漁 1
「起きろよ。時間だよ。おい」
僕は夢うつつの中で声を聴いた。
夢の続きを見ているんだ、と思っていたら鼻をつままれて苦しくなって目が覚めた。
そうだ、今日から僕は、マモルについて漁に行くんだった。
昨日、マモルが急に僕を船に乗せてくれるって言うから、嬉しすぎて眠れなかった。
中学生になってすぐの去年の夏は、まだ、早いとかちびだからとか言って、相手にしてもらえなかったのに、急に姉さんの許可も取ったから連れてってやるなんて、びっくりしたよ。
やっぱり、一年で15センチ近くも身長が伸びたのが良かったのかな。
だけど、ああ、眠い。
今日から夏休みに入ったばかりで、ほんとうならいくらでも朝寝坊できるはずなのに、まだ暗いうちから起こされるなんて。
せめて、一週間ぐらい後からでもよかったかも。今、ちょっとだけそう思った。
「目が覚めた?」
マモルが笑いながら言う。
「うん、まあ・・・」
僕ははっきりしない返事をして目を擦る。
眠いのと、マモルが点けた電気が眩しいのとで、僕は目を開けていられない。
そんな僕を見てマモルは笑うけど、マモルだって眠そうな顔をしている。子供だからって思っているんだろうけど、マモルも僕と6つしか違わない。
僕たちは服を着替えて、ぼさぼさの髪であくびをしながらキッチンへ降りた。
「おはよう! ほら、シャッキリして!」
いつも元気なママさんがバシッ、バシッとマモルと僕の背中を叩く。
「ヒエッ!」
僕が小さな声を上げる。
マモルは肩をすぼめて苦笑いをしている。
「あはははっ。早く顔を洗っておいで。サンドイッチがあるからね」
ママさんは豪快に笑って言い、奥の洗面所の方へ僕たちを押した。
「今度は目が覚めただろう。俺は毎朝これで目を覚ますんだぜ」
マモルが歯磨き粉のチューブを絞りながら言う。
「ふわいへんなれ(たいへんだね)」
僕は歯ブラシを口に入れたまま言った。
でも、僕も姉さんに起こされる時は、似たようなもんだけど。