漁 2
僕たちが朝食を食べ終えると、ママさんが昼食用のお弁当をくれた。
「マモル、今日からユズルが一緒なんだから、今まで以上に気を付けて」
そう言ったママさんの顔からは笑顔は消えていた。
「ああ」
頷いて返事をしたマモルも真面目な顔をしたので、僕も少しだけ緊張してきた。
だけど、僕は少しも、不安じゃなかった。
マモルが一緒にいるんだもの。マモルがいれば僕はちっとも怖くない。
だって、マモルはその名のとおり、いつも僕を守ってくれたから。
七年前、僕は交通事故で父さん、母さん、兄さんを失った。
その時から、兄さんの同級生だったマモルが、兄さんの代わりになってくれた。
僕がひとりぼっちにならないように、なるべく側にいてくれて、困ったことがあれば助けてくれた。
時には、けんかもしたけれど、いつも親切にしてくれた。
僕が小さな子供じゃなくなり、マモルもおじさんと漁に行くようになって、しょっちゅう一緒にいられなくなっても、僕がマモルに対する信頼は以前と変わらない。
それは、ママさんやおじさんに対しても同じだった。
二人とも、まるで僕たちが本当の兄弟みたいに一緒にいることを許してくれた。
ママさんは僕が悪いことをすれば、本気で怒るし、マモルと違わずに僕に優しくしてくれた。
だから、僕も遠慮なくマモルが留守の時でも、この家に入り浸っていられた。
春休みや夏休みなんて、ほとんど自分の家みたいに大きな顔をして居座っている。
そんな環境の中、三人を親や兄みたいに慕うのは不自然な事じゃないと思う。
だけど、姉さんは僕があまりにもマモル達と親密なのを困り顔で見ている。
「ユズルがずっとお世話になっていることを、とてもありがたく思っているのよ。これからも仲良くしてもらいたいと思ってる。でも、ユズルももう中学二年生なんだから、自分のことは自分でできるはずよね」
そんな風にため息まじりに言う。
両親と兄が死んだ時、姉さんは大学生だった。
姉さんはその日から、僕の父母にならなくてはいけなくなった。
僕と二人っきりになった姉さんは、僕が早く一人でも生きて行けるくらい、強い人になって欲しいと思っている。
僕がいつまでもマモルやママさんに頼るのはよくないと考えている。
僕だってそう思っている。
僕だっていつまでも、マモルやママさんに大事にされているばかりじゃだめだってわかっている。
だから、中学を卒業したら、マモルと同じ漁師になろうと考えているのに、姉さんの方が勉強は大事とか言って、高校に行きなさいなんて言うんじゃないか。
ぼくはそっちの方が矛盾しているように思うんだけど。
「何してるんだ。早く来いっ!」
急にマモルの声がした。
僕がとりとめのないことを考えているうちに、マモルはもう外に出たらしかった。
「ちょっと待って」
僕は慌てて靴を履き玄関を飛びだした。
振り返ると、ママさんが心配そうに見ている。
僕はママさんに大げさに手を振った。




