酔っぱらい 1
僕が家に帰ったのは、夜の9時をまわったところだった。
僕はラーメンを食べ終わった後も、そのままマモルの家にいつづけた。みんなでテレビを見て、おやつを食べて、夕食も食べさせてもらって帰ってきた。
別に珍しいことじゃない。今までよくあったことだ。ただ、そういうことは、姉さんが遅くなる時に限られていた。姉さんが家にいる時に、マモルの家でご飯を食べるのは、姉さんに悪いと思ってしなかった。
でも、たまにはいいよな。ママさんも電話してくれたことだし。
僕は自分にそう言い聞かせて、電気のついているキッチンに入った。
「ただいま」
僕は少し後ろめたい気持ちで言った。
テーブルの上には、僕の分の夕食が用意してあった。僕の大好きな、姉さんの手作りハンバーグだ。
「せっかくご馳走作ったのに」
姉さんがすねたように唇を尖らせている。
「少しくらい食べてよね」
姉さんはそう言ったけど、機嫌は悪くないようだった。
鼻歌なんか歌いながら、酒をグラスに注いでいる。
それから、自分の隣りの椅子を指さしてから、ここに座れとジェスチャーした。
僕がいわれるままにそこに座ると、
「1口飲ませてあげる」
と言う。
「いらないよ」
僕は言った。
けれど姉さんは、グラスを突き出したまま、動かないので、僕は仕方なくグラスを取った
ここで、あんまり拒んで姉さんの機嫌を損ねてもいけない。
僕は飲むふりをして、グラスを口元に持っていった。
あめ色の酒はツンとした匂いがした。唇についたのを舐めると苦かった。
「ふふふ、おいしくないでしょ」
僕がいやな顔をしたので、姉さんは笑った。
「ユズルもいつか、それがおいしく感じる時が来るのよ」
「そうかなあ。こんなにまずいものが」
姉さんにグラスを返す。
「あんた、いつか結婚するんでしょ。どんな人かしら」
(急に何を言い出すんだ)
僕は思った。
「私はね、結婚なんてしない。1人でいることに決めたの」
姉さんはやっぱり失恋したんだ。
「別に、そんなふうに決めなくてもいいんじゃないの。結婚したくなったらすればいいんだし」
マモルの顔が浮かんだ。もし、マモルと姉さんが結婚したら、マモルは本当の兄さんになるんだな。そんなことを考えた。
姉さんは目に涙を浮かべている。
僕は姉さんがかわいそうだと思った。
僕は何も言わず席を立った。
姉さんは僕が2階に上がっても、しばらくお酒を飲んでいた。
静かになったので見に行くと、テーブルに突っ伏して寝ていた。
こんなに酔いつぶれて・・。
僕は姉さんに肩を貸して寝室まで連れていった。
「ユズルは優しいね」
ベッドで姉さんが言う。目尻から耳に涙が流れた。
「おやすみ」
僕は部屋の電気を消した。




