愛しき者の最期
ルモーレと別れ、そそくさと家に戻ると珍しく母親が起きあがっていた。ぼーっ、としており、そこは相変わらずのようだが。
俺が近づくと、母親は俺を見た。意識がしっかりしている。治りつつあるのだろうか。だとしたら、レミ女医は間違いなく凄い人だ。
「ねえ、ドビー」
「……何? 」
「私ね、なんだか懐かしい夢を見ていたみたいなの。ロセと、ザザリと……いろんな人と、一緒にいて、ふつうのしあわせな、暮らしを……」
意識はあるようだが、やはり、治ってはいない。祖父母が亡くなってすぐの時から会話のレベルは低いままだ。
しかも、ザザリ、と発言した。記憶の方もまだダメなようだ。
「わたし、もうダメかもしれないわ……ふつうのしあわせには、なれないかもしれない。ドビーは、ルモーレちゃんと、ふつうのしあわせに、なってね」
「──なんで、ルモーレと」
「だって、彼女は、女王様なの。わたしにはできなかったことなんて、彼女にとっては、簡単なの」
俺は困惑するしかなかった。確かに、ルモーレはあの女王様と同じ名前だ。だからと言って、女王様の生まれ変わりとは決めつけれない。
すると、突然、母親は倒れた。顔が真っ青だ。また眠ったとは思えぬ顔。まさか──。
「私が、楽にしてあげたのよ」
「レミさん!? 」
「あなたもバカよねえ、素直に従って、ミナに薬を投与し続けて……本当、バカとしか言えないわ」
「な……」
「ああ、そうそう。このことは、秘密だから」
その言葉に逆らおうと思ったが、気づいたら倒れていた──。
次に目を覚ますと、中央にある診療所にいた。いつものレミさんはいない。
頭痛がする。すると、マリウスが駆け寄ってきた。
「目を覚ましましたか」
「マリウス……俺はどうして」
「あの二人は白です。明日からNo.5ことマリアをあの屋敷で働かせたいと思うのですが」
「そうか、それなら構わないけど」
「早く戻りましょう」
「──ああ」
マリウスが一方的に報告してきた。俺のことを運んだのは彼ではないのかもしれない。
とりあえず、俺は昼からずっと見張りさせているシャルダンの元に急ぐことにした。
夕時に近づいているせいなのか、それともマリウスが戻らないせいなのか、シャルダンはイライラしていた。俺は近づき、声をあげる。
「いや~、さすがだよな、マリウス」
俺がそう言うと、シャルダンは落胆したのか、顔を俯かせた。俺はそんな彼の肩をポンと叩く。
「そろそろ交代するぞ」
「え、うん……」
嫌そうな彼をどかせ、俺は座る。すると、マリウスがやってきた。
「マリアが承諾しました。とは言っても、まず名前の定着からして難しいのですがね」
「まあ大丈夫だろう。彼女が奴隷だということもヘゼー家の夫人はきちんと理解するはずだからな。じゃあ、明日は任せた」
「はい」
マリウスはまた作業に戻った。こんなに遅く戻ってきて、咎めるのは事情を知らないシャルダンだけだろう。
俺は夕食まで一眠りしようと考え、目を閉じた。




