月
その夜も姉さんは酒を飲んでいた。
歌を歌ったり、独り言を言ったり、一人で騒いでいる声が僕の部屋まで聞こえてきた。
今日は相当荒れているな、大丈夫かな。僕は思った。
だけど、ほっとくしかない。声なんかかけられない。
僕はヘッドホンをつけて、ラジオのボリュームを上げた。
いつの間にかうとうとしていたらしく、時計を見ると午前2時を過ぎていた。
下の部屋は静かになっていたので、姉さんはもう眠ったらしい。
僕はキッチンに降りた。
そっと、リビングを覗くと姉さんはいなかった。自分の部屋に行ったようだ。
(しかし、派手にやったなあ)
僕は苦笑した。
テーブルの上には、ビールの空き缶が何本も並んでいる。床にも缶が転がっていて、中身がこぼれて畳を濡らしていた。
散乱したポップコーンが雪のように、くまのぬいぐるみに積もっている。
Tシャツやスカートがくしゃ、くしゃに脱ぎ捨てられていた。
(あーあ、ひどいことになっているなあ)
僕は服をまたいで歩いた。
忍び足で姉さんの部屋の前を通る。
さっきは気がつかなかったけれど、姉さんの部屋のドアの隙間から明かりが漏れていた。
射すような一本の線が続いている。電気の明かりにしては白い感じがする。
僕は静かにドアを開けた。
部屋は青白く明るかった。
正面の窓が開け放たれ、カーテンはひかれていなかった。
窓の向こうの空に大きな満月が見える。月はまるで壁に掛けられた絵のように、窓枠の丁度真ん中の位置にあり、部屋を照らしていた。
ドアの隙間から漏れていたのは月明かりだった。
窓際のベッドで姉さんは、こっちに背を向けて眠っている。
姉さんは裸だった。
青白い光が、姉さんの肩から腰、ヒップラインを浮かび上がらせている。
姉さんは見た目より肥えているんだな、と僕は思った。お尻なんかも結構大きい。
僕は小さな声で姉さんと呼んでみた。
姉さんの小さな寝息が聞こえる。
足元に丸まった、タオルケットをかけてやる。
涙で頬が濡れていた。かわいそうな姉さん。
いつか。元気になる日がくるのだろうか。
先が見えないな。僕は思った。




