表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユズルの夏  作者: カワラヒワ
23/46

その夜も姉さんは酒を飲んでいた。

歌を歌ったり、独り言を言ったり、一人で騒いでいる声が僕の部屋まで聞こえてきた。

今日は相当荒れているな、大丈夫かな。僕は思った。


だけど、ほっとくしかない。声なんかかけられない。

僕はヘッドホンをつけて、ラジオのボリュームを上げた。


いつの間にかうとうとしていたらしく、時計を見ると午前2時を過ぎていた。

下の部屋は静かになっていたので、姉さんはもう眠ったらしい。


僕はキッチンに降りた。

そっと、リビングを覗くと姉さんはいなかった。自分の部屋に行ったようだ。


(しかし、派手にやったなあ)

 僕は苦笑した。


 テーブルの上には、ビールの空き缶が何本も並んでいる。床にも缶が転がっていて、中身がこぼれて畳を濡らしていた。


 散乱したポップコーンが雪のように、くまのぬいぐるみに積もっている。

 Tシャツやスカートがくしゃ、くしゃに脱ぎ捨てられていた。


(あーあ、ひどいことになっているなあ)

 僕は服をまたいで歩いた。

 忍び足で姉さんの部屋の前を通る。

 さっきは気がつかなかったけれど、姉さんの部屋のドアの隙間から明かりが漏れていた。

 射すような一本の線が続いている。電気の明かりにしては白い感じがする。

 僕は静かにドアを開けた。

 部屋は青白く明るかった。


 正面の窓が開け放たれ、カーテンはひかれていなかった。


 窓の向こうの空に大きな満月が見える。月はまるで壁に掛けられた絵のように、窓枠の丁度真ん中の位置にあり、部屋を照らしていた。


 ドアの隙間から漏れていたのは月明かりだった。


 窓際のベッドで姉さんは、こっちに背を向けて眠っている。

 姉さんは裸だった。


 青白い光が、姉さんの肩から腰、ヒップラインを浮かび上がらせている。


 姉さんは見た目より肥えているんだな、と僕は思った。お尻なんかも結構大きい。

 僕は小さな声で姉さんと呼んでみた。


 姉さんの小さな寝息が聞こえる。


 足元に丸まった、タオルケットをかけてやる。


 涙で頬が濡れていた。かわいそうな姉さん。


 いつか。元気になる日がくるのだろうか。


 先が見えないな。僕は思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ