響く。
(えっ)
僕は心の中で声を上げた。
アイツ・・・。
アイツが姉さんに言ったんだ。
別れた女にわざわざ告げ口するなんて、アイツがしそうなことだ。やっぱりアイツは最低な男なんだ。
僕は頭に血がカーッと昇って、フォークを皿に投げつけた。
「何でそんなことしたの?」
僕は姉さんを睨み付ける。
(何でだってっ! そんなこと聞かなくてもわかるだろっ!)
僕は闇雲に腹が立った。
だけど、僕が姉さんやアイツに、腹を立てるのは間違っている。
どんな理由があっても、僕のしたことはいいわけがないし、悪いことなんだ。
わかっている。わかっているけど、僕が姉さんに責められる理由はない。
だって僕は、姉さんを泣かせるヤツが許せなかった。姉さんを変えたアイツに何もしないでいることに、耐えられなかったんだから。
僕は歯を食いしばって、唇が震えるにをこらえた。
僕は席を立って、姉さんに背を向けた。
話しなんてできそうになかった。
僕が玄関の方へ歩き出した時、
「あんたのお陰で、あの人とは完全にだめになったんだから!」
姉さんが叫んだ。
僕はびっくりして足を止めた。
怒りが込み上げる。
(振り向きざまに殴ってやろうか)
姉さんに対してそんな風に思ったのは、生まれて初めてのことだった。
いくら喧嘩してもそこまで思ったことはなかった。
けれど、僕はそうしなかった。
丁度、目の前に造花の入った花瓶があったので、それをはたき落とした。
手の届くところに花瓶があってよかった。
そのために、僕は姉さんを殴らなくて済んだのだから。
花瓶が割れたかどうか知らない。姉さんが悲鳴をあげたのかもわからない。
僕は振り返らずに廊下をドスドス歩いて、靴を履きながら、ついでに靴入れ棚を引き倒した。
僕は何がなんやらわからないまま駆け出していた。
僕はもう家には帰らない。
姉さんから遠く離れた所に行くんだ。
僕は絶対に・・・。
僕は決心して前に進み続けた。
もっと、もっと。
姉さんから離れないといけない。
僕は足を動かすのを止めなかった。




