ドビーの母親
俺は昼ご飯を食べるべく、村の中央にあるミドワール商店に向かった。ここは日用品から食料品まで、何でも揃っている。村には欠かせない店だ。
ここの店主のロセおばさんはシャルダンの母親の姉にあたる人で、戸籍上、シャルダンの養母となっている。(シャルダンはロセおばさんが嫌いなので、一緒には暮らしていない。)
店に入ると、良い香りがしてきた。ロセおばさんの娘・マリーさんが店番をしているのを見る限り、奥でロセおばさんが作っているのだろう。丁度良いタイミングだ。
「あ、ドビー。いらっしゃい。もう少ししたら焼き飯が出来上がるから、奥で待っていてね」
「はい」
村人は大幅に減り、この商店もかなり痛手をくらっているらしい。だからこそ、この広い家を利用したカフェをオープンしたのだ。
マリーさんはふわあ、と退屈そうにあくびをしている。やはり、人は来ないのだろう。
カフェに入ると、ロセおばさん以外にはシュモンさんがいた。奥さんがいないため、食事をここでとるのはおかしいことではない。
それに、ロセおばさんの娘であるマリーさんと、シュモンさんの息子であるジョナサンさんは近々結婚をするのだとか。だからこそ、親である二人はよく打ち合わせをしているのだろう。
「おお、ドビー。お前も今から昼ご飯か」
「はい。そんな所です」
「ミナは元気か? 」
「……いえ。全くダメなんです」
「そうだよなあ。じゃなければ、ここに来ないよなあ」
「……」
俺の家は父親がいない。村の慣習により、山にあるシャルタンという施設にずっといる。母親はそんな父親が出て行く前に犯した罪を目の当たりにし、気をおかしくしてしまった。
その後は祖父母の支えもあり、精神的にも安定していたが、二人が相次いで亡くなるとそれは簡単に崩壊した。喋らなくなり、そして、食事もあまりとらなくなった。無理矢理食べさせれば吐くので、食べたくなるまでは寝かせなければならない。
「ミナもどうしてあんなのを愛そうと思ったんだろうなあ」
「そりゃあ、彼女は余り物だったからだよ」
カウンター席に座ると、ロセおばさんが焼き飯を渡してくれた。一口、食べる。美味しい。本当に、美味しい。
しかし、昔は美しかったらしい母親がなぜ、余り物扱いを受けなければならないのだろうか。
「ミナは昔から気難しいところがあったの。女の私からしてみれば、友達にはいらないような人ね」
「ミナの兄である俺の前で悪口とはひどいぞ、ロセ」
「でも事実でしょう? 彼女、お見合いの為に領都に行ったのに全部ダメだったじゃないの」
「──まあ、そうだが」
「彼女はやたらと愛を欲しがっていたわね。それに、愛の素晴らしさとか色々語っていたわ。それが領都の貴族には嫌がられた。だって、極論を言うのならば、それは平等を説かれるのと同じくらい貴族は嫌悪感を抱くのだから」
「失敗し、笑い物となったミナはミハエルに惚れた。真の愛がどうたら語っていたなあ」
「ミハエルは外面だけいいからだまされたのよ」
俺の父親、ミハエルは自分の地位が高いことを上手く利用して犯罪を犯す人だった。母親と出会い、やめたらしいが、それはあくまでも母親の話なので、嘘かもしれない。いつも、夢やら愛やら空想の世界を語っており、信憑性はかなりない。
「ドビー、あなたはああならないでよ。立派な人になってほしいわ」
「ロセ、それはどうだろうな。ミハエルが罪を告白すれば、ドビーも処刑されてしまうだろう。もちろん、ミナも、だ。俺の両親がミナとは縁を切っているから、対象になる」
「そうだったわ。女王がいたら、すぐに決まるのにねえ……」
「そうなんだよな。早く見つけないとな」
この村では、慣習として全てのことが連帯責任になっている。嫁いできた者というのは基本的に除外されるのだが、俺の母親は祖父母に嫌われたが故に、完全に父親や俺と同じ家の人間となっている。そのため、父親が罪を告白すれば、母親までもが対象となる。
あんなんだが、一応母親だ。シュモンさんにとっては、妹だ。つらい気持ちになってしまう。
空気が重くなってきたところで、シュモンさんは立ち上がり、お金を支払って去った。
「ドビー、あなたも早く帰りなさい。母親のお世話、しなくちゃいけないでしょう? 」
「はい」
食べ終わった皿をお金と共に手渡しをする。
俺は立ち上がり、自宅に戻ることとした。
店から出ると、ルモーレに遭遇した。




