タサキ 1
僕がマモルの家を出たのは、午後四時少し前だった。
僕は公衆電話を使うのを忘れない。アイツの携帯の番号は覚えているし、電話するのが日課みたいになっている。
だけど、アイツ、どうして電話番号を変えたりしないんだろう。普通なら、無言電話が続けば変えると思うけど。変えない理由があるのだろうか。
まあ、そんなことどうでもいい。僕は嫌がらせを続けるだけだ。
電話の番号を押す。アイツの携帯の呼び出し音が鳴っている。
どうせ、すぐに切れる。2回繰り返して、3度目に電源が切れる。そう決まっていた。いつも、そのパターンだ。
なのに、今日はアイツは電話に出た。
「もしもし」
小さな低い声だけど、確かにアイツの声だ。
(なんで出るんだよ!)
僕は心の中で怒鳴った。
心臓がどきどきした。何だか悪い予感のようなものが胸に込み上げる。
アイツの声を久しぶりに聞いたせいだ。それだけのことなんだ。
僕は気を取り直してまた電話する。
今度はあいつが出なくて、すぐに携帯の電源は切れた。
ほら、やっぱりなんでもない。
自分が悪いことをしているって気持ちが、びくびくさせるんだ。
だけど、本当に僕はばかなことをしているよな。こんなことしたって、何もならないのに
もう、これで止めにしようか。
よし、これで最後にしょう。
僕は再び、携帯の番号を押した。
一回の呼び出し音の後、
「オマエだったんだな」
ぼそりと相手の声がした。
電源を切るために伸ばした僕の指が止まった。
「えっ?」
僕は小さな声を出した。わけがわからずうろたえる。
「目の前だ」
相手が言った。
見ると、すぐ目の前にどこかで見たことのある男が、携帯を耳に当ててこっちを見ている。
だれだった?
あっ・・・。
僕の受話器を持つてが震えた。
アイツだ! タサキだ! 電話をかけている相手だ。
アイツは一度家に遊びに来たことがあったから、お互い顔は知っている。
「メグミの弟だよな」
タサキがニヤリと顔をゆがめると、受話器から不気味な笑い声が聞こえた。
僕は驚きと恐怖から、その場に立ちすくむ。
タサキは微笑みながら、僕に手まねきをした。
僕は逆らうことができない。
「ちょっと、あっちで話しをしょう」
タサキは電話ボックスから出てきた僕の肩を抱いて、指先にグイッと力を入れた。
僕はタサキの言いなりになるしかなかった。




