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ユズルの夏  作者: カワラヒワ
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無言電話 1

『タサキ』

 姉さんの恋人だったヤツの携帯番号はすぐにわかった。

 アイツの名前は知っていたし、姉さんがお風呂に入っている間に、こっそり携帯を見れば簡単なことだった。


 僕はアイツが許せなかった。姉さんはアイツのせいで、酒を飲むようになって、だらしなくなって、僕にひどいことを言うようになった。

 冷静になって考えても、どうしても許せなかった。


 アイツさえいなかったら、姉さんとあんなふうにならなかった。僕たちはうまくやっていけるはずだった。

 僕はなんでもいいからアイツを困らせてやりたかった。


僕は、そっと家を出て近くの公衆電話に走った。

 姉さんが風呂から上がるまでに、家に帰りたかった。


 電話ボックスで番号を押すと、三度目のコールで相手は出た。

「もしもし」

 愛想のいい声だ。そうやって何人も女の人をだましてきたんだ。

 僕はムカムカして無言のまま受話器を叩きつけるように戻した。


 こんなヤツのために姉さんは・・・。怒りが込み上げてくる。

 一呼吸してまた、受話器を取って番号を押す。


「もしもし」

 怪訝そうなさっきより低い声がした。

 ブチッ。僕はすぐに人差し指で電話を切った。


 それから、また同じように電話をかける。

「もしもし、誰?」

 今度は怒った声だった。


 当然だろう。続けて三回も無言電話だったら怒るよな。僕は心の中でクスリと笑う。

 電話を切る。またかける。


 しかし、今度はつながらなかった。電源を切ったな。

 僕はちょっと物足りなかったけれど、電話ボックスを出て急いで家に帰った。


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