月曜日:デートをしましょう②
さて、どうしような……。昼休みは刻一刻と迫っている。今は4時限目、もう幾ばくもなく授業は終わり昼休みは始まるだろう。こよみと1対1 というのは、普段なら多分何てことなかったのだろうが、前提条件が変われば身構えもするし緊張もする。
いっそ秋人と舞ともみじも連れて行くこうか? 最悪その内の2人にからかわれたとしても、間が持たないということは避けられそうだしな。一応秋人ももみじもこよみにとっては幼馴染に当たるわけだし、悪くない選択かもしれない。
「起立、礼」
そんなことを考えていたら授業終わりの挨拶に反応し忘れていた。
「あ、楓。今日のお昼だけど――」
そして舞は俺が立ちそびれたことを認識した瞬間にはもう隣にいるし、こいつ授業終了前にスタート決めてただろ。盗塁なら見事かもしれないが、ここは学校で、教室だ。
「すいませんね舞先輩。楓先輩はお借りしていきます」
そしてほぼ同速で舞の隣にいるこよみも何なんだ? 一年生の教室から授業終了のチャイムが鳴っている間にここまで駆けて来たとでもいうのか? こいつら何なの? 盗塁王なの?
「なあ秋人、一緒に中庭で飯でもどうだ?」
「悪いね楓、生憎と僕は昼休み彼女にメールするのが忙しくてね」
「そんなもの外でも出来るだろ!?」
スマホ片手に「いやーまいったねー」とか言ってるけど、こいつ絶対面倒くさいだけだろ!? ニヤニヤと底意地悪そうに笑ってるあたり、俺の逆境を見ておもちゃにする気満々だろ!
「いやあ、2人と一緒に飯食いながら彼女にメールするのも恥ずかしいじゃん?」
「いいから、メール覗いたりしないから!」
「……チッ、うっせーな」
しかもこいつ人の目の前で舌打ちしやがった! かなり本気で嫌そうな顔してるが、俺そこまでされるようなことこいつにしたか?
「はあ……、奥手ぶってないで早く行きなよ。別に女の子と飯なんて日常的に食べてるんだからさ」
「え?」
「え……?」
俺の疑問符に秋人が疑問符で返してくるが、何言ってんだこいつ?
「……楓、一応ボクも女子だけどね」
「ああ、そういやそうだな。うん」
確かにその通りではあるんだが、舞の場合接触するような距離でもなければそこまで女の子であることを実感することもないしな。それこそ性別欄に中間があれば中間でいいよ。
まあこの間までこよみの事もそう思ってたんだけど……。
「楓先輩、早く行きますよ? めぼしいパンが売り切れちゃいます」
こよみが急かしてくるが、生憎俺は弁当持参だ。購買にも中庭にも行かず、ここに籠城して秋人や舞、もみじを巻き込んでしまえば多少は精神的に楽だろう。購買に向けて教室を出ていくこよみの背に声を掛ける。
「あ、悪い俺自分の弁当があるから購買には1人で行ってく――」
「その弁当なら僕ともみじでいただいたよ。ご馳走様!」
そう言いながら秋人が俺に差し出したのは今日の朝俺が作ってきた”弁当だった”弁当箱だった。中身はきれいさっぱりなくなっており、しっかり水でゆすいだ形跡まである。これが友達のやることか……!
「何で早弁完了してる上に他人の弁当勝手に食ってるんだよ!?」
「うん? おいしかったよ?」
「中身の感想は求めてねえよ! 中身がなんでなくなったのか訊いてんだよ!」
それとなんでそんなことを小首を傾げてから言った!? 自作の弁当を褒められてちょっと嬉しいけどさ!
「いやぁ舞ちゃんから楓が今日の昼購買行くって聴いてたからね。それならもう弁当は要らないでしょって思っだから。丁度もみじが弁当忘れてたから助かったよ」
「だからと言って人の弁当勝手に食うか?」
「美味しかったんだからいいじゃん」
「何もよくねえよ!」
むしろ何がいいんだよ! パンを買おうにも金もねえよ。万事オールバッドだよ! 1つもオッケーなところがない!
「……良いから早く行きなって。何を言ったところでもう弁当は無いんだから、こよみちゃんと購買行くしかないんだよ」
何気ないような表情で放つ秋人の言葉の中に、幾つも含まれた棘が見え隠れしているような気がしてならない。
「……秋人お前、確信犯か」
「多少はね。楓のことだから絶対ビビッて僕や舞ちゃん、もみじを巻き込もうとすると思ったからね。弁当は迷ったけどあったら楓は理由つけてこよみちゃんと一緒に購買行かないでしょ?」
「うっ……」
確かにそうだ。理由を付けて俺はこよみと購買に行かない、みんなでご飯を食べようと画策した。だがそんなことまで何故秋人は先読み出来た? 舞から話を聞いただけでここまで俺を的確に追い詰められるのか?
「これはこよみちゃんと楓の問題なんだからさ。たとえ楓が女の子をリードするのが苦手でも、楓自身がやらなきゃいけないんだ」
「そうかもしれないけどさ……。今日くらいはみんなで――」
「女は愛嬌、男は度胸ってね。――いいからさっさと行ってこいヘタレ」
最後に本音が漏れたな。いつもニヤニヤと含み笑いをしながら人のことを弄んでくる秋人が全く笑っていなかった。だがどちらにせよこの分では秋人も舞も着いて来てはくれないだろう。舞なんかこっち見て手を振ってるしな。
教室の出口に差し掛かったところでもみじが俺の尻を叩いて、友達みんなにフラれた傷心の俺が思わず殴りたくなるくらい愉快そうに笑っていた。
「いやぁ、こよみちゃんは相変わらず楓にぞっこんだね」
「……そうかもな。あともみじ、お前後で弁当代請求するから覚えとけよ」
「覚えておく気があったら覚えておくよ。ぐっどらっく」
かなり直接的な”覚えるつもりがありません”宣言しやがって。やっぱりこいつら苦手だわ。
「せんぱーい?」
「ゴメン、今行く」
だが秋人の教えてくれたことも事実ではある。たとえ苦手でもなんでも、いつかは俺が乗り越えなければいけない壁だし、こよみにとってはそんなこと関係ないんだ。そう噛みしめながら、俺はこよみの手を握った。




