姉さん 1
朝遅くに僕は目を覚ました。
僕は、多分今夜は眠れないだろうな、と思ってベッドに入ったのに、すぐに眠ってしまったらしい。
それも、熟睡したらしく、気が付けば朝になっていたんだから驚きだ。
姉さんが仕事に行く時間は、とっくに過ぎていた。
けれど、念のため僕はキッチンや姉さんの部屋から、物音がしないか聞き耳を立てる。
姉さんは昨夜帰るのが遅かったかもしれないし、二日酔いでずるして会社を休んだかもしれない。
しばらく耳に集中する。
でも、家の中は静まり返っていて、僕の部屋の時計の音しかしない。
僕は安心して階段を下りていった。
ギクッ!
誰もいないと思っていたのに、人がいた時は本当にびっくりする。
それも、幽霊みたいに髪を振り乱した姉さんが、こっちを向いて立っていたんだから、僕の驚きも相当なものだった。
「あっ、あ~」
階段の最後の段を踏み外し、尻餅をついて背中を打った僕は、おかまみたいな変な声を出した。
「いて~」
そんなに痛くもないけれど、こんな時はそう言うしかない。
しかし、姉さんは僕の変な声を聴いても、階段からおかしな恰好で落ちた僕を見ても、表情を変えなかった。
普通なら笑うだろ。笑わないのなら、大丈夫? くらい聞くだろ。
それなのに姉さんの目は冷ややかで、まるで人形みたいに感情のない顔をしていた。
久しぶりに顔を合わせたというのに、何でそんな目で僕を見るんだ。
僕は姉さんの気が知れなくて、恐ろしかった。
姉さんは少し顎をしゃくって、キッチンへ来るように僕を促す。
(何なんだよ。いやだなあ。このまま消えちまおうか。いや、だめだ。そんなことしたらもっと気まずくなるぞ)
僕は恐る恐る、姉さんの後について行った。
テーブルの上に、僕の分のトーストと目玉焼きが置いてある。
(食欲がないなあ)
僕は冷えた目玉焼きを、フォークで突きながらちらりと姉さんを見る。




