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VS常葉スパイダース再戦②

前回のあらすじ:後輩が子供帰りしてます。なんか様子がおかしいです(今さら)

 初回の【常葉スパイダース】の攻撃はストライク先行でバッターを追い込んで、低めのストレートやツーシームで凡打を打たせるという舞の新しいスタイルが冴えていた。

 2アウトから3番にシングルヒットを1本打たれたものの、後続の4番打者に対して、落ち着いてスローカーブを引っ掛けさせてショートゴロに仕留めた。

 4者凡退とはいえ、使った球数は10球と前回の試合と比べれば半分程度だ。負けず嫌いの舞がわざわざ用意したツーシームという新たな武器は、間違いなく俺の想像通り――いや、想像の上を行っていた。滑り出しとしては上々といっていいだろう。

 舞の調子もよさそうだし、俺のすべきことは如何に早く舞の待望の先取点を挙げるかだろう。

 【常葉スパイダース】の先発は前回も投げていた右のオーバーハンド。確か最速135キロくらい出ている本格派だったな。

 バッターボックスに立つと先の試合の大飛球が頭を過ぎる。あれでも良い手応えはあった。果たしてアレを上回りフェンスの向こうまで弾き返すことは可能なのか。実際打ったことは無いから可か不可かは分からない。

 ホームベースの外側の隅をバットのヘッドで軽く小突く。ホームベースとの相対距離をバットで測り「ふぅ」と一呼吸。ピロとの約束へ意識が傾き力んでいた体をほぐす。


「さあ来い!」


 腹の底から一喝し自分を鼓舞する。たとえ相手が強く思えようと、可否の分からないことでも、やって見せる以外に選択肢はないのだ。ソフト部のため、ピロのため、こよみのため、俺の自由のため――はこの際後回しか。どうせ拘束される期間も1週間程度だろうしな。

 この投手は良い投手だ。直球に力があり、秋人よりも高い身長から振り下ろしてくるようなオーバースローに、決め球の鋭く落ちるSFF。さらにはカウント取りのスライダーと変化球も充実している。

 だが付け入る隙はある。クイックモーションの不得手を見て取れるほど遅く、キャッチャーが並みなら俺や秋人なら余裕で盗塁出来ること。そして――


「ここだ!」


 2ボール2ストライクからのトップスピードとは言えないストレート。おそらくは110キロ台の棒球がベースの中心直上、俺の胸元の高さに飛び込んでくる。振り抜いたバットの特殊材質部に鈍い感触があった。これが彼の弱点――前回も狙った、SFFの失投だ。


「……チッ!」


 だが打った瞬間これでは駄目だということが分かってしまった。

 飛距離はそれなりに出たが、強く引っ張り切れなかった打球は右中間に高く上がり、回り込んだセンターに容易く捕球された。


「仕方ない、切り替えよう。狙いは良かったと思うよ」


 2ストライクから大きく外へ逃げるスライダーと低めの厳しいSFFに食らいつくようにカットし、甘い球が来るまで粘るところまでは行けたが、待望のその1球に打ち負けてしまった時点で俺の負けだ。口惜しさは残る。


「狙い通りだったんだけどな……」

「読みで打てるんだったらボクだって3割バッターだよ。そうじゃないから野球は面白いんでしょ?」


 そういって小さな拳を握りしめるのはいつの間にか隣に座っていた舞だ。ちょこんとベンチに腰掛けていると、やっぱりお座りする子犬みたいだな。


「そうだな。野球は身体でやるもんだ」


 確かに舞の言う通りだ。野球は頭で理屈を捏ね繰り回してやるものじゃない。

 勿論頭は使って当然だが、最後に勝負を分けるのは肉体だ。だからこそ俺は掌の皮がズル剝けになるまでバットを振り続けて用意をしてきたんだ。


「大丈夫。ボクの勝ち星は楓が守ってくれるって信じてるから」

「じゃあ舞のためにも今日は1発打たねえとな――これで打ったら今日の俺本当にヒーローみたいだな」

「いつだってボクにとって楓はヒーローだよ」

「柄じゃないだろ?」

「どーかなー?」


 柔らかそうな頬に笑みを含んで舞は立ち上がり、ダグアウトから身を乗り出した。

 打席には2番のちひろちゃんが2ボール1ストライクのバッティングカウントで4球目を待っているところだった。


「ちーちゃんファイトー!」

「変化球積極的に行けぇ!」


 その舞や秋人の声援に呼応するかのように、ちひろちゃんのコンパクトに振り出したバットが外へ逃げていこうとするスライダーを綺麗にセンター前に叩き返した。

 華はないけど流石は櫻井姉妹の片割れというべきか。


「ナイスバッチー! 僕も楓も中学生に負けてられないね!」

「ああ、頼むぜ」


 白い歯を見せつつ言い残してバッターボックスへ出て行った秋人だったが、初球で明らかに相手の渾身の力が籠ったストレートをフルスイングしてレフト定位置へのフライに倒れていた。

 確かに野球は頭だけでするものじゃないけどお前はもう少し頭を使え秋人。


「初球打ちとか相手を助けるようなものじゃねえか……」

「秋人くんらしいね」


 そう言いながらも舞は愉快そうに頬を緩ませていた。多分全力の真っ直ぐに全力の強振で応えた秋人の迎撃が好ましかったからだろう。

 俺個人としては出来れば多少球数を使わせて欲しいところだったが、秋人が初球を打ち上げてこれで2アウト。ランナー1塁で絶不調の4番・こよみに打順が廻る。

 その後のことは正直俺も予想してた。初球のカウント取の甘いスライダーを見落とし、1ボールを挟んだ3球目に低目の難しいストレートを振って空振り、終いに低目ボール球のSFFを振らされて空振り三振に倒れていた。読み合いも狙い球も窺えないされるがままの三振だった。


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