ルモーレと女王様
私はお昼ご飯を食べるために中央のロセおばさんのお店に向かった。
お父さんはお祖父ちゃんのお手伝いのついでに食べると言った為、である。私は料理がちっとも出来ない。だからこそ、お父さんが私とは一緒に食べないと言ったときには泣きそうになった。
中央に着くと、そこには幼なじみのドビーがいた。お店から出てきて、今から帰るといった様子だ。
「ドビー、久しぶり」
「お、ルモーレ。元気そうだな」
「まあね。そっちは? 」
「母さんが精神を病んでしまって、すごく大変で気が滅入りそうなんだ」
「大変そうだね」
「ああ、じゃあ、またな」
ドビーのお母さんは、私の記憶にある限りでは、寡黙だけれども、すごく美しい人だ。でも、村の他の女性と違っていたのは、いつも本ばかり読み、時折それを写し書きしていたことだ。
それは王都にいる職人のやるお仕事なのだが、貴族の女性ならば趣味として嗜むとか。しかし、ドビーのお母さんは農民の娘だ。働かない彼女は、疎ましく見られていた。
私も疎ましく見られていた彼女のようになりたくなかった。でも、私には家業の毛織物が出来ない。何度も機械を壊し、怒られてしまった。もう関わるなとまで言われた。
だからこそ、王都に行った。少しでも役立ちたくて、医者が少ないこの村にはうってつけだと感じ、薬学を学んだ。でも──それで、私はこの村の唯一の女医で偉大とも言われているレミさんのことが信用できなくなった。
彼女が、とてつもない詐欺師であるということ。そして、あることについても知りたくもなかったのに、知ってしまった。
私はお店に入る。私以外にはお客さんは誰もいなかった。
「あらあら、ルモーレちゃん。お帰りなさい」
「ただいま、ロセおばさん」
「今作るから、ちょっと待っていてね」
シャルダンのおばさんであるロセおばさんは、村の皆のために、と店を開いている。いわゆる食堂だ。
誰もいない今のうちに私はロセおばさんに尋ねた。
「この村って、あの山を神として崇める宗教がありますよね」
「そうよ。この村の人は、皆信者なの」
「それに仕える女王が昔いたそうですが──私は、その末裔ですよね」
「……」
ロセおばさんは明らかに動揺した。持っていた皿を落とし、割ってしまった。
王都に行けば、この村についての本なんてのも貸本屋にある。私は、薬学を学びながらも、この国についての知識や隣国などの地理も知ろうと思ったのだ。
そして、見つけたのが──『女王・ルモーレ』という本だった。イラスト付きで、私に似た女王ルモーレの物語となっていた。
ロセおばさんは割れた皿を片付けてしまうと、私を、睨んだ。その事実にたどり着いたのを、怒っているのかもしれない。だって、この村にはわざとのように村に関する本はないのだから。
しかし、すぐにロセおばさんはうなたれた。
「ルモーレちゃん。女王様の末裔はかなり昔に途絶えたわ。だから、その、あなたが生まれたときは、それはそれは大騒ぎだったわ。あの女王様にあったあの痣があなたにあったの。あなたのお祖母さんは、あなたが──生まれ変わりだと信じて、今も山奥で待っているわ」
よくわからない話だった。女王様の、生まれ変わり……?
確か、あの本にはそんな神秘的なことは書かれていなかった。私は、まだ奥深くは知らないという事なのだろうか。
「まあ、とりあえずパスタ、食べなさい。午後からは一緒に山に行きましょう」
ロセおばさんは穏やかな顔をして、私の大好きなパスタをくれた。
食後。少し休憩すると、ロセおばさんはマリーさんにカフェの方も頼み、私を引き連れて西のエリアに向かった。
ここは一度も入ったことがない。他の場所とは違い、簡単に入ってはならないとされている。私も両親に何度も注意された。それでも、遊んでいるとこの近くに来ちゃうこともあるし、ボールとか遊びの道具が敷地内に入ることもある。その際は──シャルタンさんがものすごい顔して私達を軽く説教した。
「ここのエリアは神聖とされているの。今住んでいるのはシャルタンとかジョナサンぐらいだけれども、それこそ、女王様の末裔がいたころは上流階級の人々がたくさん住んでいたのよ」
「上流階級って、貴族とかですか? 」
「ううん。ここはね、巫女とか神に近い者が上流階級とされているから、貴族ではないの」
「なるほど」
山の入り口を目の前にして、すぐ側にある大きな家からシャルタンさんが出て来た。
「おや、どうしたんだ、ロセ」
「少し早いかもしれないけれど、ルモーレちゃんをあの方のところに連れて行くのよ」
「ああ、そうか。ならば私も行こう。先ほどマリウスを帰した所だからちょうどよい」
よく分からないが、シャルタンさんまでついてくることとなった。彼もここに住むのだから、神に近い人なのだろうか。
ロセおばさんを先頭にして山を登る。とは言っても、中央にあるような綺麗なレンガが敷いてあるので、苦労はしなかった。
数十分後。突如として、建物が表れた。その周りの広場は綺麗なレンガが敷いてある。さながら、王都にあるあの古代遺跡みたいだ。
「いらっしゃいますか、ウレージミィア様」
「うるさい」
石が投げられた。それも、ほんのりと、赤い──。
でも、私は不思議と悲鳴をあげなかった。この光景に、懐かしさを感じていた。
「先ほど、ミハエルが罪を告白いたしましたので、処刑しましたわ。さあ、女王様──どうなさいますか? 」
私は、懐かしい声に、にんまりとほほえんだ。




