どこへ行こう 4
僕が玄関を開けると、ママさんがつっかけを履いて、出かけようとするところだった。
「ああ、ユズル、久しぶりね」
ママさんが笑顔で言った。
「うん・・」
僕はちょっと照れくさかった。
あの事故以来、会ってないから、1週間ぶりぐらいかな。ママさんの顔を見るのは。
「これ、お隣に持って行くの」
ママさんが回覧板を持ち上げる。
「すぐに戻るわ。マモルは2階にいるよ」
ママさんは僕の頭をくしゃっとやって出て行った。
前と変わらない、いつものママさんだ。
僕はほっとして靴を脱いだ。
マモルが2階から降りてきた。包帯はしていなかった。
「よおっ」
マモルが片手を上げる。
僕は何か言わなくちゃいけないと思ったけれど、何を言えばいいのかわからなかった。
あんな事があった後、一度も顔を見せなかった薄情な僕。
でも、マモルは、そんなこと何も気にしていない様子で、
「ラーメンでも作ろうと思って。お前も食う?」
と、いつものように笑ってくれた。
「うん」
僕はうなずく。
外でママさんの大きな話し声がしている。
「あれじゃあ、しばらく帰って来ないぜ」
マモルが笑いながら言った。
マモルが鍋に水を入れ、火にかける。それから、冷蔵庫を開ける。
「玉子もないのか」
マモルが呆れたように言うので、見てみるとみごとに冷蔵庫の中はスカスカだった。
「あはははは」
僕は笑いながら、ママさんらしいなと思った。
「素ラーメンだな」
マモルも笑う。
やっぱりマモルも変わらない。僕たちは兄弟みたいにわかり合えるんだ。姉さんなんかより、よっぽどマモルの方が僕のことわかってくれている。
僕はラーメンを作るマモルの後ろ姿を見ながら、うれしくなって、1人でニヤニヤした。
でも、うれしい気持ちはすぐさめた。
「メグミさんは・・・」
そうマモルが言ったから。
また、姉さんか。僕は聞こえない振りをする。
僕が黙っていると、
「メグミさんは元気かな?」
まだ、言っている。
「何?」
僕はとぼけてみせる。
今、姉さんの話しなんてしたくないのに。マモルは僕のことわかってくれているって、思ってたとこなのに、どうして姉さんなんだよ。
「いや、メグミさん怒ってないかなって思ってさ」
「怒ってないよ」
僕は素っ気なく言った。
「そうか・・・。じゃあ、よかった」
マモルは小さく鼻でため息をついて、それ以上なにも訊ねなかった。
「おっ、うまそうにできたぞ」
マモルの明るい声が響いた。
それで、僕はちょっと、胸が苦しくなる。
マモルはこんなに親切なのに、僕は自分勝手だなと思う。
「素ラーメン、一丁上がり」
マモルがラーメンの入ったどんぶりをそおっと僕の前に置いた。




