懐かしい人々との再会
「うわあ、懐かしいわ」
美しい山々、それに心地よい風。そして鳥達の鳴き声。──私はここを5年も離れていたんだ、と思うと凄いことをやり遂げた気がしてならない。
立っていると、村の奥から懐かしい声が聞こえてきた。この声は幼なじみのシャルダン=ヤコベ。幼い頃から両親と一緒にずっとこの村でたくさんの畑を作っているちょっと立派で自慢の出来る奴。
そんな彼が、走ってきた。
「お、ルモーレ! 帰ってきたのか」
「シャルダン、ただいま! ねえ、元気だったかしら」
「ああ。それにしてもルモーレ……5年経つと近寄りがたいぐらい変わったなあ」
「そうかしら? 」
「村じゃはかねえようなスカート身にまとってさ、気取ってんのか? 自慢してんのか? どっちなのかさっきから気になるんだよ! 」
「え……私がお勤めしていた場所だと当たり前だったわ。シャルダンとおんなじズボンはいていたら怒られちゃうわ」
「ひえー、んなとこよく行ったな」
「知っていたから行ったのよ。さ、早くお父さんのとこに行かなきゃ」
実は私はこの5年間、ほとんど旅をしていない。元々、2年経ったら帰ろうと考えていた。でも、途中でお母さんが亡くなったと聞いた時には気まずくなって、とっさに王都のお屋敷に勤めるという手紙を送ってしまった。仕方なく就職したものの、条件として3年間働くことが言い出されたがゆえに、3年経つまでここに戻ってこれなかった。
今私がシャルダンに言ったことは手紙の内容をふまえた嘘。本当は外で就職したくて旅に出た、という内容の手紙を送ったからシャルダンには口を合わせた。
シャルダンとは小屋の近くで別れた。
村の奥にあるメルッサ山脈。そしてその麓にあるこぢんまりとした木の小屋。ここが、私の生まれ育った実家。お部屋は私のと両親、それから居間。3部屋しかない小さな小屋だけれども、私はこんなところが好きだ。
「おお、ルモーレ。お帰り」
「──ただいま。あの、お父さん。その、ごめんなさい」
「外を見ることは良いことだ。村人にとっては誇りだ」
「そうかな」
まずはお墓参りをしよう、とお父さんが言った。私は荷物を置き、お父さんの後をついて行く。
お母さんのお墓は村の共同墓地の中でも、あのお屋敷の近くにあった。お墓も、かなり立派で、鮮やかなお花が添えられていた。
「このお墓はな、ヘゼー家がわざわざつくってくださったんだ。今まで娘を世話してくれたお礼です、と。月命日にはお花をこうやって添えてくれてな……」
「──すごいね、本当」
ヘゼー家。この村を治める、とても偉い人。5年前までこの村に10年間滞在していたが、今は王都にいるらしい。
でも、確か今年1年間また滞在するらしい。
「ほら、今日、月命日だからそれに合わせて来るぞ」
お父さんが振り返り、この丘から見える入り口を指さす。そこには、貴族がいた。ヘゼー家だ。
私は王都に行き、驚いたのだが、ヘゼー家は領主という立場ながらも、慎んだ生活をしているという。同僚のメイドが、ヘゼー村から来た私にヘゼー家のことを教えてくれた。彼女は彼女でヘゼー領の領都近くにある小さな町出身らしく、ヘゼー家のお屋敷が見えていたのだとか。
『なんていうかなあ、あのお屋敷が本家の住処とは思えないぐらいこじんまりとしているわけよ。2階建てで離れはなくて母屋だけ。広いお庭はまるで森みたいで、正面から見たらお花がたくさん咲いていたわけ。すごいでしょ』
と。貴族らしからぬというのは、今ここで見ていてもよく分かる。奥様は、質素なワンピースを着ていて、自分で持てる荷物を持っている。時折転びそうになりながらも、自分で歩いている。
「奥様、メイド達に辞められて困っていると聞いたんだがなあ」
お父さんは、ぽつりと呟いた。