隣国の事情
夕方に家に戻っても、待っているのは孤独だけである。俺には、両親がいない。記憶は朧気だが、5年前におそらく自殺したのだ。
夕飯の時間まですることと言えば、貸本屋から借りてきた本を読むことだ。この村唯一の娯楽である読書。そしてそれは同時に、村人の学習の手段でもある。
今読んでいるのは、隣国・オーガストニア王国の歴史小説。この村の山を越えた先にその国はあるが、山があまりにも険しい為、国に行く為には村は通れない。俺が生きている間に行けるかどうかすら怪しい。
この歴史小説に書かれていることは全て事実だとされているが、あまりにも人外じみた人が多いので疑いたくなる。これは少し誇張して書いたものだろう、と俺は思う。
「今の国王はウェイリヒ4世なのか……」
貸本屋からはついでに隣国についての本を幾つか借りた。そして、隣国についての知識は段々と豊富になっていく。
この国と違うのは、王様が絶対的権力者であるということと、細かすぎる身分制度があるということだ。
「勉強になるけど、ルモーレは当たり前のように知っているんだろうなあ」
となると、自慢する相手は限られてしまう。ドビーならば、生まれてからずっとこの村から出たことがないはずだ。
夕食の席ではこれを自慢しよう──と思っていたら、ドアがノックされた。誰なのだろうか。
「あ、ジョナサン兄さん」
「先ほど領都から帰ってきて貸本屋に行ったが、隣国についての本、お前が借りてしまったと聞いたぞ」
「あ、もしかして読みたかった? 」
「まあな」
ルモーレも、ドビーも、そして俺も一人っ子だった。そして幼い頃よく遊んでくれたのはジョナサン兄さんだった。そのときからついつい、お兄ちゃんみたいだと思っていた。
だからこそ、今でもジョナサン兄さんと呼んでしまうのだ。
ジョナサン兄さんは中に入ってきて、ソファに座る。俺はお茶を出す。
「この村では歴史なんてそうそう興味持たないと思うんだが……ああ、そうか、ルモーレに感化されたんだな」
「まあそんなところかな。何不自由なく暮らせてるけれども、外に目を向けるのもいいなって」
「ほう。そうだ、隣国のこと、気になったか? 人外みたいな奴らばっかだろ」
「ああ。でも、あれって嘘なんだよな? いわゆる誇張した歴史物語──」
「いや、本当のことだ」
その言葉に驚いた。あり得ない。あんな人たちがいたら、この国も保てないはずだ。
「まず、今の国王の祖父、ウェイリヒ1世が素手で敵を5000ほど倒したという話だが、これは事実だと聞いたことがある」
「えっ」
「隣国では武器に頼らない戦術というのが編み出されていてな、ウェイリヒはそれを知らない敵を欺いた」
「じゃあ、2世と3世の決闘は」
「それもだ。ちなみに二人はとても仲が悪い為、決闘という名の殺し合いが行われた。そして最終的には3世が兄である2世を殺してしまった。4世はそんな2世の息子で、父親の敵をわずか15歳でとったという恐ろしい話もある」
「だからころころと王様が……」
「そうだ。それと、3世には跡継ぎとなる息子も娘もいない。味方だった貴族等は王様に何を言われるか分からないから、もちろん離れた。メルッサ王国の事情はともかく、隣国の事情は恐ろしいものだな」
そのようなことが日常茶飯事で行われているのも、また事実なのだろう。本当に、恐ろしいものだ。




