月曜日:デートをしましょう⑥
こよみのことは1人の個人として好きだし、その真っ直ぐさは尊敬せずにはいられない。だが恋人となるとなんだか違う気がしてならない。それとも今の俺にはまだ分かっていないだけで、1週間のお試し期間を経ることで分かることがあるのかもしれないが。
「私が言い出したことだからいいんですよ。そんなことより先輩、少しだけわがまま言ってもいいですか?」
「なんだ? 痛くないことだったらいいぞ」
「全く痛くないですから、少しだけ目を瞑って、じっとしててください」
こよみにそう促されるまま瞳を閉じてじっと待つ。いきなり腹パンとか肩パンとかだったら嫌だなあと思ったが、吉か不幸かまだ衝撃は来ない。
薄目を開けてこよみが何をするつもりか確認しようとした瞬間、顔の目の前に急に何かが近づいてきて、体が強張った。目を開けると少し背の高いこよみの顔がすぐ目の前にあって、妙に緊張した。
「あはは、取って食べたりしませんよ。まあ唇くらい奪おうかと思いましたけど」
「……それ、冗談だよな?」
俺たちはまだそういう間柄じゃない。こよみだってお試しと言っていたしな。
「冗談です」
「だよな……。心臓にわる――」
「本命はこっち、ですよ」
完全に心の油断と、体の脱力を見切られた。俺の隙を盗んだこよみに右の頬にキスされたらしい。しっとりとした湿り気と生々しいほどに近い吐息に、思考が停止する。
「ほぇ…………?」
「本当に先輩は攻められるのに弱いですね」
「よ、弱いとか関係ないだろ!」
「あの時も先輩はビビッて震えてるだけだったので出来たんですが、あの時は舞先輩に邪魔されちゃいましたからね。まあこれはこれまでの利子代わりってことで」
「こんな……。こんな返し方ないだろ!」
「まあまあ、唇は避けてあげたんですからいいじゃないですか?」
「全然よくない!」
そもそもなんで俺が抗議してこよみがケロッとしてるんだよ! 普通逆じゃないのか!?
「自分を大事にしろよ。ファーストキスじゃないのかよ……」
「大丈夫ですよ。ファーストキスではないですから!」
「え……?」
それは本当だろうか? いや、俺は中学時代のこよみを知らない。少年野球のアルバムで見たこよみは本当に普通の女の子だったし、もしかしたらこんな屈強になる前のこよみに手を出した男がいたのかもしれない。そればっかりはこよみの中学時代を知らない俺は知る由もない。いや、それを知ったところでどうのこうのしたり、しなかったりするわけではけどさ、それでも一応大事な後輩のことだし、いやでもそんなことを異性の先輩が首を突っ込んでも……。
「あ? ちょっとショック受けました?」
「べ、別に。人の過去のことをあれこれ詮索する趣味はねえからな!」
そうだ。全部過去のことだし俺が嘴を挟んでも仕方ない。気にせず流す方がいいはずだ。
外面は平静を保ってそう返した俺を、こよみはさも面白いものを見つけたかのようにニヤニヤしながら見つめていた。
「この調子ですね!」
「な、何がだよ……」
「先輩が私の事ばっかり考えちゃうように、先輩の頭の中を埋め尽くしちゃいます」
「それってどういう……」
「分からないなら教えてあげますよ」
そう言いつつこよみは俺の背に手を回し、ぐいっと引き寄せてくる。知ってはいたが強い力に逆らえず抱き寄せられ、さっきとは反対の頬に――じんわりと熱を感じる。吐息と耳奥に響く心拍がその他外界の刺激一切を跳ね除けてしまう。
きっと今の俺と同じくらい、その健康的に日焼けした頬を夕焼けよりも紅く染めてこよみは――
「この1週間で、先輩を私にメロメロにしちゃいますから」
――そう殺し文句を告げるのだった。




