無言電話 2
あの日以来、僕は姉さんの顔を見ていない。
いや、見ないようにしている。
物音で、姉さんが帰って来たり、出ていったりするのを確認できたし、何をしているのかもだいたいわかった。
幸いなことに姉さんは会社を休まなくなった。だから、姉さんと顔を合わさないようにするのはそう難しいことではない。
朝、僕が起きる頃には、姉さんはもう仕事に出かけているし、昼間はのんびりと好きにして、夜姉さんが帰ってくる前に自分の部屋に引きこもればいい。
気楽なものだった。
でも、僕は姉さんの顔も見たくないってわけじゃない。ただ、またけんかするのが嫌だった。何かまた、ひどいことを言われるのが怖かった。
姉さんも多分僕と同じで、ひどいことを言ってしまうのが怖いのだと思う。
だって、姉さんは今までみたいに、僕の様子を見に部屋に入って来なくなったし、夜中に僕が冷蔵庫を開けたり、キッチンでごそごそやっていても、覗きに来ることはなかったから。
顔を合わせなくなっても、姉さんはちゃんと僕の分の料理を作ってくれて、テーブルや冷蔵庫の中に入れておいてくれた。僕はそれを食べていたから、僕と姉さんのつながりは切れてしまうことはなかった。
僕は、姉さんが僕の食事を用意してくれることで、安心したし、姉さんは、僕がそれを食べることで、安心できたと思う。
柔軟な僕は、四、五日もするとそんな生活にもすっかり慣れてしまった。
何日も日が過ぎた。
僕と姉さんの生活は相変わらずだった。
僕と姉さんはあまりにも長く口をきいていない。こんなことは初めてなので、ちょっと心配になる。
学校が始まる前に仲直りした方がいいぞ。そうでないと色々面倒だ。そう、思う。
だけど、まだ後二週間もあるから、それまでには何とかなるだろう。
僕はあまり深くは考えこまない。
僕はよっぽどの暇人で、アイツへの無言電話を続けていた。
一日に何度も電話ボックスに通っているから、面倒くさくなる時もあるけど、今はまだやめられない。
アイツがイライラしたり、腹を立てたりすればいい。
あんなヤツ、どこか遠くに行ってしまえばいいんだ。




