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ユズルの夏  作者: カワラヒワ
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事故の後 2

 僕がグズグズしている間に、連絡を受けた姉さんが帰ってきた。 


 この時間だもの、姉さんはたぶん、会社に着いてすぐ、折り返し帰ってきたんだろう。

 別に慌てて帰って来なくてもいいのに。

 車のドアが閉まる音がしたから、きっとタクシーで帰ってきたんだ。


 姉さんは勢いよく、玄関の戸を開け閉めして、バタバタ廊下を走ってきた。そして、僕の顔を見るなり、口をへの字に曲げて泣きだした。


「ユズル、ああ、よかった。あんた死ななくて!」

 そう言って、床にへたり込んでしまった。


 僕が無傷だったことをママさんが言わないはずがない。

「何で、そんなに大げさなんだよ。なんともなかったって電話で聞いたろ」

「だって、ユズルの顔見ないと、安心できなかったんだから」

 姉さんは指で涙を拭って、鼻をすすった。

「泣くなよ」

「うん」

 珍しく素直な姉さんだ。


「でも、マモルが悪かったんじゃないんだ。悪いのはぶつかってきた相手の船なんだ。マモルは僕が海に落ちたのを助けてくれたんだ。だから、命の恩人なんだよ」

 僕は早口で一気に言った。

 姉さんはわかってる、って言ったきり何も言わなかった。

 僕は姉さんにクドクドと小言を言われる覚悟をしていたので、拍子抜けした気分だった。



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