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ユズルの夏  作者: カワラヒワ
29/46

姉さん 1

 朝遅くに僕は目を覚ました。


 僕は、多分今夜は眠れないだろうな、と思ってベッドに入ったのに、すぐに眠ってしまったらしい。

 それも、熟睡したらしく、気が付けば朝になっていたんだから驚きだ。


 姉さんが仕事に行く時間は、とっくに過ぎていた。

 けれど、念のため僕はキッチンや姉さんの部屋から、物音がしないか聞き耳を立てる。

 姉さんは昨夜帰るのが遅かったかもしれないし、二日酔いでずるして会社を休んだかもしれない。


 しばらく耳に集中する。

 でも、家の中は静まり返っていて、僕の部屋の時計の音しかしない。

 僕は安心して階段を下りていった。


 ギクッ!

 誰もいないと思っていたのに、人がいた時は本当にびっくりする。

 それも、幽霊みたいに髪を振り乱した姉さんが、こっちを向いて立っていたんだから、僕の驚きも相当なものだった。


「あっ、あ~」

 階段の最後の段を踏み外し、尻餅をついて背中を打った僕は、おかまみたいな変な声を出した。

「いて~」

 そんなに痛くもないけれど、こんな時はそう言うしかない。


 しかし、姉さんは僕の変な声を聴いても、階段からおかしな恰好で落ちた僕を見ても、表情を変えなかった。


 普通なら笑うだろ。笑わないのなら、大丈夫? くらい聞くだろ。

 それなのに姉さんの目は冷ややかで、まるで人形みたいに感情のない顔をしていた。


 久しぶりに顔を合わせたというのに、何でそんな目で僕を見るんだ。 

 僕は姉さんの気が知れなくて、恐ろしかった。


 姉さんは少し顎をしゃくって、キッチンへ来るように僕を促す。


(何なんだよ。いやだなあ。このまま消えちまおうか。いや、だめだ。そんなことしたらもっと気まずくなるぞ)

 僕は恐る恐る、姉さんの後について行った。


 テーブルの上に、僕の分のトーストと目玉焼きが置いてある。

(食欲がないなあ)

 僕は冷えた目玉焼きを、フォークで突きながらちらりと姉さんを見る。


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