《2ー1》
なんか始まりが前と一緒な感じになってしまった……
朝から続いた演技指導の授業が終わる。
「つかれたぁ」
口々に生徒たちはつぶやく。
恵一は教室の隅においた自分のカバンへタオルを取りに行く。
普段はクーラーが付いているのだが、発表中、空調がうるさくて声が聞こえない。と講師がクーラーを切ったのだ。
今日は午前中、各々で稽古したのち、午後から発表だった。
午後の一番日が照っている時間にクーラー無しとか拷問だろ……
「なぁ……ちょっといいか?」
渡部が汗を拭いているオレに話しかけてきた。
「ちょっと俺たちの芝居観てくれん?」
「え、なんで?」
「いや、先生すぐ帰っちゃったからダメ出し貰えてないんよね」
「うん」
疲れからか渡部が何を言ってるかオレは理解できないでいた。
「ダメ出ししてくれん?」
え?なに?どういうこと?
「観た感想でいいからさ、教えてくれん?」
「どうした渡部?」
「あーいや……恵一にさ、ダメ出しして貰おうと思って」
横から光輝が入ってくる。
「昨日さ、思ったんだけど…」
「うん」
「お前、見る目あるなって」
「どういうこと?」
昨日、アレからオレたちは渡部の愚痴を聞きて、来季のアニメの話で盛り上がって……
オレが昨日の事を思い出していると渡部が語気を強めて言った。
「セリフ合わせしたとき、的確にダメ出ししてたじゃん」
「あぁー」
「え?でもそれのどこが見る目あるに繋がるの?」
どうやら光輝もオレと同じでよくわかってない。
「ダメ出しなんて誰にでもできるさ、」
「あぁ、誰にでもできる。ただお前は精度が高いって、そう思ったんだ」
渡部は昨日のオレを引き合いに語り出した。
聞けばなるほどと納得しそうな気になってきた。
だが、そんな渡部の演説に横ヤリが入る。
「やめといた方がいいと思うけどね」
「ちぃ…」
汗を拭きながら梨絵と美咲がゆっくりとこちらに向かってきた。
「私たちは「恵一君」がどんな人がわかってるし、渡部君も大体はわかってるかもしれない。でもほかの4人はどうかな?」
まぁ確かに渡部以外の4人とあまり絡む事がないな…
「あぁ……確かに、こいつ容赦ないからなぁー」
光輝が梨絵の話に加わった。
「いや、真剣に考えてダメ出ししてくれてるんだろうな。ってのはわかるんだけど…」
「結構ストレートにズバズバ言っちゃうから」
「みさき、最初ちょっと泣いてたもんね」
「うぇ⁉︎な、泣いてないし」
「評価してくれるのは嬉しいけどさ…」
「ねぇ今のままじゃダメだって思ったの。だからお願い」
ビッグ4の1人、麻理恵がやってくる。
「……めんどくさいなぁ……」
「なぁ頼む。気になった所を指摘してくれるだけでいい」
どうしたもんかね……
ちらりとちぃを見る。そっぽを向かれた。
自分で決めなきゃな…んーめんどくさいなぁ……
「1回だけな。あとどーなっても責任はとらないぞ」
「あぁそれでいい」
渡部がほかのメンバーを呼びに行く。
「よかったのか?」
「めんどくさいでしょ」
「同じクラスっていっても、一応ライバルなんだよ」
ちぃが言うのももっともだ。
「媚び売っといて損はないだろ。あとから恨まれてもいやだし……」
「優しいのはいいけど、ちょっとは考えなよ」
「わかってるよ」
「思いっきり泣かしちゃったら?」
笑いを隠しながらみさきが脇をつつく。
「準備できたよー」
渡部が教室の奥から声をかける。
「よーし。こっちで合図を出すから、それきっかけで始めてください」
教室内の空気が張り詰めていく。
「よーい……ハイ!」
大きく手を叩き恵一は合図を出した。